清酒や納豆、漬けもの、みそ、醬油。これらは古くからある、微生物による発酵食品です。最近では、健康食品や医薬品もその発酵技術を応用して生産されており、それらの有効成分の開発や利用も進んでいます。また、藻類などの微生物でバイオ燃料を作る研究も活発になってきており、次世代のエネルギー供給源として期待されています。
現状はコスト高。微生物の性能を格段に上げる技術開発を
私は、微生物が生産する油脂について調べています。油脂類は、食品、化粧品、医薬品、化学品、燃料など利用範囲は多岐にわたりますが、微生物発酵による油脂は植物油からは得られにくい希少な成分を含み、食品や化粧品の素材として高い機能を持ちます。
しかし、現在までのところ、発酵生産で実用可能なものは医薬品と、一部の食品・化粧品に限られ、それ以外の製品はまだ世に出ていません。原因は発酵生産法がコスト高であることにあります。今後、微生物の性能を格段に上げる技術の開発が不可欠になると考えており、ゲノム編集などの先進技術の適用を進めています。
また、原料の低コスト化やSDGsに向けた環境保全への対策も求められています。ごく最近、火力発電で排出されるCO2を原料化して化学品や燃料となる油脂を発酵生産する、カーボンリサイクルの研究開発も始めました。
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「8.食・農・動植物」の「30.応用・環境微生物学、発酵学」
一般的な傾向は?
●主な業種は→食品、化粧品、医薬品、化学工業など
●主な職種は→研究開発、工場管理、企画、営業など多様
分野はどう活かされる?
食品や医薬品などの研究では、応用微生物学やその基盤となる生物化学の知識が不可欠なので、当研究室の卒業生はその知識を活用して業務をこなしています。ただし、大学の研究室で学ぶべきことは、科学や技術の理解や展開に必要となる基本的な考え方と、最先端研究を通じた研究開発の経験なので、就職にあたっては特定の狭い分野にこだわらない方が良いと思っています。むしろ異分野に挑戦する方が、その企業の多面性の創出につながることが期待できます。
広島大学工学部第三類(応用化学・生物工学・化学工学系)では、微生物による物質生産を中心に発展して、現在では、微生物をモデルとした生命現象の解明や、動物や植物を対象とするバイオテクノロジーなど、多彩な研究を行っています。従来、発酵工学講座を名乗っていたこともあって、「発酵」をキーワードとして連携しながら研究を行っています。
今、私たち人類が直面している種々の問題は、ほとんどすべて人類自身が作り出した問題だと思っています。したがって、それらの問題を解決するには、微生物や動植物を利用するというよりも、彼らとの共存によって人類が生かされているという意識を持って研究を進めることが大切ではないかと思います。
生物工学や応用微生物学は、自然に寄り添った考え方で、未解決の多様な課題を乗り越えるのに役立つ研究分野です。一緒に楽しく研究しましょう。
「発酵」について調べるだけでも、長年にわたる人類の工夫が見て取れると思います。また、我が国の伝統的な食品の製法は、世界でも珍しいものが多数あるので、それを調査することには、価値があります。発酵の本質は微生物が持っている酵素ですから、実験を行うとすれば、微生物そのものよりも、酵素の働きを調べる方がわかりやすいでしょう。