私の研究内容は、簡単に言うと「温故知新」で、現在進行形および将来起きる災害・問題への対応・対策を行うための知識・情報を、過去の類似現象の復元を通じて得ることです。そのため、海面変動とそれに伴う沿岸生物の地理的応答を研究していました。この研究は、温暖化に伴う大陸氷床の融解による海面上昇で、日本列島沿岸にどのような環境変化が起こるかを予測するためでした。しかし、2011年の東日本大震災の後、静岡県の過去の地震・津波の研究を開始しました。
静岡県は、東海地震がいつ来てもおかしくないと言われて、40年も経過しました。この間の防災教育で、県民の防災意識は高く、東日本大震災の映像に非常に強い衝撃を受けました。
そして、2020年1月1日の時点で、南海トラフにおける巨大地震の発生確率は、30年以内に70~80%、死者数は12万~18万人、被害総額は220兆円と推定されています。さらに、国は2012年に、南海トラフの巨大地震に伴う最大クラス(レベル2)の津波の高さを公表し、これまで対策の対象としてきた「東海地震、東南海地震、南海地震とそれらが連動するマグニチュード8程度のクラスの地震」による津波をレベル1としました。
津波堆積物の調査を開始
静岡県下田市・南伊豆町沿岸のレベル2(25 m)はレベル1(5~6 m)より20mも高く、住民の高い関心を呼んでいます。こうした状況を踏まえ、私は静岡県や伊豆諸島の各地で過去の地震・津波の調査を開始しました。
これらの研究で化石は大変に役立ちます。地震や津波の起きた年代を決定できるし、地盤の垂直変化量を解明できるからです。実際に、私は静岡県御前崎の海岸で隆起した貝の化石を発見し、1361年の地震で2.6m隆起したことを明らかにしました。また、下田では津波石のくっ付いているフジツボを発見し、その年代測定から1854年の安政東海地震の津波石であることを明らかにしました。
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一般的な傾向は?
●主な業種は→地方公務員、地質コンサルタント
分野はどう活かされる?
地震・津波防災の知識を活かしています。
私の所属学科には、静岡県の重要な課題である地震・津波防災に関わる研究・教育体制を、分野横断型で行うグループがあり、私もその1人です。このグループは、静岡大学防災総合センターの教員や客員教員、静岡県の「ふじのくに環境史ミュージアム」のスタッフとも連携して、研究・教育を行っています。研究・教育内容としては、津波堆積物、津波解析、古地震、地震解析、火山活動の履歴、バイオエネルギーなどがあります。
津波堆積物や古地震に関する研究は、社会的影響が大きいので、高校生には勧めませんとコメントしてきました。しかし、選挙権年齢が18歳に引き下げられましたので、津波堆積物の調査も、高校生レベルで可能です。ただし、ボーリングコアの掘削費用は安くはありません。