木や草を原料にバイオエタノールが作られたり、植物細胞の成分からは、スマホ用ディスプレイ画面の透明基板材料に使われる極細セルロースファイバーの開発が進められたりしています。このように再生可能な木質バイオマスから、エネルギーや化学品を生産する技術や産業は、バイオリファイナリーと呼ばれます。
木をかじるシロアリの遺伝子を制御し、木材の寿命を延ばす
木材を食料とするキノコやシロアリなどは、木造建築物に深刻な被害をもたらす有害生物です。キノコやシロアリは木材の主要な構成成分であるセルロースなどを代謝・消化する酵素を持っています。この難分解な木材細胞壁を分解する能力を有効活用しようと、私は、酵素の分解機構の解明に取り組んでいます。この酵素は、木質材料からエネルギーや化学品を生産するバイオリファイナリーに応用することができます。
一方、シロアリ制御法の研究も行っています。木をかじるシロアリの遺伝子の働きを制御することで、シロアリの活動を封じる制御法です。それにより、木造ビルや住宅に使われている木質材料の寿命をのばすことができるようになります。木材は大気中の二酸化炭素を光合成によって固定した生物材料ですので、木材の寿命を延ばすことは大気中の二酸化炭素量の削減につながり、地球温暖化防止に大きく貢献します。
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「8.食・農・動植物」の「27.森林科学、林産資源、バイオマス」
一般的な傾向は?
●主な業種→製造業(化学・食品)
●主な職種→開発営業
分野はどう活かされる?
木材の特性、キノコやシロアリの生理・生態に関する知識を活かして、キノコやシロアリから住宅や木材を守る製品の開発や販売に活躍しています。
講義では、実際に100種類の木材を手にとってもらい、木材が持つ外観や材質の多様性を感じ取ってもらいます。爪で押すと簡単に傷がつく柔らかく軽い木材もあれば、重厚で硬く容積密度が1を超えるため水に沈んでしまう木材もあることを実感してもらい、木材の材質に応じた最適な用途を提案してもらいます。
実験では、きのこやシロアリの遺伝子をすべて解析し、木材分解の仕組みを解き明かします。これらのバイオリファイナリーへの応用を目指します。フィールドにも出て行き、マイクロサテライトマーカーを使ったシロアリコロニーの活動範囲の推定を行い、シロアリの生態を研究します。また、キノコにより腐った木材の観察なども行い、生態系の中でのキノコの役割を考察します。
木材は、樹齢50年以上の樹木を切り倒して生産されます。この間、下草刈りや間伐など、多くの人が世話をしています。この様に貴重な素材なので、すぐに燃やしたりせず、先ず柱や梁など建物の材料として30~50年使ってから、次に家具などの材料に姿を変え、最後にバイオマス発電やバイオリファイナリーの原材料として有効利用することで、一生を終えさせてあげましょう。このためにも、また最近増えてきた木造高層ビルの維持管理のためにも、キノコやシロアリから木材を守ることは大変重要です。
【テーマ例】
・シロアリの飼育と産卵の観察
・シロアリの腸内共生微生物の顕微鏡観察
・キノコの生育量と培地の質量変化の測定
・キノコの菌糸生育速度の測定
・食品(お茶や酢など)によるキノコの菌糸生育速度への影響(生育阻害活性の測定)
シロアリの事典
吉村剛、板倉修司、岩田隆太郎ほか:編(海青社)
シロアリは木材を食い荒らす害虫だが、実はシロアリ自身の体にセルロース分解酵素を持っていることが、最近の研究からわかってきた。植物体を作っているセルロースを自由に分解できれば、それを用いたバイオマス資源利用が可能だ。
この本はシロアリの生態から産業利用法までいろいろな視点で書かれている。シロアリによるセルロース分解酵素の生産方法や、水素ガス生産などバイオリファイナリーの技術に役立つ情報を満載する。高校生と大学生が楽しく読めるように工夫されていて、また専門用語は用語解説がついている。木質材料をシロアリから守り耐用年数をのばす具体的な方法も紹介されている。
TOGO TV 生命科学系DB・ツール使い倒し系チャンネル
(ライフサイエンス統合データベースセンター)
「統合TV」は、生命科学分野の有用なデータベースやツールの使い方を動画で紹介するウェブサイト。2006年、文部科学省ライフサイエンス分野の統合データベース整備事業として開始されたもので、ほとんどの動画は日本語で説明されている。
生命科学で新しい研究を始める時、初歩的なことから学ぶことができる。周りに教えてくれる人がいない時に大変役立つ。統合TVの使い方を、生命科学分野の有用なデータベースやウェブツールを誰でも自在に解説しているのが親切だ。
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