センダイウイルスという珍しい名前をもったウイルスは、マウスを自然宿主とする呼吸器病ウイルスとして知られています。1953年、東北大学医学部の石田名香雄医師が分離し、発見地の都市名の仙台市にちなんで命名されました。
センダイウイルスは幼児の呼吸器炎症を引き起こすウイルスとして発見されましたが、実験用マウスコロニーで肺炎を起こし、マウスでもっとも感染事故の起こりやすい病原体の1つです。これまでマウスの系統によって感染抵抗性や感受性に違いがあることは知られていましたが、その遺伝的メカニズムは不明でした。
私は実験動物学を専門にします。具体的に、センダイウイルスの抵抗/感受性について調べ、マウスの系統によって感受性が異なる遺伝子座が存在することを証明しました。またその他に自然発症の疾患モデル動物の原因遺伝子の解析を行っています。これらはヒトの遺伝病と同じで、まだ解明されていないヒトの遺伝病の原因遺伝子を同定したり、さらにはその治療法の開発につながったりします。
また、疾患モデル動物の変異遺伝子がどのように発現するかなどを研究していますが、これらは一般的な病気の発症メカニズムや遺伝子の発現様式を明らかにすることにつながります。
実験動物福祉と動物実験倫理
動物実験を悪いことだと思ったり、必要のないことだと思ったりしている人がいるのではないでしょうか。しかし動物実験は、医学、獣医学、薬学、農学、生物学などあらゆる医学生物学研究にとって必須の手段です。
この実験動物学という学問は、遺伝子組換え技術やゲノム編集技術を用いて疾患モデルを作製する一方、実験動物の福祉、動物実験倫理なども含まれています。また製薬会社などで新薬を開発する際にも必要です。特に、新薬の開発の際には、動物実験などで新薬の安全性を調べることが法律で定められています。
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一般的な傾向は?
●主な職種は→大学教員、研究所の研究員、製薬会社の研究員
実験動物、特にマウス・ラットの遺伝学は、ヒトをはじめとする動物(特にほ乳類)において、遺伝子がどのような働きをしているのか、また、その働きが発現するためにはどのような機構(遺伝子間のインタラクション)が働いているのかを知ることができ、非常に面白いです。
また、獣医学部に実験動物学教室がある理由は、実験動物の病気を治療し、実験動物が健康に過ごせるよう獣医学的ケアを行うためです。また、そのような獣医師を育てるためです。このような実験動物の福祉に貢献できる活動ができることは、獣医師の使命としてやりがいがあります。
実験動物を遺伝学的に研究することは非常に面白いです。また、獣医師として実験動物を専門とし、実験動物の健康管理を行うことは世間ではあまり知られていませんが、非常に大切なことです。
【テーマ例】
実験動物の福祉:動物実験が行われている大学、研究所等で、実験動物に対する福祉がどのような形で行われているかを調べる。