三角形の内角の和は180°と勉強したことがあると思います。これは平面を扱うユークリッド幾何学から導き出されたものです。しかし地球のような球面を考えると、そこでの三角形の内角の和は180°より大きくなります。私たちがよく知っているユークリッドの考えた「普通の空間」とは、特殊な姿でしかありません。
私が研究している幾何学は、曲線や曲面など「曲がった空間」を考察の対象にします。そればかりか、目に見える空間だけでなく、空間に時間も加えた時空なども幾何学の対象になります。
私は主に曲線や曲面をはじめとして、曲がった幾何学的対象を考察します。具体的に、曲がった空間を微分するアファイン微分幾何学というものや、部分多様体論と呼ばれる分野を研究しています。アインシュタインの相対性理論は、3次元空間に時間を加えた4次元多様体という曲がった幾何学を導入したからこそ、あれだけ発展しました。幾何学の立場からは、時間や空間が絶対的な基準ではなく、時空間という抽象的な空間が曲がっているととらえることができます。
私の研究では「情報」のあつまりを空間ととらえ、空間の曲がり方やねじれを情報の空間に適用します。情報空間での角度とは何か、直線とは何かなど、基本的な概念から考える必要があります。
物理学や情報処理における統計モデルを、幾何学的視点から構築する
私が追求しているテーマの一つに、情報幾何学があります。曲がった幾何学は、物理学のほかに、統計モデルを用いた統計科学など情報系と密接な方法論的なつながりがあり、物理学や統計学との連携にも取り組んでいます。これまでに、統計学や統計物理学、医用画像処理との連携を行ってきました。
近年は大規模なデータの取得が容易になっていますが、少数のデータしか観測できない場合や本来は必要のないデータが多く観測されてしまう場合など、さまざまな問題が未解決です。情報幾何学の視点から、どのような理論が自然であるかを考察し、少数のデータやノイズの多いデータに対する効率的な統計モデルの構築に貢献しています。
自然現象は数学を用いて記述されるので、多くの他の分野の基礎となります。数学は理論を抽象化することで、現象を統一的に見ることができるようになります。理論として美しい数学を作ることが、結果として他分野にも有益だと思います。
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「3.地球・宇宙・数学」の「11.数学(解析、代数、幾何、複雑系、離散数学等)」
一般的な傾向は?
●主な職種は→システムエンジニア
分野はどう活かされる?
幾何学が専門ですが、ゼミでは統計学も学習します。昨今のデータ社会では、データ解析を行うとともに、それを理論的な視点から分析する能力は重要だと思います。
工学系の単科大学なので、工学を背景とする学生に数学を指導しています。大学院以降でなければ純粋数学としての幾何学を学習する機会はありません。研究室の学生などに対しては、数学理論を理解した工学の研究者・技術者となる指導をめざしています。
数学は自然科学を記述するための共通言語と思っています。また、数学における論理的な考え方は社会科学でも必要なものと思います。文系や理系という枠にとらわれず、幅広い問題に興味を持ってほしいと思います。
私の研究テーマでは、数学の他に物理学や統計学の知識が必要です。高校生の場合、統計学を先に取り組むのが良いと思います。高校の教科書に取り上げられている二項分布や正規分布を理解した後、実社会のデータがこれらの分布からどのくらい違うかなど、高校レベルの基礎理論の有用性と、さらに進んだ現実問題とのずれを認識することは良いと思います。
プロフェッショナル 仕事の流儀
(NHK)
毎回、仕事に情熱を傾けるプロフェッショナル中のプロフェッショナルの仕事振りや信念などをドキュメンタリー映像とインタビューで紹介する番組です。どんな分野でも、その道の専門家の話を聞くことは大変良いことです。まったく自分とは異なると思っていた分野が、将来的には深いつながりが出てくるかもしれません。
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