社会に役立つことを見据えて、 量子コンピュータの基礎から応用まで
物理法則が性能を決める
私たち人類は科学技術を発展させて生活を豊かにしてきました。例えば、ロケットで宇宙に人工衛星を飛ばし、相対性理論を駆使してGPSを実現しました。コンピュータやインターネットがない現代社会もいまや想像できません。このコンピュータにはCPUやGPUが搭載されていて、自動運転技術や人工知能技術を支えています。
これら宇宙開発から計算機内部まで、その性能は物理法則の制限を受けます。科学技術は、はるか昔から行われてきた自然の中の真理の探究、自然のルールを知るところから始まり、それらを制御し人間や社会に応用するという工学的な視点でもって発展してきました。
量子の世界はルールが違う
この自然科学の大きなパラダイムとして、現在がわかれば未来がわかる、という考えがあります。ものの運動を記述するニュートンの運動方程式や電磁気を記述するマックスウェル方程式は、いまあるものが、未来にどうなるか、過去はどうだったか、微分方程式という形で決定論的に与えてくれます。
ところが、ミクロなものの自然法則は実はそうではありません。量子力学が教えてくれることは、未来にわれわれが得られるものについて確率的にしかわからないということです。
量子コンピュータの基礎から応用まで
私は、現在がわかれば未来がわかるという観点が面白く物理学を学びはじめ、その後、超流動現象など凝縮系物理・量子多体系物理と呼ばれる分野について研究してきました。
いまは先ほどの量子力学的な観点を取り入れた計算機、量子コンピュータを中心に研究をしています。特に、量子コンピュータを最適化問題・機械学習・暗号などへ応用する部分と、より基礎的な側面、これらに広く興味を持って研究しています。
現在扱っている分野は、自然だけでなくコンピュータまで含めたわれわれの新しい世界そのものについて知ることができ、それを人間や社会に役立つよう橋渡しするまでを見据えた研究ができる点で面白く感じています。
情報工学と物理学の両面から
現在、工学部の情報・通信工学課程で学生の教育を担いながら研究をしていますが、物理学の知識は役立っています。たとえば、私たちの世界の時間を虚数に拡張した虚時間というものが物理学にはあり、これを使うとものの見方を変えたり、計算に役立つ道具になったりします。
この虚時間と量子コンピュータを使って、役立つことができないか、いま探究しています。
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芝浦工業大学工学部では、2024年度から課程制に移行しています。従来の学科制では自分の学科の専門科目を主に履修しますが、課程制になることで、興味のある隣接分野の講義も履修しやすくなり、専門性を深めるだけでなく自身の興味に応じて幅広い知識を身につけることができます。
情報・通信工学課程では、コンピュータの基礎的なところから始まり、画像処理・自然言語・データ工学などの人工知能・機械学習といった現代社会の必須項目を学修・研究することができます。また、人とコンピュータとの関わりや通信技術だけでなく、量子コンピュータという未来のコンピュータについても学ぶことができます。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 物理学を学んだ視点で情報工学を学んでみたい。身の回りの自然の出来事を理解するには物理学と思っていたが、コンピュータがあまりにも身近になり、それらを含めた身の回りの世界を理解するなら情報工学なのかもしれない。 |