天文に興味のない人でも、かに星雲やパルサー星雲の名前くらいは聞いたことがあると思います。かに星雲はおうし座にある超新星爆発の残骸で、中心からパルス状の可視光線、電波、X線を発生することから、パルサー星雲と言われています。パルサー星雲の正体は中性子星と考えられており、中性子星は、質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種です。その質量はとてつもなく大きく、中性子星の半径は10km程度しかないにもかかわらず、太陽ほどの質量を持ちます。
私は中性子星の物質を対象に研究しています。中性子星は星全体が主に中性子でできている星です。あらゆる物質の基本である原子は、さらに詳しく見ていくと、陽子と中性子という核子によって構成されています。核子はさらにクォークという名前で呼ばれる基本粒子3個からできています。クォークは現在知られている物質の中で、一番の基本粒子です。クォークとクォークの間はグルーオンと呼ばれる強い相互作用を媒介する粒子を通じて結ばれているのですが、私たちは、この強い力で結ばれた物質が密度、温度、組成の変化とともにいかなる状態になるかという問題を、中性子星物質を対象に、理論面から研究しているのです。
中性子星内部は、地球上の物質密度の1億×1000万倍
なぜ中性子星に注目するのか。中性子星内部で、通常の原子核を構成する核子は液体状態になり、地球上の物質密度の1億倍×1千万倍に及ぶ超高密度の状態になっていると考えられています。そのような高密度核物質という極限状態にある物質の性質を明らかにすることが、原子核物理と宇宙物理の境界領域として活発に研究されているテーマの一つなのです。
このような研究分野は、中性子星からのX線、ガンマ線や、超新星爆発で放出されるニュートリノ、また近年特に注目されている中性子星どうしの合体による重力波放出などの天体観測を通じて、天体物理と連携しながらますます発展していくことが期待されています。さらに、この分野は相対論的重イオン衝突実験という実験物理との関連からも注目されています。重イオン衝突実験は4兆度という超高温状態で宇宙創世時を再現しようという壮大な実験です。
「素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」
私たちが所属している物理学教室は、教育センターという学部・学科を横断する組織の中にあります。主として学部1・2年生の教養教育と専門課程の基礎となる物理教育を担当しています。物理学教室には理論・実験核物理、宇宙物理分野の教員の他に、物性理論・実験を専門とする教員も合わせて物理の多岐にわたる分野の人たちが集まっています。そのため、教室全体が一つの研究課題を強力に進めていくことは難しいですが、学内外で開催される研究会やセミナーを通じて、お互いの研究交流を図りながらも独自の研究課題にじっくりと取り組むことができるという環境にあります。
工学系の大学のため、私たちの教室のすべての教員が卒研を担当しているわけではありませんが、学生の希望に応じて、卒研生を受け入れることができます。
中性子星内部や重イオン衝突実験などで実現される、高温・高密度といった極限状況での物質の姿がどのようなものか、また、それを検証するにはどのような実験・観測をすればよいか、イマジネーションを膨らませてみませんか。
・太陽が半径10 km に収縮したら、内部の平均の密度はどのくらいになるか、見積もってみましょう。
・原子核をつくっている陽子、中性子(核子)はさらにクォークやグルーオンという基本粒子から成りたっています。しかしながら普通の原子核では、これらは核子から直接取り出すことができません。中性子星内部のように原子核の密度が大きな状況で、核子の中に“閉じ込められた”クォークやグルーオンはどのようになるでしょうか、考えてみましょう。
マクスウェルの魔 古典物理の世界
戸田盛和(岩波書店)
19世紀の物理学者マクスウェルは、分子の動きを観察できる架空の悪魔を考え、それが存在すれば、例えば冷めたコーヒーがひとりでに熱くなるとし、これをマクスウェルの悪魔と呼んだ。このようにニュートンの時代以来の古典物理の世界で物理学者を悩ませた問題を解説したのが「物理読本1」だ。以下、物理読本2は、「ミクロへ、さらにミクロへ」と題して量子論の問題を、読本3では「時間、空間、そして宇宙―相対性理論の世界」と題しアインシュタインの相対論の問題を、読本4は「ソリトン、カオス、フラクタル」と題し非線形物理の問題を扱い、それぞれ自然界の法則の本質を数式によらずに興味深く解説している。