核融合学

核融合炉

核融合発電の実現に向けて、その規模や必要な資材が明らかに


後藤拓也先生

核融合科学研究所 ヘリカル研究部 核融合システム研究系/総合研究大学院大学 物理科学研究科 核融合科学専攻  

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設計を進めているヘリカル核融合炉のCADイメージ(共同で研究を行っている田村仁准教授の作成)


◆着想のきっかけは何ですか

核融合発電所は、エネルギーを発生する高温の炉心プラズマ、プラズマを閉じ込める強力な磁力を作る超伝導磁石、さらにプラズマからエネルギーを取り出すための様々な機器など、数多くのシステムから成っていて、そのそれぞれに難しい条件が求められます。

核融合発電所では、これら全てのシステムを限られた空間の中でうまく協調させる必要があり、それぞれのシステムの最終的な姿が明らかでない段階から、全体をどのように組み合わせるかを考えておく必要があると考えました。

そのために様々な分野の専門家と議論しながら、必要な技術や知識をきちんとした数字を基にまとめ上げるという研究に取り組みました。

◆何がわかりましたか

核融合発電所の大きさや発電量と、建設や運転に必要な材料の種類や量などとの関係が明らかになりました。これによって、どうやったら核融合発電所を実現できるのか、そのために今後どのような研究開発が必要なのか、またどういった学問を学べば核融合発電所の実現に関係した研究や仕事ができるのか、といった情報が提供できます。

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

核融合発電所の実現に必要な技術の、具体的な目標が明らかになります。その開発に必要な、様々な分野の学問の関連づけがはっきりします。

これによって、海水から燃料が得られ、二酸化炭素や超長期の管理が必要な廃棄物を出さずに、安定して多くの電気を作ることのできる核融合発電所の実現が近づきます。

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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核融合発電所ができれば、二酸化炭素を出さずに必要な電気を必要な時に供給できるので、太陽光・風力などの再生可能エネルギーと協力して、気候変動対策に貢献できます。

また、核融合発電所の建設には独特で高度な技術が必要なので、これらの技術を受け継いで発展させていく役割も果たせます。それ以外にも、豊富なエネルギーがあれば、水や空気をきれいにするなど、たくさんの面でSDGsの目標に貢献できると思っています。

この道に進んだきっかけ

もともとは文系志向で、科目としても文系の方が得意でしたが、中学時代に科学雑誌「Newton」と出会い、科学に興味を持って高校では理系を選択しました。その後どちらかというと原子力反対の立場から原子力に興味を持ち、その中で核融合のことを知って、これが実現できれば世界が変わるのでは、と思うようになりました。

核融合の実現に一番貢献できる仕事が研究者だったので、研究の道を志しました。大学の勉強や仕事については得意がどうかより、興味のあること、やってみたいことを選んで地道にやること、そしてそれ以外に没頭できる趣味を持っておくことをお勧めします。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

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居室の様子(普段計算解析に用いている計算機)

学生はどんな研究を?

核融合炉の実現のために必要な工学研究(主に実験)に取り組んでいます。具体的には、核融合炉で必要となる特別な性能(高温での強度・耐熱性・耐放射線性・耐食性など)を持った材料の新規開発、すでに開発済みの材料の性能の改良、異なる材料の接合など、機器製造のための手法の研究などが挙げられます。

過去の研究を参考にしながらも、学生自らが考え出した方法を採り入れ、将来の核融合発電炉にそれらが使われることを目指して研究を行っています。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

・その他の化学系

◆主な職種

・基礎・応用研究・先行開発

・大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる? 

多くの卒業生は専門知識・経験を生かし、核融合に関連した国内外の大学・研究機関において、研究者として働いています。核融合研究には非常に幅広い分野の研究者が必要で、特に工学においては、全く同じ内容の研究を行っている研究者の数は、数人程度と非常に少ないです。

そのため、測定器・分析器などの使い方も含めた実験の進め方や、ソフトウェアの使い方も含めた実験データの解析のやり方などの経験や知識があることは、就職後の研究機関において大きな利点となり、活躍の場が広がっています。

先生からひとこと

核融合炉は最先端の技術の粋を集めて作られるもので、エネルギー源としてだけでなく、その技術で未来の社会を大きく変える可能性を持っていると思っています。

より良い未来をつくるためには、様々なことに取り組んでいる多くの人たちが、お互いをよく知って力を合わせる必要があるので、ぜひ広い分野に興味を持って下さい。その中で、核融合についても知ってもらえればうれしいです。

先生の研究に挑戦しよう!

