現在、88人に1人の割合で、自閉症などの発達障害の子どもたちがいると言われています。つまり、一般的な小中学校の2クラスに1人の割合であり、大変な社会問題となっています。一般には先天性の要因が大きいと言われますが、しかし、その発病メカニズムについてはあまりよくわかっていません。
そこで最近、ゲノム生物学からはエピゲノムという観点から研究が進められています。エピゲノムとは、DNAの塩基配列は変化しなくても、なんらかの後天的な化学修飾によって遺伝情報が変わってくることを言います。言い換えると、自閉症を先天的な要因にとどめないで、後天的な環境要因によって遺伝子発現が制御されることを示すものです。
私はエピゲノムの研究を専門にしています。自閉症は軽度な人から重度な人まで、その表現型が連続性を持っていることから、脳機能をつかさどる何らかの調節機構の破綻が原因ではないかと考えられます。2000年初頭、ヒトゲノムプロジェクトが完了し、ヒトの持つすべての遺伝情報がわかるようになりました。しかし個々のヒトの多様性がいかに作り出されるか、いまだに明らかにされていません。
エピゲノムは、DNA配列を変化させずに表現型を変化させる「個性」について考えるものとして、最近注目されています。自閉症・発達障害の実体の解明は、ヒトの多様性などの理解につながると思われます。私たちはこのエピゲノム研究をとおして、自閉症の発症メカニズムに取り組んでいます。
眠った遺伝子を呼び起こす 〜レット症候群の治療方法の確立を目指して〜
レット症候群は、女児にのみ発症する重度の神経発達障害です。原因となる遺伝子は、今から20年ほど前にX染色体と呼ばれる染色体上に存在することが明らかになりました。女性は2本のX染色体を持っており、1本しか持っていない男性と遺伝子の数を等しくするため、片方の遺伝子しか働かないようになっています。したがってレット症候群の患者さんでは、正常な遺伝子も持っているにも関わらず、その一部は働いていない状態になっています。
今現在、根本治療となる治療法は確立されておらず、患者さんやそのご家族は苦しんでいらっしゃいます。私たちは、遺伝子変異を持たない方の遺伝子を活性化させることで副作用のない根本治療の開発に取り組んでいます。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
一般的な傾向は?
●主な業種は→大学や民間の研究所
●主な職種は→研究職
分野はどう活かされる?
一般に、大学院で論文化した研究分野に関連した分野で、研究職を続けているケースが多いです。
金沢大学は、医学・薬学・理工学・人文学など幅広い分野を担う総合大学です。学問にとって、各々の専門性を突き詰めることも大変重要ですが、様々な分野との連携・融合もまた新しい学問領域の創設にとって極めて重要であります。金沢大学では、他分野の様々な人達との出会いが非常に容易であり、新しい研究分野を開拓するポテンシャルを持ち合わせている大学と思います。
世の中がiPS細胞などの再生医療分野に注目される中、ゲノム生物学の分野は地味ではありますが、わかっていないことだらけの分野であり、未開の地です。ヒトゲノムが解読され20年余経とうとしておりますが、遺伝子をコードしていない98%にも及ぶノンコーディングがヒトの生命活動にどのような意味を持つのか。この分野のさらなる開拓が今後のサイエンスの中核になってくると思われます。皆さんも、この分野に足を踏み入れ、新たな研究の世界を切り開いてください。
【テーマ例】
1.ヒト神経細胞の分化における化学物質の影響
2.マウス胎仔発達過程における母体栄養状態の影響