流体工学

乱流

雲の中の乱流をスパコンでシミュレーション。雲成長の謎を探る


齋藤泉先生

名古屋工業大学 工学部 物理工学科(工学研究科 工学専攻 物理工学系プログラム)

出会いの一冊

雲の中では何が起こっているのか 雲をつかもうとしている話 

荒木健太郎(ペレ出版)

気象学、特に雲と雨の科学についての一般向けの解説書です。普段私達が目にする、空に浮かぶ雲の中でどのように多様な現象が起こり、最後には地上に雨などの形で降ってくるのか、身近な例や写真、分かりやすい図表をふんだんに使って丁寧に説明しています。

理系の高校生や理科に興味がある中学生でも、十分に理解できる内容です。気象学・雲の物理学に興味を感じたら、まずはこの本を読んでみてください。

こんな研究で世界を変えよう!

雲の中の乱流をスパコンでシミュレーション。雲成長の謎を探る

雲はどのようにしてできる?

雲の中の雨粒の成長に、乱れた流れがどのように影響するかを研究しています。

私達が普段目にする空の上に浮かぶ雲は、約10μm程度の小さな水滴が集まってできています。エアロゾルと呼ばれるダストなどの微小な粒子を核として、上昇流の中で生成・凝縮成長し、水滴同士の衝突・合体による成長を経て、最後には数mm程度の雨粒として地上に降ってきます。

雨粒の成長を左右する乱流

一方で、雲の中は大小様々な大きさの渦が影響し合うことで複雑に乱れた流れになっています。これを「乱流」と呼びます。乱流によって雲の中の環境に乱れが生じることで、水滴の凝縮や衝突・合体による成長は変化します。

乱流の影響によって雨粒の成長はどのように加速されるのか、またその影響をどのように天気予報などで用いる気象シミュレーションモデルに組み入れればよいのか、未解明の問題が数多く残されています。

水滴ひと粒の運動から気象現象に迫る

私達の研究グループでは、乱流的な雲の中で多数の水滴が凝縮成長したり衝突・合体成長したりする過程を、水滴ひと粒ずつの運動を物理法則に忠実に計算することで、上記の問題の解明を目指しています。

大きさは一辺1m程の小さな領域の中ですが、その中で起こる数十億個の水滴の運動や、大小様々なスケールが入り乱れる複雑な乱流の流れを、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションで再現し、雨粒の成長の様子を明らかにします。

研究室での仕事風景です。大型計算機のシミュレーション結果を図で可視化しているところです。
研究室での仕事風景です。大型計算機のシミュレーション結果を図で可視化しているところです。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私の専門は流体力学という、空気や水などに代表される気体や液体の「流れ」についての物理学です。流体力学を初めて学んだのは大学の学部時代に友人達と取り組んだ自主ゼミでした。

高校物理の力学でおなじみの質点の運動と違って、空気や水の流れを数学的に解析できる点に新鮮さを感じたこと、また地球大気や海の流れなど身近な現象に応用されていることから、興味を持つようになりました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「雲乱流混合現象における雲粒子成長と乱流との相互作用の研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室でのミーティングの様子です。メンバーで定期的に集まって研究進捗の報告を行い、議論します。
研究室でのミーティングの様子です。メンバーで定期的に集まって研究進捗の報告を行い、議論します。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 電気機械・機器(重電系は除く)

(2) 電気・ガス・水道・熱供給業

(3) 自動車・機器

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 製造・施工

(3) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

鼠 鈴木商店焼打ち事件

城山三郎(文春文庫)

例え常識や当たり前とされていることでも、直接自分自身で確かめることの大切さを教えてくれる本です。この本は1918年の米騒動と鈴木商店焼き討ち事件に関するものですが、研究者にとっても大事な姿勢や取り組み方が書かれていると思います。

著者の城山三郎は、名古屋工業大学の前身である工業専門学校出身の作家で、本作以外にも『官僚たちの夏』などが知られています。


メエルシュトレエムに呑まれて(『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』に収録)

エドガー・アラン・ポー、訳:河合祥一郎(角川文庫)

渦の話なので選んでみました。メイルストロムとも呼ばれる、ノルウェー近海に現れる渦潮についての架空の短編小説です。自然現象の持つ圧倒的なスケールと強大さ、巻き込まれた人の感じる恐怖感や焦燥感が描かれていて、スリル満点です。

ポーの作品には他にも面白いものが沢山あるのでおすすめです。


フラム号北極海横断記―北の果て

フリッチョフ・ナンセン、訳:太田 昌秀(ニュートンプレス)

ノルウェーの伝説的な冒険家であるナンセンが、フラム号に乗って北極海を横断した際の記録です。流氷に密閉されて漂流しながら北極を横断するという歴史的な冒険の過程を、当事者の視点から知ることができます。

残念ながら本書は絶版になっており、書店では入手できません。まずナンセンについて調べてみて興味を持ったら、図書館などで借りるとよいと思います。私は大学図書館で借りて読みました。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

考古学。近年、最先端の測定技術・観測技術や機械学習・人工知能などを活用することで、これまでの学説を覆す新たな発見が次々に報告されており、ニュースでも紹介されています。異なる専門知識・技術を持つ研究者達が協力し、古代の謎を解き明かしていく姿には憧憬の念を抱きます。

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

『カタンの開拓者たち』。2〜6人程度で遊ぶボードゲームです。大学時代に同期の友人達とよく遊んでいました。友人達の方が強くて私は負けてばかりでした。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

家族で一緒にいる時です。買い物に行ったり、最近は一緒にゲームをしたりしています。

Q4.好きな言葉は?

「人間は、自分が見たいと欲する現実しか見ない」
古代ローマの将軍ユリウス・カエサルが残した言葉で、塩野七生『ローマ人の物語』からの訳です。もともとは人は噂に影響されやすいという意味らしいのですが、人は先入観や願望に惑わされやすいという意味で、研究者としてもこの言葉は肝に銘じておかなければいけないと思っています。


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