第7回:民主主義のタダ乗りをなくすためには~投票率低下の原因
日本の衆議院選挙の投票率は、戦後下降し、近年では約5割です。地方自治体の議員や首長(知事、市町村長)を選ぶ地方選挙の投票率は、さらに低くなります。そこで私は、投票率を上げるにはどうしたらいいかについても、研究をしています。
投票率に関する研究のために、2チームによる対戦型の選挙ゲームを作り、実験を行いました。そこからは、接戦のほうが投票率は上がるということが見えてきました。どちらが勝つかわからないほうが、投票者は自分の1票に意味があると思うわけです。一番投票率が高くなるのは、接戦時の劣勢側です。皆さんもスポーツの試合などで、少し負けているぐらいのときが、一番頑張るのではないでしょうか。
日本の選挙の投票率が非常に低いのは、競争がないからでしょう。特に地方選挙では、同じ人がずっと首長や議員に当選するケースが多いため、投票率の低さが顕著です。立候補者数も増えないため、現在、都道府県議会議員の2割以上が無投票当選です。
民主主義においては、皆で社会を作っているはずですが、「普段、自分が政治に関心を持たなくても、自分が社会の役に立たなくても、誰かほかの人がやってくれればいい」と皆が思うことが、投票率を下げているのかもしれません。つまり民主主義は、皆が政治に参加できる反面、フリーライド、つまりタダ乗りもできるというジレンマを抱えています。
こうしたジレンマは社会の至る所にあります。二酸化炭素排出問題もそうで、各国は経済上のメリットを優先し、二酸化炭素を排出し続けます。身近な例だと、駅前まで自転車で行って放置したら楽だけれど、駅前が自転車でいっぱいになって通行が難しくなります。年金も、自分が払わなければ他の人も払いたくなくなり、未納問題が深刻になります。
しかし、社会的には、皆が協力したほうが、よい社会になると考えられています。協力し合えるようにする策としては、小集団の活動ではさぼりにくくなる、匿名より非匿名のほうが協力するようになる、長期的な関係を構築すると裏切りにくくなる、個人の利益と集団の利益を連結させると協力が促進されなる、ということが知られています。
例えば、バングラディシュのグラミン銀行は、貧しい女性のビジネスを支援するために小口のお金を融資していましたが、その際、5人程度の組を作り、お互いを連帯保証人にさせました。すると、お金を借りた人は仲間に迷惑がかからないように一生懸命ビジネスに取り組むため、銀行は融資した資金を回収でき、女性たちも貧困から抜け出すことができました。
このような協力を促すためには、正または負の選択的誘因を与える方法も有効です。最近は投票に行った帰りに投票券を持って行くと、商店街で飲食が安くなるといった取り組みをし、投票率を上げようとしている自治体もあります。オーストラリアでは逆に、投票に行かないと罰金が科せられます。これは負の選択的誘因です。