「科学」2023年7月号
石田祥子ほか(岩波書店)
折紙研究に関する特集「Origamiの可能性」が掲載されています。
折紙研究と言っても、日本の大学に折紙学部や折紙学科があるわけではありません。折紙という独立した学問があるのではなく、「折紙を活用した製品や建築物」であれば工学系、「折紙をデザインするプログラミングやソフトウェア」であれば情報科学系、「数学的記述をもちいて折紙の本質にせまる」のであれば数学系、「折紙の芸術的価値や創作」であれば芸術系といったように、幅広い分野の専門家がそれぞれの視点で折紙の研究を行っていますので、折紙の何を勉強したいのかによって選ぶ学部・学科は変わってきます。
この特集記事にはさまざまな分野の専門家が関わっていますので、進路選択の一助になるのではと思います。
宇宙開発から、自動車の燃費、地震対策も、折紙で解決!
世界で注目を浴びる折紙工学
折紙は折ることによって平面から立体へと形が変化するため、大きな構造をコンパクトに収納するための設計に活用できます。
例えば、宇宙工学分野では、小さく折ってロケットに収納し、打ち上げ後に広げて運用するソーラーセイルが挙げられます。私たちの身の回りにも、折りたたみ椅子、自動車のエアバッグや救命器具、災害用テント、ロボットの手足など、形を変えたいものは多くありますので、折紙はこのような製品の設計にとても役に立ちます。
どのように設計すればどのような形になるか、数学を使って形を計算し、新しい構造や技術を生み出す学問を折紙工学と呼び、日本だけでなく欧米の大学や研究所でも研究されています。
折紙が地震大国である日本を救う
私たちの研究室では、上述した形が変化する構造の設計の他に、薄いシート状の材料を折紙のように折り曲げて、軽くて硬いコア構造を設計する研究や、折紙の形の変化をばねの伸び縮みととらえ、その特徴的なばねを利用して防振する研究も行っています。
これらの研究は、折紙に形の変化以外の価値を創造する研究として注目されています。軽くて硬いコア構造を飛行機や自動車の部品として利用すると燃費が向上し、持続可能な社会の実現につながりますし、折紙のばねを利用した防振は、日本伝統の折紙が地震大国である日本を救う非常にユニークな研究です。
力学的な視点であっと驚くアイデアが
折紙を遊びや趣味としかとらえていないと、折紙の良さを最大限に活かすことはできません。数学を使って形を計算したり、ばねのように力学的な視点で折紙を考えることによって、あっと驚くアイデアが生まれます。
既存の考え方にとらわれていると、問題が起こった時や大きな変革が求められる時に対応できないのが世の常です。人々のつながりにおいても、性別や国籍、宗教が異なる人々を受け入れ、多様性を確保することが新たな道を切り開くトリガーとなるように、折紙という少し変わった切り口から生まれるおもしろいアイデアで既存技術の問題点を打破する新技術を実現したいと考えています。
高校生の頃、『君について行こう―女房は宇宙をめざした』という宇宙飛行士とその家族の生活をユーモラスに描いた本を読んだのがきっかけで、宇宙飛行士が安心して活躍できるよう技術を支えるエンジニアになりたいと思うようになり、航空宇宙工学を勉強できる大学に進学しました。
卒業後、宇宙技術とは離れた企業に就職したのですが、大学の研究者に転身して機械工学の視点で折紙を研究するようになり、思いがけず高校生の頃にあこがれていた宇宙技術に関係する仕事をすることになりました。
人生には紆余曲折がありますが、途中でやめてしまわずに年齢に見合った経験を積み、何が大切か選択し、人との出会いやチャンスを無駄にしないことが人生を切り開くと実感しています。
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「14.ロボット・自動車・機械」の「56.機械工学(設計、エンジン、材料、流体等)」
◆主な業種
(1) 一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等
(2) 電気機械・機器(重電系は除く)
(3) 重電系
◆主な職種
(1) 設計・開発
(2) 生産技術(プラント系)
(3) 製造・施工
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 同じように宇宙にあこがれて、航空宇宙工学を専攻すると思います。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 長期で暮らすなら便利で安全な日本が良いと思いますが、これまでにイギリスやオーストラリアの大学で研究したり、フランス企業に勤めたことがよい経験になっています。日本とは異なる価値観や考え方を知ることで、自分にとって本当に大切なものが見えてくるからです。 |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 音楽が好きでフルートを習っています。 |