◆着想のきっかけは何ですか
私はクルマの運転が大好きなのですが、高速道路で渋滞に巻き込まれることは、特に大嫌いでした。大学生のとき、私は交通工学に興味を持ち、渋滞研究に取り組みました。渋滞の典型的な原因は色々考えられるのですが、高速道路での何もない真っ直ぐな区間で渋滞発生に至るメカニズムの科学的理解、そして渋滞解消の技術的対策は、当時、全くの未解明でした。
交通の流れは、大勢のドライバーのクルマで構成されます。さらに、トラックから乗用車まで多種のクルマがあるので、運転挙動は千差万別です。この個体差があることが渋滞の本質的な原因なのか。個体差がなくても渋滞を起こすメカニズムがあるのか。これらを、実現象の観測から実証的に明らかにすることは、極めて困難です。
私は研究者として、この課題へ長期にわたり多角的に取り組み、渋滞発生の解決を目指し、バーチャルリアリティ(VR)技術を使ってドライバーが運転するという、ユニークな模擬実験法を考案しました。これを、ドライビング・シミュレータと呼びます。
◆どんな成果が上がりましたか
ドライビング・シミュレータを使って、被験者に何度も同じ場所を走行実験してもらい、データを収集しました。その結果、ドライバーの運転挙動の様々な特性が複合的に絡んで、渋滞発生に影響することがわかりました。そして、個体差のない交通流でも渋滞が生じ得ることを立証する、貴重な知見を得られました。
◆この研究の到達目標は何ですか
例えば、クルマが増える合流部や信号交差点などは、通過する際に原因がわかります。しかし、特に高速道路で最も渋滞が多発する場所が、ごく一部のわずかな勾配変化箇所ということもあります。
VR模擬実験手法に限らず、冒頭の写真に示す実験車を用いた実道路での走行実験なども活用して、これら渋滞のメカニズムを1つひとつ理解し、渋滞原因となる各要素を技術的に対策すれば、渋滞箇所で発生する渋滞を完全に撲滅できるはずです。
道路交通が引き起こす渋滞・事故・環境影響の低減は、まちづくりや日々の生活の質の向上に直結します。自動運転技術や情報通信技術を活用した新しい交通サービスなどは、技術革新や新たな産業の創出に寄与します。
中高一貫校出身で、部活の先輩から「高1からは物理が難しくなるぞ」と言われ一生懸命勉強したら、俄然物理が面白くなりました。大学に入り車の免許を取ると車の運転が趣味となり、趣味と実益を兼ねられる交通工学に学部4年生で出会い、大学院進学を決めました。
中高は、部活のブラスバンド班で指揮者と班長を務め、大学では自主コンサートをいくつも企画・運営し多くのマネジメントを経験したこと。英会話が苦手で、大学院1年目に海外へ武者修行、1人で技術研修に行ったこと。大学院時代はずっと技術コンサルティング会社でアルバイトし、交通調査やデータ解析の実務を経験したこと。専門に関係することもしないことも、その後のキャリアへ大いに糧になりました。
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◆ 大口研究室HP
◆ 「都市とモビリティの未来」 (TELESCOPE Magazine)
・交通現象の科学的解明に関するテーマ
(例:道路ネットワーク上で、交通の流れが目詰まりを起こすような性能低下を、自発的に起こすメカニズムの解明)
・交通研究のために必要なツール・技術開発に関するテーマ
(例:ドライビング・シミュレータ実験環境における、周辺交通流再現手法の開発)
・交通制御・マネジメント技術開発に関するテーマ
(例:交差点から横断歩道をなくし、代わりに交差点間の街路の途中に横断歩道を配置することによる、交通安全上の意義に加えた交通流円滑化の効果評価)
◆主な業種
・自動車・機器
・ソフトウエア・情報システム開発
・交通・運輸・輸送
・金融・保険・証券・ファイナンシャル
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・設計・開発
・保守・メンテナンス・維持管理、運用・システムアドミニストレータ・サービスエンジニア
・技術系企画・調査、コンサルタント
・コンサルタント(ビジネス系等)
・サービス・販売系業務
◆学んだことはどう生きる?
交通の混雑、事故などの課題解決・改善・改良、より広い観点で社会の課題解決・改善に、自分の知識と能力を活かそうとする進路選択が多い。
高速道路会社に就職した学生は、交通分野の業務を希望。しかしながら、構造物の建設や維持・管理を担当する部署への配属が長かった。そして交通関連部署に配属されるや否や、担当する課題について早速私に相談しに来て、熱心に解決策の可能性を探る議論を重ねた。
一方、開発途上国支援を専門とするコンサルティング会社に就職した学生は、現地技術者の能力開発プログラムを担当。その際彼から、日本の交通対策の経験を紹介する講演を依頼された。途上国の技術者が自立できるよう、心を砕いていることがよくわかった。
近年、クルマの自動運転が話題になっていますが、道路だけを対象にしても、クルマ、自転車、バス・タクシー、徒歩など多様な交通手段があり、道路交通システムは極めて複雑です。さらに情報通信技術や、これまでの料金制度のキャッシュレス化、クルマを保有せずにシェアサービスで移動を享受する仕組みの模索など、ビジネス・マネジメントの要素も強くなっています。
数学、物理学の理学的な素養から、経済学、社会学のような社会科学、さらに地域性や文化・歴史までを考慮し、いかにして交通システムを安心で快適に利用でき、安全で円滑なものとしてデザインできるか。若い方の柔軟な発想と夢をもって研究し、この分野の新たな姿を生み出してください。
・身近な交差点の信号表示を調べてみよう。クルマだけでなく歩行者用信号もあります。 これらのタイミングを詳細に調べ、これらのタイミングや信号表示長さにどんな法則が見られるか、体系的に整理するとともに、それがどんな理由で決められているのかを考察してみよう。
・体育の時間に校庭を何周もマラソンしている生徒一人一人が1周に要する時間を計って記録してみよう。あなたの歩幅を調べておいて、マラソンコースの1周を歩いて数えた歩数から1周の距離を求めておけば、一人一人が各1周走ったときの1周当たりの速さが計算できる。
では、計測した全体の延べ周回数(各人の周回数の全員分)、すなわちマラソン走をしている「生徒達全体」に対する「平均の速さ」とは、どのように定義すべきだろうか。また、各人の各1周当たりの「速さ」の値を使って、この「全体平均の速さ」を求めるにはどのような計算をしたらいいだろうか。
ちなみに、各人各1周当たりの「速さ」を普通に「平均」したのでは「全体平均の速さ」は得られません。なぜでしょうか。交通の流れの全体平均の速さの概念には意外に不思議な特徴があることが分かるでしょう。
詭弁論理学 改版
野崎昭弘(中公新書)
人食いワニのパラドックスという、有名な詭弁術がある。人食いワニが女性の子供を人質に「自分が何をするか言い当てたら、子供を食わない。不正解なら、子供を食う」と言った。「その子を食うでしょう」と母親は言った。母親が正解なら、ワニは子供を食べられない。母親が不正解なら、ワニは子供を食える。しかし、食べてしまうと母親の予想は正しかったので、結果として食べられない。
この本はこうした詭弁やパラドクスを題材に、論理の遊びについて書いている。論理的思考、文章を記述する仕方を身につけるきっかけになる。最も文系的な学問である国語と、最も理系的な学問である数学が、実は非常に近い領域にあることがよくわかる。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スペイン。キリスト教とイスラム教のモザイク文化と、ラテン系の気楽な暮らし。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? オーケストラと、自主的な室内楽アンサンブル |
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Q3.会ってみたい有名人は? ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト |