機能生物化学

超高級香料をより安価に合成する新しい酵素を作り、新しい製法を開発


佐藤努先生

新潟大学 農学部 農学科 応用生命科学プログラム(自然科学研究科 生命・食料科学専攻)

どんなことを研究していますか?

生物が、生命維持に必須なタンパク質・核酸・糖などの有機化合物(一次代謝産物)を生産するのは当然ですが、ほかにもバラエティーに富んだ有機化合物を生産します。それは、天然物または二次代謝産物と呼ばれ、現在10万種類以上知られています。

天然物には、ホルモンやフェロモンなど、生産者自身の中で重要な機能を果たすものももちろんありますが、多くの天然物は生産者自身にとっての機能がよくわかっていません。その機能不明な天然物を、人間は薬剤や機能性食品素材などとして大いに利用しています。

龍涎香(りゅうぜんこう)という天然の香料があります。マッコウクジラが食べるイカのくちばしが体内に結石として堆積したものです。中国では古来、龍のよだれと言われるほど珍重され、神経や心臓に効果がある漢方として、西洋でも高級香料としてシャネル5番に使われたこともあります。価格は金より高い1 グラム約10万円であり、世界で数十億円の市場があるとみられています。

生物合成による有用物質の生産

龍涎香はトリテルペンという炭化水素の一種を主成分とする油性物質です。植物や昆虫、菌類などによって作り出されます。私たちは新しい酵素を微生物から発見しました。この酵素を利用することによって、より安価なスクアレンという原料から龍涎香の主成分のトリテルペンを合成する新しい製法技術を開発しています。この製法をいかし、香料・化粧品や漢方・生理活性物質として産業界と提携して量産・実用化を目指しています。生物合成による有用物質の生産の好例の一つとなることが期待されます。

人工的に合成した龍涎香の香りを質量分析計で分析(写っているのは指導学生たち)
人工的に合成した龍涎香の香りを質量分析計で分析(写っているのは指導学生たち)
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→化成メーカー、製薬、化粧品、香料、食品

●主な職種は→研究、開発

●業務の特徴は→化学と生物の両方の知識が必要な業務

分野はどう活かされる?

基礎的研究、製品開発、機器分析、有機合成

先生の学部・学科はどんなとこ

バイオテクノロジーと有機化学の境界領域から新しい発見を行います。したがって、生物系と化学系の両方の学問の知識と技術の習得を行います。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

天然物探索はロマンがあります。天然物を発見したら、新しい生物を発見した時と同じように、自分の好きな名前を付けられます。もし、その天然物が生産者の中で重要な機能を果たしていれば、生命現象を解明する起爆剤になります。そうでないとしても人間にとって良い生理活性があれば薬剤等として人類のためになります。まだまだわからないことがたくさんあり、夢があり、そして実力もある、とてもエキサイティングな分野だと私は感じています。

最近は多くの生物のゲノム解析がわかってきていますので、天然物の新しい酵素を発見すると、数珠つなぎで新しい天然物を発見することが可能です。また、遺伝子工学(バイオテクノロジー)によって酵素の構造を一部改変すると本来の構造と異なる天然物(非天然型天然物)を作ることが可能となってきています。皆さんも「新しい天然物探し」や「新しい天然物作り」にチャレンジしてみませんか。

興味がわいたら~先生おすすめ本

大村智 2億人を病魔から守った化学者

馬場錬成(中央公論新社)

オンコセルカ症は、アフリカ・中南米で多くみられた感染症である。大村智先生は、この感染症の撲滅に挑む科学者で、2015年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。本書では、天然物がどのように発見されて、どのように社会の役に立っているかについて理解できる。また、大村先生の人生を通して、生物有機化学、天然物化学全般について理解できると思われる。



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