◆着想のきっかけは何ですか
船のスクリューが回ると船は推進し、水中はぶくぶくと泡立ちます。このスクリューが引き起こす流体現象は、速度が増すほど泡が多く発生する現象です。流体の速度が落ちると泡はなくなりますが、その際に、金属も破壊する衝撃力を発生します。
この衝撃力は、船のスクリューや液体ロケットエンジンなどを破壊する恐れのある害悪です。私はこの害悪による損傷を研究していましたが、これを逆に有効利用し、金属製の機械部品を高速の水噴流(ウォータージェット)で発生する「泡」で叩いて強くすることを着想しました。
◆どんな課題が解決されましたか
これまでは、機械部品の表面の強化には鋼球などを打ちつける方法が採られていました。しかし、これでは表面を傷つけ機械を壊す恐れがあります。その点、ウォータージェットで発生するのは泡(気泡)なので、表面を荒らさずに、車や航空機の機械部品の強度を向上できることが明らかになりました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
これまでは、水中で高速のウォータージェットを噴射して泡を発生させていましたが、世界で初めて、大気中でも泡を発生させることに成功しました。その結果、水槽に入れにくい大型の機械装置や大型構造物なども、大気中で強度を上げることができるようになりました。この研究は、金属製の機械部品の疲労強度や、寿命の向上に貢献します。
「泡(キャビテーション)」を、植物工場の水処理に用いることにより、安定した食料供給に役立てたり、飲み水を作るための水処理に利用することにより、「安全な水」の供給に役立てたりすることができます。「泡(キャビテーション)」は、非可食性バイオマスから、エネルギー源となるバイオエタノールを作るための処理にも活用できます。
さらに、キャビテーションによる機械部品の強化法は、自動車や航空機製造などの製造業に技術革新をもたらすことができます。タンカーなどのバラスト水の水処理にキャビテーションを使えば、シージャッカーと呼ばれるプランクトンによる環境破壊を減らすことができます。
高校時代に、利用できるエネルギーが熱力学の法則により限られていることを知りました。自分が100年に一人の天才だと思っていたら、理学部に進んで新たなエネルギーの開発にトライしていたと思います。
しかし天才ではないので、機械工学で効率よくエネルギーを使えば、新たなエネルギーを生み出すのと同じだと思い、機械工学を学ぶことを選びました。今、専門としているキャビテーションを用いて、新エネルギー創成も可能なので、夢を実現できるかもしれません。
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「14.ロボット・自動車・機械」の「56.機械工学(設計、エンジン、材料、流体等)」
◆「Cavitation Peening, Tohoku University」(Hitoshi Soyama)
液体の流れの中で泡の発生と消滅を生じる現象を、キャビテーションと言います。私たちの研究室では、ウォータージェット噴流などの流れ場で発生させた流動キャビテーションを、化学プロセスに活用する研究も行っています。
その一例として、流動キャビテーションによるセルロースの極微小繊維の生成に取り組んでいる学生もいます。また、キャビテーションの崩壊時には、高温・高圧になることや、化学的に不安定なラジカル分子が発生し、発光することが知られています。
この発光現象を捉えるために、当研究室は微弱光を検出する装置も所有しており、この装置を用いて、地震光の機構の解明にもつながる岩石の発光現象に取り組んでいる学生もいます。
◆主な業種
・鉄道
・一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等
・重電系、精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く
・鉄鋼、調達、物流、資材・商品管理
・電気・ガス・水道・熱器供給業
・交通・運輸・輸送
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
・設計・開発
・生産技術(プラント系)
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
OBのコメントを紹介します。
研究に関する専門的な知識のみならず、スケジュール管理能力、プレゼン能力といった社会に出ても役立つ能力も、身につけることができました。また、祖山研の研究テーマは金属材料の強度化など、世の中のニーズに合っていることから、就職活動の幅が広がります。
