生物が持つ遺伝情報は、細胞の核の中にあるDNAにすべて書き込まれています。この情報を「ゲノム」と呼びます。例えば、人間のゲノムは30億塩基対の核酸の並びによって記録されており、その中に数万種類の遺伝子の情報が示されています。この遺伝子群が、生命体(細胞)を形作るタンパク質の設計図のようなものと言えます。
ゲノム情報は生物ごとに大きく異なっており、それぞれの特性を決める違いを明らかにすることが、我々人間が形作られる仕組みを理解する上で重要となります。ゲノム生物学は、様々な生物種のゲノム情報、時には人間個々人の情報までを明らかにし、各遺伝子の機能を詳細に明らかにする学問です。
後天的なDNA修飾パターンから生命の不思議を解き明かす
ゲノム生物学の中でも、私が専門とする研究分野は「エピゲノム」と呼ばれます。エピゲノムとは、DNA塩基配列の変化を伴わない、後天的な刷り込みによって、もともと持っているDNAに修飾が加えられることを言います。
この後天的なDNA修飾のパターンを、全ゲノムレベルで解析する研究をしています。例えるなら、ゲノムという全遺伝子情報の解析が“各生物の家系図作り”とするなら、エピゲノムの解析は、細胞が形成された後の“各細胞の家系図作り”と呼べます。つまりエピゲノムの理解によって、同じ遺伝情報を持つはずの細胞が、異なる形・仕組み・働きを獲得していく過程について、順を追って追跡することが可能となります。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
奈良県橿原市にある、県下唯一の医学部を持つ公立大学です。2024年に同じ橿原市内の新キャンパスへの移転が予定されており、新しい教育・研究体制に移行しつつあります。
ゲノム生物学は、近年の“次世代シーケンサーの登場”といった技術革新により、最もホットなトピックの一つとなっています。従来の生物学のみならず、情報学、統計学に精通した人材が求められており、世界中で競争が激化している点を踏まえて、幅広い分野からの人材交流が期待されています。
オープンリソースからの研究も可能であり、やる気とパソコンさえあれば、誰でも参加・活躍できるチャンスがある研究分野だと思います。
私が研究の対象としているマウスやラットは、ゲノムサイズが大きく、次世代シーケンサーを使用した研究を行うとなるとかなりの高コストとなります。ゲノムサイズの小さいシロイヌナズナ(植物)やアカパンカビ、酵母などの微生物は解析コストも安く、高校生でも解析が可能かもしれません。
あるいはオープンリソース(すでにweb上に公開されているDNAデータ、あるいは解析のためのフリーのソフトウェア)を利用すれば(コンピュータ言語などの基礎的知識があれば)自宅のパソコンでも研究可能です。
次世代シークエンサーDRY解析教本 改訂第2版
清水厚志、坊農秀雅(学研メディカル秀潤社)
シークエンサーとは、情報科学を使って生命を解き明かす技術のことで、具体的にはDNAの塩基配列を解析するための装置のこと。人の体のDNAは4種類の塩基という物質が30億対組み合わさり、その中に約2万の遺伝子がある。21世紀初め明らかになったこのゲノム情報は、大量のデジタル化できる情報を持ち、生命はコンピュータに乗せて解けることがわかり、シークエンサーは注目されている。
次世代シークエンサーは、これをケタ違いに高速化したもののこと。それによって、各個人の持つ病気の遺伝子…例えばガン遺伝子の迅速な診断が可能になった。この本は、初学者がコンピュータを使ってDNAを解析する、次世代シークエンサーの入門書だ。