・核融合では少ない燃料から大きなエネルギーが取り出せますが、実際に他の発電方式で使われる燃料(石炭、石油、天然ガス、ウラン)とどのくらい違うかを、1gの燃料からどれだけのエネルギーが出るか計算して比較してみましょう。

・核融合では真空中に温度1億度、密度10^20m^-3(1立方メートルあたり1兆の1億倍個)の粒子を閉じ込めます。これは気圧でいうとどれくらいになっているでしょうか?また磁場(磁力)で閉じ込める方式では、磁場がもつ圧力(磁気圧と言い、磁場Bの2乗を2と真空の透磁率μ0で割ったB^2/2μ0で計算できます)でプラズマの圧力を支えますが、今の研究では一般にプラズマの20倍くらいの圧力が必要とされています。上の1億度、10^20m^-3のプラズマを閉じ込めるためには何テスラくらいの磁場が必要でしょうか。計算してみましょう。

・核融合を起こすにはプラズマが必要です。プラズマは宇宙空間から、身近な家電製品にまで幅広く存在します。プラズマの定義と、さまざまなプラズマの温度、密度を調べて比較してみましょう。

中高生におすすめ

図解でよくわかる 核融合エネルギーのきほん

「核融合エネルギーのきほん」出版委員会(誠文堂新光社)

核融合は次世代のクリーンなエネルギーとして注目され、研究が進められている。核融合エネルギーを理解するには、核融合反応とそれに関連するプラズマの知識、核融合反応の制御に必要な物理の知識、その実現に必要な工学技術の知識など数多くの知識が必要だが、本書ではそれが1つずつ順序立てて解説されている。

研究開発の歴史や現状、将来の実現への見通し、民間での取り組みや核融合が学べる場についてもまとめられており、一冊で核融合に関する情報を広く得ることができる。人類の未来を変えるエネルギーの可能性を体感して欲しい!


日本語練習帳

大野晋(岩波新書)

「うれしい」と「よろこばしい」という意味の似た2つの言葉。どちらの言葉も当てはまる場面もあれば、「うれしい」は自然だが、「よろこばしい」はおかしく聞こえる場面もある。意外と説明できない日本語の微妙なニュアンスについて学ぶことができるのが本書。伝わりやすい文章を書くことは、どんな分野・場面でもとても大事である。言葉の使い方というものについてじっくり考えることで、頭への良い刺激にもなるだろう。


Newton

(ニュートンプレス)

最新の研究に携わる研究者に取材し、実証的で分かりやすい文章で科学研究の「いま」が分かる。どの号も最先端の科学技術や研究について、イメージの湧きやすい図とともに解説してくれる。まずは、気になるタイトルの記事を読んでみよう。文系志望の人も、「ニュートン」を読んだら科学への興味がわくかも。


石橋を叩けば渡れない

西堀栄三郎(生産性出版)

戦前の東京電気(現・東芝)で真空管の製品開発を行い、その後京都大学で研究者に。探検家としてのキャリアを評価され南極越冬隊長も務めた、故・西堀栄三郎氏。彼の講演をまとめたのが本書だが、子どもの頃のことから、技術者となった後、南極やヒマラヤでの生活に至るまで、著者の経験から語られる人生哲学が面白い。一般常識に囚われず様々な業績を上げてきた氏の経験を知るのは、皆さんの考え方や行動の幅を広げるのに役に立つ。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

人間活動に関連する学問(哲学、心理学、政治経済など)

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』

Q3.研究以外で楽しいことは?

エレクトーンを中心とした音楽活動。社会人サークルにも入っています。


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