生物物理・化学物理・ソフトマターの物理

どろどろぐにゃぐにゃのやわらか物質の性質を解明する。コロイド粒子分散系


名嘉山祥也先生

九州大学 工学部 化学工学科(工学府 化学工学専攻)

どんなことを研究していますか?

塩水は、塩が水に溶けている水溶液です。一方、牛乳は脂やタンパク質が分散したコロイド分散系です。溶けているのではなく、分散です。どういうことでしょうか。

溶液中のコロイド粒子は普通の分子よりサイズがはるかに大きく、不規則に運動します。大きなサイズなので、溶液中で簡単に凝固・沈殿しやすいという特徴もあります。コロイド粒子の周りに正負のイオンが分かれて層をなす電気二重層が形成されます。電気二重層はコロイド粒子の界面で様々な相互作用を引き起こします。このコロイド粒子分散系は、種々の機能性材料・塗料の開発に利用されています。

私は統計物理学、流体力学、レオロジーを専門にします。レオロジーとは、コロイド分散系のように、固体と液体の両方の性質をあわせ持つ複雑な物質を扱う分野です。追求するテーマは、電解質溶液がコロイド粒子や固体表面近傍で作る不均一な電荷分布構造の物理です。この溶液の流れと電流が相互に結合する現象は、ナノ・マイクロ流路を利用した小規模な発電や、溶液輸送の手段として応用が期待されています。界面で起こる電解質溶液の物理は様々な現象に関わっており、生命において内と外を分ける細胞膜や赤血球などの分散粒子、工業的なナノ粒子、多孔質などの細孔の流れなど、多くの応用に基礎を与えるテーマです。

生きものはソフトマター

コロイドのような、曲げたり、引っ張ったり、熱や電場や磁場をかけたりした時の応答が素直な比例関係でない物質群をまとめてソフトマターといいます。これは金属や無機材料などの比較的硬いハードな物質との対比でもあります。このソフトな応答の解明に学問的興味は尽きませんし、また種々の材料開発の源泉にもなっています。広い意味では生きものもソフトマターです。柔軟でありながらも頑強に生命現象を維持するしくみは、従来の生物学、生理学、化学などからの研究対象でしたが、生命現象の普遍性という側面から物理学の研究対象でもあるのです。

この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→化学材料・高分子材料メーカー

●主な職種は→材料開発・プロセス開発 

●業務の特徴は→研究・開発

分野はどう活かされる?

ソフトマターの一つである高分子の物理を活かして種々の開発を行っています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

「化学」を学科名に含むコースはいくつもあります。化学工学を化学の一分野、とぼんやり考えるのは正しい誤りです。

化学工学はもともと化学プラントを対象とした分野なので、学問分野というよりは物質の性質とその工業化という実際的な知見の集合体という色合いが強いです。そのため、化学工学のカリキュラムでは、化学そのものはもちろんですが、物理や数学、分子や流れ、プラントとしての生物など広く(浅い?)科目を学ぶことが必要です。

これらをベースにエンジニアとしてのキャリアに進む人、より深淵な学問開拓に進む人、社会的な課題解決を志向する人、など様々な人材が生まれています。高校・大学で学ぶ学問は、間違いなく役立ちますが、個人の好奇心にもとづく探究が皆さんの明るい将来の糧となります。

先生の研究に挑戦しよう!

流路内の流れ、物体まわりの流れを基礎方程式にしたがって数値シミュレーションし、物体の運動を予測し、物質の移動、衝突、混合などを議論するとよいと思います。また『おもしろレオロジー―どろどろ、ぐにゃぐにゃ物質の科学 知りたい!サイエンス』を読むのも良いと思います。 レオロジーとは、工業材料から身近な材料まで様々な物質にみられるひとことで表すのが難しいぐにゃぐにゃとした感触を研究する分野と定義されます。この本は、多くのエピソードによってレオロジー的なものの見方を感じられます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

科学は冒険! 科学者の成功と失敗、喜びと苦しみ

ピエール=ジル・ド・ジェンヌ、ジャック・バドス 西成勝好、大江秀房:訳(ブルーバックス)

著者の1人ピエール=ジル・ド・ジェンヌはノーベル物理学賞学者。ソフトマターの物理の提唱者であり先駆者だ。ソフトマターとは、柔らかい物質ということ。生体高分子、コロイド、膜、界面活性剤などを指す。コロイドは、牛乳、デンプン、寒天のような物質のこと。この本は、こういう身近な材料で日常的に観察しているような現象に対し、普遍的で豊かな物理を見出す面白さを感じられる。


おもしろレオロジー どろどろ、ぐにゃぐにゃ物質の科学

増渕雄一(技術評論社)

ソフトマターはひとことで言い表すのが難しいぐにゃぐにゃとした感触を持つもの。工業材料から身近な材料まで様々な物質にみられるが、それを対象とした学問「レオロジー」とは、物質の変形とか流動一般に関する学問分野。適当な日本語訳は一般的にはない。血流の性質についての研究をする「血液レオロジー」、食品の口当たり、のどごしや化粧品などが肌に触れた時の感触など、その性質の精神的な部分を対象にする「サイコレオロジー」などといった学問もある。この本は、多くのエピソードを紹介し、レオロジー的なものの見方を感じさせてくれる。



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