知能情報学

人物の状態推定システム

個人を特定しないデータで、人の姿・動きを推定するシステム


五十川麻理子先生

慶應義塾大学 理工学部 情報工学科(理工学研究科 開放環境科学専攻)

出会いの一冊

コンピュータビジョン最前線

編集:井尻善久、牛久祥孝、片岡裕雄、藤吉弘亘、延原章平(ムック本で、著者は毎号変わっています)(共立出版)

私の研究は主にコンピュータビジョンという分野のものなのですが、近年の機械学習技術の目覚ましい発展に伴い、新しい技術が提案されるスピードもとても速くなっています。

本書は年に4回発行されるムック本で、その時々の最新の旬な技術・手法が比較的平易に解説されます。今の技術でこんなことができるんだ!ということを把握する上でおすすめの書籍です。

こんな研究で世界を変えよう!

個人を特定しないデータで、人の姿・動きを推定するシステム

「人物の状態」はスポーツや見まもりに役立つ

私の研究では、個人の特定に繋がりやすい情報を活用せずに人物の状態を推定する、というテーマに取り組んでいます。「人物の状態」としては、人の姿勢や体格形状などを主に想定しています。

これらの情報が分かると、スポーツのパフォーマンス分析や、子供や高齢者の見まもり、XRコンテンツなどの多くの用途での活用が期待できます。

顔がわからないシルエットなら安心

人物の状態推定を行うために最も良く使われるデータは、一般的なカメラで計測した画像です。しかし、画像には顔などの個人情報が含まれやすいため、撮影されることに抵抗を感じる方には技術を気持ちよく使っていただくことができません。

そのため私の研究では、人物と背景が白か黒かのみで表されたシルエット画像や、無線信号、音響信号などの「個人の特定に繋がりにくい計測情報」を使用しています。

情報が少ないデータを機械学習でカバー

通常の画像と比較すると、シルエット画像からは大幅に情報が失われているということは、きっとご想像いただけると思います。

無線信号や音響信号についても、一般的な画像と比較すると保持可能なデータには物理的な限界があります。これには、信号の波長が大きく関わっています。一般的なカメラで計測される可視光の波長はnmオーダーです。一方でWiFiやミリ波などの無線信号の波長はmm~cmオーダー、音響信号の波長はcm~mオーダーです。これは、可視光はnmという非常に細かな単位で空間情報を捉えられるのに対して、無線信号や音響信号はそれよりも大まかな情報しか取得できないということを意味しています。

このような、取得できている情報が少ないデータから人物の状態を推定することは難しい課題です。課題解決のためには、機械学習という技術を使っています。近年の深層機械学習技術の発展に伴い、非常に多くの効果的な手法が毎年発表されているため、最新の動向を追いながら自分たちの課題を解決可能なアプローチを考えています。

機械学習に用いる人物の姿勢データを計測する際には、このように「モーションキャプチャスーツ」というスーツを着用します。スーツに付いているのは、再帰性反射材からできた球状のマーカーで、身体情報を正確に計測するための印として用いています。
機械学習に用いる人物の姿勢データを計測する際には、このように「モーションキャプチャスーツ」というスーツを着用します。スーツに付いているのは、再帰性反射材からできた球状のマーカーで、身体情報を正確に計測するための印として用いています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校生の時に受けた授業で簡単なプログラミングを行ったことをきっかけに、情報学分野に興味を持ちました。プログラミングと言ってもSqueakという、特にプログラミングの知識がなくても直感的に実装が可能なソフトウェアを使っていたのですが、当時の自分はこれなら苦手ではないかもと思い、大学も情報系に進みました。

情報工学にも様々な研究分野がありますが、大学、会社、留学先での研究活動を通じて少しずつ研究内容が変わり、今に至ります。

データの計測は、このような「モーションキャプチャカメラ」という計測機器が配置された部屋で行っています。
データの計測は、このような「モーションキャプチャカメラ」という計測機器が配置された部屋で行っています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「個人特定に繋がりやすい情報を活用しない人物状態推定システムの構築」

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研究室の集合写真です。
研究室の集合写真です。
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中高生におすすめ

モモ

ミヒャエル・エンデ、訳:大島かおり(岩波少年文庫)

確か中学生頃に叔母にプレゼントしてもらった本だったと思います。気に入って何度も読みました。時間とは何か?豊かな人生とは何か?について考えさせられる本です。


Computer Vision:Algorithms and Applications 2nd Edition

Richard Szeliski(Springer)

コンピュータビジョン分野に興味を持ってくださった方におすすめしたい本です。英語で約1000ページあるため普通に読むのは大変だと思うのですが、図だけを見てコンピュータビジョン分野の技術でこんなことができるんだ、と眺めるだけでも、この分野で扱う内容がなんとなく掴めるのではないかと思います。

ハードカバー本は高価ですが、個人的にpdfのコピーを閲覧するだけであれば無料で手に入れられます(2024年1月現在)。また、この本の2010年に出ている初版には和訳『コンピュータビジョン アルゴリズムと応用』があります。


コンピュータビジョン アルゴリズムと応用

Richard Szeliski、訳:玉木徹、福嶋慶繁、飯山将晃、鳥居秋彦、栗田多喜夫、波部斉、林昌希、野田雅文(共立出版)

Computer Vision: Algorithms and Applications初版の和訳です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やはり情報工学を選ぶと思います。楽しくて実用的でもあり、おすすめです!

Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

2人の子供の子育て

Q3.好きな言葉は?

「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」(SF作家アーサー・C・クラークの三法則より)
「未来を予測する最良の方法は、それを創ることである」(アラン・ケイ博士)


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