さらに祖山研では、科学技術振興機構主催イノベーションジャパンへの参加、小学校への出前授業といった、対外的に研究内容を発信する機会があります。このような経験を大学院生がさせてもらえる研究室は少ないと思いますが、就職活動においては有意義なエピソードとして語ることができました。
在学中はキャビテーションによる金属腐食の研究をしており、どのようなメカニズムで腐食が生じるのか、それを検証するために必要な試験は何かを、日々考えていました。祖山先生や同期と議論することで深めた材料強度の知識や、試験片や装置の作製を通して学んだものづくりの知識は、仕事に大変役立っています。
どのような製品を作る場合でも必ず必要となる材料強度の知識が身に付き、またものづくりの楽しさを学ぶ機会(私の時はCVT無段変速機のカットモデルを作製)に恵まれ、充実した研究生活が過ごせました。
当研究室では「材料力学」と「流体力学」を実験などにより、体感しながら身につけることができます。例えば「泡で金属を叩いて強くする」研究では、キャビテーションという流体力学的な現象を扱うので「流体力学」が必然的に身につきますし、金属を強くするメカニズム解明には「材料力学」の勉強が必須です。
当研究室の研究の根幹は、独創性だと考えています。独自設計・自主製作のオリジナルな世界唯一の装置を使って研究しています。世界的に見ても、他の追随の遥か先を行く研究を行っていると自負しています。
・生体や生物に発生するキャビテーション
人間の体内でもキャビテーションが発生しています。
また、生物のなかには、意図的にキャビテーションを発生させる生物がいます。
・身の回りのキャビテーション
水道の蛇口などでキャビテーションが発生します。
また、眼鏡などの洗浄にキャビテーションが使われています。
・キャビテーション発生装置
工夫すれば、人力でキャビテーションを発生させることができます。
Cavitation Peening
祖山均(YouTube)
スーパーカミオカンデや美浜原発の配管侵食事故の原因となった、キャビテーション。水など液体の流速が大きくなって液体の圧力が低下し、飽和蒸気圧より低くなった時点で気体に変化する現象だ。
この現象を理解するためには「液体にかかる圧力が低下すると気体に変化する」こと、そして「流速が大きくなると圧力が低下する」ことを理解していなければならない。また、気体が液体に戻る際には大きな衝撃力が発生する。本動画では、こうしたキャビテーションの過程で起こる各現象を、見やすい実写映像と解説で知ることができる。
https://youtu.be/BurRGrmOGQY
感動創造 技術者として 経営者として
長谷川武彦(PHP研究所)
2輪車の開発経験しかないのに、トヨタとヤマハ共同開発のスポーツカー「トヨタ2000GT」の製造責任者に抜擢された著者。レンタカーに寝泊りしてヨーロッパのスポーツカーメーカーを勉強して回り、開発した2000GTは世界の名車と呼ばれるようになる。信念が状況を切り拓くことを教えてくれるエピソードだ。
その他、技術者として、そして経営者として、逆境を乗り越えながら歩んだ著者の具体的な経験が描かれている。書名の「感動創造」はヤマハ発動機の企業目的だが、「創」の字には「つくる」だけではなく「傷」という意味がある。失敗を恐れて挑戦しないことを恥じる姿勢から、多くを学びたい。
私の独創教育論 「暗記偏重」教育が日本をダメにする
西澤潤一(PHP文庫)
「ミスター半導体」「光通信の父」と呼ばれた研究者である著者が、日本の教育を斬る。真の教育とは「教えを受けた人間が、自分の才能を最大限に発見できるように導くこと」であるとし、知識詰め込み型の教育では自力で考える力が育たない、それでは国を発展させる人材が生まれないと論じる。
刊行当時から教育を巡る状況は大きく変わったが、子どもの創造性を育む教育の理念とプランについて熱く語る言葉には、教育とは何かを考えさせられる。研究者を志す人だけでなく、技術者や教育者を目指す高校生にも読んで欲しい。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? イギリス。1994年から2年間、イギリスのノッティンガムで研究生活を送りました。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? 学生時代にトライアスロン部の創部に関わり、教員になってからは副部長、部長を務めました。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? ランニング。学生時代はサブスリーを達成しましたが、今はサブフォー程度です。 |