社会福祉学

精神保健福祉ソーシャルワーカーの資質向上に取り組む


大谷京子 先生

日本福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科/社会福祉学研究科 社会福祉学専攻

どんなことを研究していますか?

社会福祉は、弱い人を助けてあげる学問ではなく、様々な違いのある人たちが、より良く一緒に生きていく方策を探究する学問です。日本人の五大疾患の一つである精神疾患は、生涯有病率で4人に1人ともいわれます。ただ、義務教育ではそうしたことを教わらないので、日本人は精神疾患に関する基礎知識も乏しい状況です。精神保健は、子どもから高齢者まで、多くの人に関わる大切な課題です。そこに社会福祉の視点からアプローチするのがソーシャルワーカーです。

ソーシャルワーカーは、精神障害者やその家族に関わるだけでなく、一般市民に正しい知識を普及させることや、違いを超えて共生できる生きやすい社会を創造することが仕事です。私は、精神保健領域で働くソーシャルワーカーの資質向上に取り組んでいます。

ソーシャルワーカーは専門職アイデンティティをいかに形成するか

ソーシャルワークは世界一面白い仕事だと、私は思っています。ソーシャルワーカーは世界中にいて、同じ知識と技術と価値基盤をもって働いています。日本の社会福祉は遅れていると言われますが、誇れるところもたくさんあります。

私は、まずソーシャルワーカーがクライエントとどのような関係形成をするのか検証しました。さらに、「アセスメント」という、支援の根幹とも言うべき、「クライエントとクライエントを取り巻く環境を理解する」技術を調査しました。今は、ソーシャルワーカーがいかに専門職アイデンティティを形成していくのか、それは外国のソーシャルワーカーと同じなのか、どう異なるのかを調査しています。さらに、精神障害に対する人々の認識をどんな風に変えていけるかということも研究しています。

現在は、ソーシャルワーカーが専門的価値をいかに習得し、それを体現する「自己規定」と「対象者観」がいかに成長していくのか、そのプロセスを解明しようとしています。そのために、経験の浅いソーシャルワーカーから、経験年数15年以上のエキスパートの方まで、インタビュー調査を行っています。

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ソーシャルワーカーは研鑽し続ける職業、卒業後も研修

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な職種は→ソーシャルワーカー
  • ●業務の特徴は→対人援助職。医療機関や地域活動支援センター、社会福祉協議会や高齢者施設など、あらゆる社会福祉関連分野で働いています。
分野はどう活かされる?

社会福祉士、精神保健福祉士といった国家資格を持ち、専門的な支援を、個人や地域を対象に実践します。

先生から、ひとこと

社会福祉実践は、優しい人が親切心で行うものではありません。人と人が関わるという基本的な世界を探究する学問であり、実践です。

先生の学部・学科はどんなとこ

日本福祉大学は、日本で最も古くからある「社会福祉学部」を持つ大学です。70年近い歴史があり、全国の社会福祉業界で卒業生が活躍しています。志を同じくする学生同士の結束、実践経験の豊富な教員陣、地域の中で・地域とともに学ぶ姿勢が本学の魅力です。私のゼミでは、精神科病院の入院患者さんを対象にいろいろなプログラムを実践したり、高校生に向けて精神障害への偏見を解消するための啓発プログラムを実施したりしています。

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気合入れ。精神科病院で患者さんへプログラムの実施前

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
・精神障害者に対する偏見はどこからくるのか?
・精神障害者の施設建設に対する反対運動の実態と人権擁護

興味がわいたら~先生おすすめ本

狂気と犯罪

芹沢一也

人権を尊重し、誰も差別されずに基本的人権を享受するべきだと、私たちは理解しているにもかかわらず、相変わらず精神障害者は阻害されている。いかに精神障害者が凄惨な歴史を歩んできたか、いわれない差別を今もなお受けているか、その根本にある原因は何かを思索するための良書。精神保健領域で働くソーシャルワーカーの実践には啓発活動も含まれ、そのためには、精神障害者が置かれてきた状況とその背後にある一般市民一人ひとりの意識を理解しなければいけない。本書は、社会福祉を実践する時に踏まえなければならない視点を提供してくれる。 (講談社プラスα新書)


福祉の現場で働くあなたに伝えたいこと

青山良子

子ども施設の現場での経験をつづるとともに、福祉現場で働く人たちに向けたメッセージをまとめた本。ソーシャルワーカーの視点や、目の前の対象者と何を大切にしながら、どのように関わるべきなのかを学ぶことができる。 (川島書店)


心を病むってどういうこと? 精神病の体験者より

古川奈都子

精神障害の当事者による手記。生い立ちから発病、現在の生活や家族などについて書かれている。ごく普通の人が、たまたま精神病を発病するという現実と、その人がどのような気持ちで生きて過ごしているのかを学び理解することができる。 (ぶどう社)


ソーシャルワーク関係 ソーシャルワーカーと精神障害当事者

大谷京子

多くの調査結果をそのまま掲載しており、高校生には難解かもしれない。多くの調査を経て、事象を探究し、その研究を実践現場に活かすための提言をしている。実践と研究との循環を感じてもらえると嬉しい。 (相川書房)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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