実験動物学

マウスを用いた骨格系の病気の研究~遺伝子と環境要因の両面から解き明かす


阿部幸一郎先生

東海大学 医学部 医学科 基礎医学系(医学研究科 医科学専攻)

どんなことを研究していますか?

脊椎側わん症という病気を耳にしたことはないでしょうか。背骨が側方にわん曲する病気です。思春期の女子に発症することが多く、痛みをともなうことがまれなために発見が難しい病気です。体や姿勢に変形を生じたり、内臓機能低下を起こしたり、腰痛の原因になったりします。また、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)という病気があります。思春期前後に謎の炎症が起こって、骨痛や骨破壊を起こします。

これらの疾患の原因はわからないことがばかりですが、実験動物を使った実験から手がかりが得られています。動物が人間の病気の完全なモデルになるわけではありませんが、人間の疾病において新たな治療法の発見につながります。

慢性再発性多発性骨髄炎の原因遺伝子を、ひとつ特定!

私はいろいろな変異マウスを用いて、骨格系に関連する疾患を研究しています。特に古くからある遺伝学とエピジェネティクスという新しい分野に興味があります。エピジェネティクスは先天的な遺伝情報だけに頼らずに、環境や生活習慣といった後天的な化学修飾によって遺伝子が制御される現象を調べます。最近、私たちの変異マウスの研究がきっかけとなり、国際共同研究によりCRMOの原因遺伝子がひとつわかりました。しかし、十分ではありません。

多くの患者を悩ませる骨格系の疾患は側わん症をはじめ、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、関節リウマチなどたくさんあり、原因の多くはわかっていません。これは疾患の原因が遺伝子だけではなく、生活習慣や化学物質など後天的な環境要因が複合的にからみあっているためです。そこがエピジェネティクスを研究する大きな理由です。骨格系の疾患の治療は対症療法がほとんですが、遺伝子と環境要因の研究で原因をつきとめて根本的な治療を目指します。

バルプロ酸による二分脊椎と脊柱異常の誘導
バルプロ酸による二分脊椎と脊柱異常の誘導
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→大学院、研究所、再生関連、教育、飲食業、水産業、医薬品開発支援

●業務の特徴は→研究に携わる職種

分野はどう活かされる?

実験手技や研究計画立案などを学んで、研究所や企業で研究技術員や補助員として業務に活かしています。また、出身学部での専門を活かして水産業に就職した卒業生や医薬品開発支援で活躍する卒業生もいます。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
興味がわいたら~先生おすすめ本

マウス DNA生物学のゆりかご

勝木元也:編、吉川寛:監(共立出版)

トランスジェニックマウス、ES細胞、iPS細胞など、医学的研究に寄与した多くの研究が、もともとは実験動物であるマウスを用いて行われてきた。それらの分野の発展には、たくさんの研究者が関わっている。

マウスには、実験動物としての価値だけでなく、たくさんの魅力と興味深い研究者の歴史がある。この本はそのような魅力、歴史や研究の発展がわかりやすく示された良書だ。マウスを通じて、世界中の多くの研究者がつながっている。こうした研究者同士の共通認識とお互いに影響しあう文化が、研究の原動力になるのだ。 


マウス胚の操作マニュアル

Andras Nagy、Marina Gertsenstein、Kristina Vintersten、Richard Behringer 山内一也、豊田裕、岩倉洋一郎、佐藤英明、鈴木宏志:訳(近代出版)

マウスを用いた研究の歴史やその発生過程が、はじめにコンパクトにまとめられている。また、様々な実験手順が充実しており、実際に実験をしなくとも重要な情報が豊富に得られる。写真と図版を合わせて170近く掲載しており、ビジュアルでも理解が得やすい。 


マウス実験の基礎知識

小出剛:編(オーム社)

マウスの遺伝学、発生、脳研究、バイオインフォマティクスなど多くの分野を紹介した良書。ただ分野が広範囲にわたるため、それぞれの説明はやや表面的である。より詳細を知りたい人は、ここから先に興味を持った分野の専門書を読んでみるとよいだろう。 


Mouse Genetics

Lee.M.Silver(オックスフォード大学出版局)

マウス遺伝学の歴史や原理をわかりやすく説明した良書である。一部、技術的に古くなってしまった部分もあるが、それでも価値を失わない。英語だがとても読みやすい。



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