脳の重篤の病気の一つに脳腫瘍があります。脳腫瘍は消化器系や呼吸器系の腫瘍と比較すると絶対数はそれほど多くありませんが、たくさんの種類があり、臓器単位で比較すると脳腫瘍は最も種類が豊富で160以上にも分類されています。
具体的な発生原因は明らかになっていません。脳腫瘍のタイプ、あるいは腫瘍が脳のどの部分に形成されたのかでも異なりますが、腫瘍が大きくなると、脳を圧迫し体が麻痺したり、意識障害を生じたりします。脳腫瘍は多彩であるため適切に診断を下すことが難しい病気とされています。脳腫瘍の検査はCTやMRIを使った画像診断が日常的に行われていますが、それだけでは不十分で、最終的には病変部の組織や細胞を採取して解析する病理診断をしなければ脳腫瘍の分類を確定できません。そのため手術の時に採取された組織を、我々病理医が最終診断しています。
多数の症例を集めて、疾患の持つ特徴を明らかに
私は病理医で、脳腫瘍病理学を専門としています。そして脳腫瘍の病理診断と原因について研究しています。私は診断の非常に難しい脳腫瘍について、より高度で専門性の高い脳腫瘍の病理診断を提供することに力を入れています。それを追求するための様々な基礎研究を行っています。具体的には多数の症例を集めて、疾患の持つ特徴を明らかにするとともに、腫瘍細胞の性質の解析や、異常を起こしている遺伝子の探索などを行っています。
また、実は脳腫瘍は小児にも多いのです。小児腫瘍の中で最も多いのが血液腫瘍、2番目に多いのが脳腫瘍であり、脳腫瘍は若い方々にとって脅威となる疾患の一つです。
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病理学の後期研修プログラムあるいは大学院を修了後は、病理医として病理診断全般を担当する病理医、あるいは病理学研究者(研究医)になる方がほとんどです。一部の方は臨床医の道にも進んでいます。
一般的な傾向は?
●主な職種は→医師(臨床医、研究医)
業務の特徴は→病理医、病理学研究者、臨床医
分野はどう活かされる?
病理医は光学顕微鏡を主な手段として病気を診断します。自らの観察眼を頼りに、日常診療の中から新たな研究課題を見出す研究スタイルを大切にしています。
群馬大学は脳腫瘍の病理診断において、事実上のナショナルセンターとして約半世紀にわたり機能してきました。そのため全国から多くの脳腫瘍の検体が寄せられ、診断の確定や診断の標準化、さらには共同研究の実施などにより、社会貢献を果たしてきました。学内あるいは外部の様々な研究医療機関から、臨床系・病理系を問わず多くの若手医師が脳腫瘍を学びに訪れています。
スポーツや芸術の分野では10代20代の若者が世界的に活躍する例も珍しくありませんが、医学は大変奥が深いので生涯学習が必要であり、本格的に成果が上がるのは職業人生の半ばを過ぎてから、ということもよくあります。別の言い方をすれば、医学において天賦の才はあまり関係なくて、焦らず根気強く学んでいく姿勢が大切な分野です。まさに「継続は力なり」です。
医学や病理学の歴史をたずねてみると面白いと思います。現代医学は高度になりすぎてとっつきにくい印象があるかもしれませんが、ヒポクラテスの時代から今日に至るまでの医学の歴史には、人類が医学に託した純粋な思いがたくさん詰まっています。歴史学習を足掛かりに現代医学が抱える諸課題にも関心を広げてみてはいかがでしょうか。