グリーン・環境化学

水を水素と酸素に分解し、本当にクリーンな水素社会を作る


川本達也先生

神奈川大学 理学部 化学科(理学研究科 理学専攻)

どんなことを研究していますか?

水素エネルギーを使った燃料電池自動車が注目されています。外部から水素を燃料として供給して、充填した水素と酸素を化学反応させて発電し、電動機を動かして車を走らせます。メリットとして、二酸化炭素や大気汚染の原因となる有害物質を排出しないこと、電気自動車に比べエネルギー補給が短時間で済むことなどが挙げられ、究極のエコカーとして期待されています。

燃料電池は燃料を追加し続けることで長い時間連続して電気を取り出すことが可能です。燃料電池の利用範囲は広く、燃料電池自動車のほか家庭用燃料電池またはコージェネレーションシステム「エネファーム」、携帯電話の充電システムなどにも活用されています。

グリーン・環境化学の分野の中で、私は水の分解の研究を行っています。水を電気分解すると水素と酸素が発生します。その逆反応を利用して水素と酸素の反応から電気を作ったものが、自動車産業でも注目されている燃料電池です。しかし、水素をどこからどのようにして獲得するかが大きな課題となっています。

今日、「水素社会」の実現に向けて様々な取り組みが行われています。それは水素がクリーンなエネルギーだと思われているからです。しかし本当にそうでしょうか。実は大部分の水素は化石燃料を原料として製造されています。そこで当研究室では、太陽光と水を利用して水素を生み出すための、真にクリーンな水素製造システムを研究しています。

人工光合成の仕組みをつくることを目指す

また、もう一つの追求するテーマは、もう一つの水の分解物である酸素を生み出すシステムの開発です。水分解によってできる酸素を新たに生み出すことは、自然界の光合成と深く関係しています。それは化学合成によって人工光合成を実現することに寄与するものです。

グリーン・環境化学の分野は、私たちを含めた生物や自然環境に与える影響を十分に考慮して安心で安定した社会を創り出すための研究を行う分野です。原料には化石燃料のように将来枯渇が危惧される資源ではなく、水のように持続的に得られる資源を用い、また太陽光のように環境に悪影響を与えないエネルギーを利用して有用物質を得るための研究を行います。「人工光合成」の研究などはその代表例と言えます。

奈良で開催された国際会議。25年以上前にお世話になったポスドク先(カンザス州立大学)の先生(現カリフォルニア大アーバイン校教授)。
奈良で開催された国際会議。25年以上前にお世話になったポスドク先(カンザス州立大学)の先生(現カリフォルニア大アーバイン校教授)。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→化学・電機メーカー

●主な職種は→技術職

●業務の特徴は→様々な化学物質の合成

分野はどう活かされる?

化学物質に関する知識と合成経験を活かした化学・電機メーカーにおける新製品や素材などの開発

先生の学部・学科はどんなとこ

私の所属する大学には「理学部」と「工学部」が設置されており、理学部ではグリーン・環境化学を専門とされる先生が2名おられ、関連分野の研究をされている先生も私を含めて多数おられます。また、工学部でも燃料電池や資源の有効活用を目指した研究を専門とされている先生がおられるなど、科研費細目のグリーン・環境化学との関わりが深い大学と言えます。そのため、他大学に比べてグリーン・環境化学関連の授業科目が充実しています。環境問題や将来のエネルギー問題に興味のある高校生には、ぜひ私たちの大学にも興味を持ってもらいたいと思います。

神奈川大学湘南ひらつかキャンパスにて、研究室の集合写真。(2019年7月撮影)
神奈川大学湘南ひらつかキャンパスにて、研究室の集合写真。(2019年7月撮影)
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

現政権は2050年温室効果ガス排出実質ゼロとする方針を表明しています。これを実現する上で最も重要な分野がグリーン・環境化学であり、多くの皆さんに興味を持ってもらいたいと思います。

先生の研究に挑戦しよう!

太陽電池を作ってみよう

興味がわいたら~先生おすすめ本

田んぼが電池になる! 小学生にもわかるハシモト教授のエネルギー講義

橋本和仁(ウェッジ)

この本は「小学生にもわかる~」となっているが、高校生にも読んでほしい本だ。第一時限の「エネルギーってなに?」から始まり、目次を見ただけでもワクワクする。太陽に関する話題、光合成の話題、光触媒を用いて光で水を分解する話題など、「グリーン・環境化学」の学問領域と多くのところで関係があり、専門書以外にあまり出版物のないこの分野では、貴重な本だ。ハシモト先生は、光触媒、微生物電気化学、人工光合成の研究の世界的な研究者だ。


「役に立たない」科学が役に立つ

エイブラハム・フレクスナー、ロベルト・ダイクラーフ(東京大学出版会)

タイトルに凝縮されているが、この本には科学技術発展の真実が記されている。人間がもつ好奇心こそが発展の源であることを、文系理系関係なく、あらゆる人々が理解する必要がある。今もほとんどの科学者は、自身の興味の赴くままに研究を進めており、それを続けたいと願っている。地球を守る科学技術も一見関係のない研究から生み出されるであろう。まずはコラムを飛ばして読んでもらいたい。おそらく一日で読み終えるだろう。その後、2020年ノーベル化学賞の受賞対象である「CRISPR-Cas9」についても取り上げているコラムを読んでもらいたい。科学技術の発展をもたらしたものは何か、その正体を知ることになるだろう。



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