「ボクサーの高速カウンターパンチ」、「目にも留まらぬ早業でカードをすり替えるマジック」など、肉眼で観察できない素早い行動をテレビやネットで見るとワクワクしませんか。魚類や節足動物は特に、危険から逃避する時や餌を捕食する時に素早い行動をします。
これらの行動は一瞬の出来事なので肉眼ではでまったく把握できませんが、ハイスピードカメラを用いると、急旋回してから加速して逃げる様子や、高速で突進しながら餌を吸い込む様子などを観察することができます。しかし、これらの高速の行動は、逃避行動をはじめ、まだまだ多くが謎に満ちています。特に、観察された行動パターンに、生き残る上でどんなメリットがあるのかがわかっていません。
行動パターンの意味を数理モデルや操作実験によって説明
私は魚類(マダイ、ウナギなど)を中心にエビ、カニ、コオロギに至るまで様々な動物を対象に、逃避行動を調べる研究に取り組んでいます。
まず、実際の捕食者(大きな魚など)やその模型で脅かすなどによって、逃避行動のパターンを記述します。そして、捕食者に食べられるのを防ぐ上で、その逃避行動パターンにどんなメリットがあるかを、数理モデル(餌生物と捕食者の動きを数式で表現)や操作実験(疑似餌を動かして実際の捕食者に攻撃させる実験)によって調べます。
最近の研究では、新たに開発した数理モデルを使うことで、一見すると魚の種類や動物種や実験条件によって異なる逃避方向パターンが、実は法則性を持っていることを見出しました。また、カニの横歩き、稚魚の群れの分裂、ウナギの細長い形を活かした移動など、様々な逃避行動パターンのメリットもわかりつつあります。
これらの研究は、動物の逃避行動への純粋な興味からスタートしましたが、銛付き漁における漁獲の効率化、自然界に放流した稚魚の生残率の向上、車・船と野生動物の衝突事故の減少などに役立つのではと考え、水産業や野生動物の保全への応用を視野に入れた研究も進めています。
「水圏生産科学」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「8.食・農・動植物」の「28.水産資源、養殖」
一般的な傾向は?
学部で卒業した学生は、水産に限らず様々な職に就いています。大学院修士課程を修了した学生は、環境コンサルタント、データ分析会社、水族館などで、海洋環境調査、データ分析、生物飼育において、専門知識を活かした職に就く傾向にあります。
長崎大学水産学部では、海洋生物はもちろんのこと、海洋環境、水産食品、船舶、流通など、「水産」を軸に様々な分野を学ぶことができます。2年生からはじまる学生実験や3年生での2週間の乗船実習など、実験・実習が充実しているのが大きな特色として挙げられます。また、東シナ海、有明海、大村湾といった異なる環境の海域に囲まれているという立地条件の良さも優れた点だと思います。
私のやっている行動学の分野は、まだわからないことだらけです。アイデアや観察次第で、学部4年生や修士課程の研究でも誰もがあっと驚く世界初の発見ができますよ。
まずは、水槽内や野外で魚や昆虫などを観察し、その行動や形態に疑問を持つことが大切だと思います。専門書や文献を読むことももちろん大切ですが、逆にそれらの知識に縛られて、大胆な発想ができない場合も多いです。知識のない状態での純粋な疑問というのが良いテーマにつながることもあるので、是非挑戦してみてください。