物理系薬学

自宅、薬局でがんの早期発見! 病気の早期診断が可能に


轟木堅一郎先生

静岡県立大学 薬学部 薬学科(薬食生命科学総合学府 薬科学専攻)

どんなことを研究していますか?

新薬開発というと、薬を合成する化学者や、薬を細胞や動物に投与して薬効を評価する生物学者、薬理学者などのイメージが強いかもしれません。しかし物理系薬学の研究者も新薬開発に大きく貢献しています。

例えば、薬をより服用しやすくする、長時間効くように剤形に変える、患部やがん組織のみに直接お薬を輸送する方法を開発する、病気に関連するタンパク質のかたちを調べてこれに作用する薬物を見つけ出す、薬の体内での動きや関連する分子を可視化するイメージング、新薬候補物質の薬効や毒性を正確に理解するなど、テーマは様々です。

いつでも、誰でも、どこでも、簡単に分析できる

私は物理系薬学分野の一つである分析化学の方法を用いてがんやアルツハイマー病など様々な疾患の原因究明や早期診断技術の開発、薬物治療効果の評価を行っています。最近では『いつでも、誰でも、どこでも、簡単に分析できる方法の開発』に関心を持っています。

例えば、病気の診断の多くは、採取した尿や血液を検査室で分析して行われていますが、もし診断が病室や薬局、あるいは自宅で行えれば、より多くの人がいつでも検査を受けることができ、がんの早期発見なども可能になるはずです。また、このような診断は、薬剤師に調剤や服薬指導以外の新たな職能を与えることができるかもしれません。

また私は、『DNAアプタマー』と呼ばれる、標的分子に結合する1本鎖の核酸分子を利用して、血中の医薬品や疾患の指標となるマーカー分子を測定するための技術開発や創薬研究も進めています。

私達が生体成分の超微量分析に使用している質量分析計です。分子量の僅かな違いを利用して、血液や尿などの生体試料成分を数百種類同時に10兆分の1グラムのレベルで分析できます。
私達が生体成分の超微量分析に使用している質量分析計です。分子量の僅かな違いを利用して、血液や尿などの生体試料成分を数百種類同時に10兆分の1グラムのレベルで分析できます。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種→製薬会社や医療従事者

●主な職種→研究職、開発職、技術職、行政職、薬剤師など

●業務の特徴→医薬品の研究、臨床開発、品質管理など

分野はどう活かされる?

製薬会社に就職した卒業生は、新薬候補の探索研究、動物実験による薬効や毒性試験、ヒトでの臨床試験、製造段階と様々なステージで分析化学者として活躍しています。例えば探索研究では、薬物候補の効果を正確に評価するための新しい分析法が必要となります。また、動物実験では薬効や毒性の確認、臨床試験では薬が体内でどのように分布し、どのように代謝されていくのかを正確に知るための分析、製造段階では各工程で不純物がないかの品質管理のための分析などが行われています。各ステージで分析法は違いますが、私たちが安心して薬を服用するためには、すべて必要なプロセスです。

先生の学部・学科はどんなとこ

静岡県立大学薬学部は、4年制薬科学科と6年制薬学科に分かれており、薬科学科では『薬学関連分野における高度な専門性、機能性を有し、国際的に評価される薬学研究者の養成』を、薬学科では『医療チームの一員となり得る高度な専門知識を持った薬剤師および医薬融合型研究者の養成』を目標としています。静岡県内には製薬会社の工場や研究所が多数あり、本学卒業生が多く就職しそれぞれの分野で活躍しています。また、薬学科卒業生は病院・薬局薬剤師以外に医薬品医療機器総合機構(PMDA)や県の専門職員、大学教員としても活躍しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

最近、ライフサイエンス研究や創薬研究ではLabDroidという汎用ヒト型ロボットにより、私たちが普段行う実験作業を全自動化・高速化・高精度化することが可能となりました。皆さんが研究者として大学や企業で活躍する頃には、分析に関わらずすべての実験はロボットが実施する時代になっているかもしれません。

これからは、専門知識や実験技術はもちろんのこと、広い知識を持って自分の頭で何かを産み出せる研究者が必要となってきます。薬学の分析化学には、皆さんの柔軟な発想と創造力を存分に発揮できる研究がまだまだ数多く眠っていますし、自身のアイデアやちょっとした工夫が医療現場や分析現場で活用されうる実用性も高い学問分野です。私たちは学生と日々議論を繰り返し、トライアンドエラーを重ねながら、未来に向けた分析化学研究を行っています。あなたの想像力や創造性も分析化学分野で発揮してみませんか。

先生の研究に挑戦しよう!

ニンヒドリン反応によりアミノ酸が紫色に発色するのを知っている方も多いと思います。この現象を利用して身近な食品・飲料中のアミノ酸量を定量し、成分表示量と比較・考察してみてはどうでしょうか。このような分析法は吸光光度法といい製薬会社や臨床現場で実際に使われている方法と原理は同じです。発色の違いは特別な装置を用いなくとも、スマートフォンで撮影した写真をフリーソフトで画像解析して色の強度を数値化し標準品と比較することで求めることができます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

すべて分析化学者がお見通しです! 薬物から環境まで微量でも検出するスゴ腕の化学者

津村ゆかり、立木秀尚、高山透、堀野善司(技術評論社)

私たちが普段意識する・しないに関わらず、何かデータを得る過程において、必ず分析が行われています。分析は「縁の下の力持ち」としての技術的な役割についてのみ語られることが多く、サイエンスとしての面白さについて触れられた一般書はこれまでほとんどありませんでした。この本では、環境・食品・医薬品・犯罪捜査・工業など、様々な分野の分析スペシャリスト4人が、サイエンスとしての分析化学の魅力について、実例を交えながら面白く紹介しています。


中外製薬Youtubeチャンネル

個別化医療、関節リウマチ、自己免疫疾患など様々な疾患に対する患者の心情や医療従事者の想い、かかりつけ薬剤師や保健師活動の日常などがドラマ仕立てで表現されておりどれも心を打たれます。創薬研究者を希望する学生にとっても患者の苦しみや想いを知った上で進む道を考えてほしいです。ちなみに高校生の時に某製薬会社のテレビCMに心を動かされて、薬学部進学を目指したのは内緒の話です(笑)

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TED「有望な膵臓がん検査 なんとティーンエージャーが開発」

ジャック・アンドレイカ

16歳の時にすい臓がんの超安価な早期診断法を開発したアメリカの高校生のプレゼンテーションです。開発した経緯と、アイデアを実現するまでの過程がユニークに語られています。日本語訳や英語字幕もあり英語の勉強にもなると思います。サイエンスや医療など関連するプレゼンテーションも多いので、これをきっかけにいろいろ検索してみてはいかがでしょうか。
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