2016年の参院選で、選挙年齢引き下げが実施され、18・19歳有権者が初めて投票しました。これに続き、2022年からは、成人年齢も18歳に引き下げられ、今、少年法の適用年齢引き下げられる見通しです。犯罪についても一人前の厳罰を、というわけです。しかし一方、2003年以降、少年犯罪は激減しています。少年犯罪が減っているとするならば、若者にどんな変化が起きているのか。少年法の適用年齢の改正はどんな意味があるのか。改正する必要はあるのか。
開成中学・高校に通う中高生たちが、「犯罪を心ではなく、社会との関係で見るとどうなるか」についてを専門に研究する土井隆義先生をお招きし、先生が書いた『若者の気分~少年犯罪の〈減少〉のパラドクス』(岩波書店)を読みつつ、一緒に考えてみました。
(開成中学・高校オーサービジット)
第1回 幸せな10代、減った犯罪。社会学は2つの理論で説明する

日本人の生活全般への満足度は、1973年は、高齢になるほど生活への満足度が上昇しますが、2008年には、様相がまったく変わります。10代若者の満足度は、73年には20~30%だったのに、2008年には70%! あらゆる世代の中でも最も満足度が高いのが、今の10代世代なんです。今は幸せかという調査でも、「とても幸せ」と答える10代は年々上昇しています。

生活への満足度が高ければ少年犯罪は減るでしょう。1993年(平成5年)頃から、一旦急激に増えた少年犯罪は2003年(平成15年)に1つのピークを迎え、それ以降、少年刑法犯は激減しています。

ここでの刑法犯とは、交通違反を除く、殺人・強盗・放火・強姦・暴行・傷害・窃盗・詐欺などの犯罪のことを指します。大半は窃盗ですが、少年の凶悪犯罪も激減しています。日本の犯罪率の低さは世界的にも珍しいものです。
今日の話を聞いていただく前に、犯罪社会学という学問分野では、犯罪の起こる原因論について大きく2つの流れがあることをお伝えしておきます。

1つは、社会緊張理論と呼ばれるものです。わかりやすく言うと、ほしいものを手に入れたい欲望があるのに、実現手段がないために、罪を犯すという理論です。言い換えると、この理論は「不満の理論」と言えます。
2つ目は、文化学習理論と呼ばれるものです。非行グループに入ると、先輩から犯罪の手口を学習したりしますね。欲望だけあっても、犯罪の手口を学習しないと実行できない。それだけではありません。そもそも法を破っても構わないという価値観自体も、仲間集団のなかで学習されるものです。これは、いわば「人間関係の理論」です。
これらの理論を踏まえ、さらに私自身の分析も含め、最近の日本の少年犯罪の激減についてこれから考えてみたいと思います。

人間失格?~「罪」を犯した少年と社会をつなぐ
土井隆義(日本図書センター)
少年たちはなぜ罪を犯すのか? その罪は彼らだけの責任なのか? 罪を犯してしまった彼らは人間として失格なのか? 「少年犯罪」の動向と、それを取り締まる側の分析を通して、現代社会のありようを考察した本です。逸脱した少年たちとのつながりの糸を、あなたは紡ぎますか? それとも断ち切りますか? 彼らとどのように向き合うべきなのか、皆さんご自身の問題として考える際の参考にしてください。本書は、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、週刊金曜日、朝日中学生ウィークリー、ダヴィンチなどでも紹介されました。
時計じかけのオレンジ(映画)
スタンリー・キューブリック:監督
アンソニー・バージェスのディストピア小説を映画化したものです。社会が犯罪者の内面を統制しようと企てるとき、いったいどのようなことが起こるのか。統制とは何かを考えさせられる映画です。DVDでご覧になれます。