第5回 一度つまずくと自傷。敵への不満より不安の時代を生きる若者
このように見てくると、確かに少年犯罪は激減しているものの、世界がバラ色というわけでもないことに気づきます。分断化された狭い人間関係の中で一度躓いてしまうと、もうどこにも自分の居場所がないという感覚も募ってきやすいからです。非行のようなやんちゃな行為は、危なかしくてやってられないというのが現在の心境なのではないでしょうか。
その結果、確かに少年刑法犯は今や人口比の0・5%にまで激減していますが、その裏では、自傷行為のような問題行動が増えていると言われています。

調査データによると「自傷行為をしたことがある」高校生は、男子で7%台、女子12%台、だいたい平均して約10%台なのです。なんと少年刑法犯の20倍ですね。自傷行為は生きるためにやっているので、それが自殺の問題と直結するわけではないのですが、若者の自殺率の高さも近年の大きな問題です。若年層の自殺率は、90年代までは減少していたのですが、それ以降は反転して上昇傾向にあります。

犯罪とはある意味で不満を爆発させる行動だと言えます。その少年犯罪が減り、自傷行為が増えているという事実は、逸脱行動の質が変わってきていることを意味しているのではないでしょうか。
「今、とても幸せ」という中高生は確かに増えています。友人や仲間関係に対して充実感を覚えるという若者も増えています。しかし同時に、近年は、友人や仲間関係に対して悩みや心配ごとがあるという若者も増えています。2000年代に入るまでは減っていたのに、その後、反転して、近年は急激に増えているのです。
若年層の不満は減ってきたのでしょうが、その裏で不安が増えてきているように思います。それが、逸脱行動の質をも変えているのではないでしょうか。また、「自分をダメな人間と思うことがある」という高校生が増えているというデータもあります。うがった見方かもしれませんが、成長期の社会において少年犯罪が多かったのは、まだ希望を持てた時代だったからなのかもしれませんね。
