俳句甲子園が行われる俳都・松山市は、俳句やことばの文化を盛り上げるためにがんばっています。『プレバト!!』などテレビで活躍する夏井いつきさんを「俳都・松山大使」としてイベントを開催したり、私たち俳句甲子園のOBOGが、全国の高校で俳句のつくり方や俳句甲子園の面白さを伝えるワークショップを主催しています。
国語の授業で俳句が出てきたとき、「つくってみよう」と言われても、うまいつくり方を教えてもらえなかった、なんて経験はありませんか。実は、国語の先生自身も俳句が苦手、ということがよくあります。そんなとき、私たちが句作のお手伝いに出張いたします!
俳句甲子園に出てみたい高校(文芸部でも有志でもかまいません)が2校以上集まったら、松山市役所文化・ことば課にお気軽にお問い合わせください。
ここでは、私独自の活動として、全国各地で行っている出張授業の一コマをお目にかけましょう。今回は、兵庫県の灘中学・高等学校の土曜講座という選択授業で、俳句に親しむバトル、「575タッグマッチ」を行いました。
575タッグマッチって何だ?
•2人1組の2チームで対戦。ひとりはA、もうひとりはBと決める。
•575のうちの穴の空いた箇所(題がある場合も)を指定された人が担当して、制限時間1分以内に1句に仕上げる。
•ただし、チーム内の相談はお題を見た瞬間季語を入れるかどうかだけ。無季(季語なし)も可だが、できればAまたはBのどちらかが季語を担当する。
•会場の挙手によって勝者を判定。
はじめに、音の数え方のルールだけお教えします。
これらは何音でしょうか?
大丈夫 / 石鹸 / チョムスキー
「ッ」(促音)は1音。
「ン」(撥音)も1音。
「ー」(長音)も1音。
「ャ」「ュ」「ョ」(拗音)や「ィ」は、前の音にひっつくので、1音と数えません。
というわけで、正解は、
だいじょうぶ → 5音
せっけん → 4音
チョムスキー → 5音
では、バトルをはじめましょう!
◆1問目
( A )風やこんなところに( B )
Aには2音、Bには5音を入れて、575を完成させます。
はい、1分スタート!
そこまでです。では、作品を見てみましょう。
赤チーム (そよ)風やこんなところに(すみれ草)
白チーム (追)風やこんなところに(年木樵)
どちらのチームも(A)に季節を入れない、ひねった一句です。Aに季節を入れれば、例えば、〈(春)風やこんなところに(オムライス)〉のように、誰でも簡単に考えられるわけですが、頭脳プレイを見せたい両者。
赤チームは、芭蕉が〈山路来て何やらゆかしすみれ草〉とも詠んだ春の季語、「すみれ草」を下五に。一方白チームの「年木樵」とは、正月に飾る年木を、年末に山へ入って伐るという意味の冬の季語。さて、あなたならどちらに1票入れますか。
赤チームの、打ち合わせをしたかのように綺麗に出来上がっているところに魅かれた人が多かったようです。偶然のことながら、「そよ風」の「そ」、「すみれ草」の「す」「そ」の「s」音が効果的な一句になりました。ただし、ちょっとうまくできすぎている、綺麗すぎて驚きがないのではないかと思います。俳句にはちょっとした驚きが必要です。
白チームの句は、普段聞きなれない「年木樵」という言葉を使っているからか、あまり点が入りませんでしたが、新年の用意を後押しして追い風が吹いているかのようで、妙なストーリーが生まれました。
会場の判定は赤でしたが、私としては白を推します。
対戦チーム以外では
〈夏風やこんなところに舟を出し〉
が素晴らしかった。下五(最後の5音)を名詞にしない技が光りました。この句は、すがすがしい夏の、しかし誰もいないような、秘密の水辺を思わせます。
◆2問目
(A1)から( B )を出す(A2)たち
なんと、A担当の人が2つ考えなければならないパターン。
制限時間1分! よーい、スタート。
終了です。
では、作品を見てみましょう。
赤チーム (日陰)から(札束)を出す(童)たち
白チーム (午前)から(焼芋)を出す(子供)たち
この試合の勝者は白チーム。赤はA担当者が「日陰」「童」といった言葉で少し暗い雰囲気を出したのに対して、B担当者が「札束」という俗な言葉をチョイスしたため、だいぶギャップが生まれてしまったためでしょう。白は、午前中から焼いてもらった焼芋を、楽しげに食べたり見せびらかしたりしている子供が浮かんできます。
対戦以外だと、
〈押入から冬服を出す子供たち〉
〈寒いからエロ本を出す親父たち〉
ぴったりハマってしまって驚きに欠ける二句。二句目は(A1)を名詞にしなかったところは冴えていましたが、親父はエロ本であったまるのでしょうか。
〈記憶から亡骸を出す童たち〉
〈廃屋から溜息を出す虱(しらみ)たち〉
どちらもホラーのような句。単語のチョイスでこんなにもぞっとする句が生まれるとは。
〈背中から鼻汁を出す毛虫たち〉
こちらは別の意味でこわい。毛虫から鼻汁は出ませんね。ちなみに「毛虫」は夏の季語。
〈鞄から灯火を出す生徒たち〉
生徒の鞄という日常から、「灯火」が出てくることにポエジーが感じられます。実際は鞄に灯火なんて入っていないし、そんなことしたら燃えてしまいそうですが、俳句の中では虚の世界が完成し、夜道に整列して灯火を配り歩く生徒の姿が、なぜかリアルに見えてきます。
この句には季語はありませんが(「灯火親しむ」だと秋の季語)、こういうのもアリでしょう。
さぁ、ここからはみなさんが1分でやってみてください。
ひとりで自主トレをしてみてもOKです。
例題
1 (A)に貸す(B)や天の川
2 (A)月の(B)に触れたしよ
3 芋虫は(A)の(B)をのぼりけり
4 ( )の塩辛蜻蛉かな
予定調和じゃないことの面白さ、わかってきましたか。こんなかんじで、自分たちの偶然で出来上がる17音の世界に驚く体験ができたら、いよいよ俳句をつくる時間です。みなさんも、そろそろ、一句つくりたくなってきたでしょう。(そんなことない、という人は引き続き読者としてお楽しみください。)
おわり
<前回を読む>
第2回 秋の壁白ければ目で鳥を描く(富澤赤黄男)
俳人・佐藤文香さんが大学の先生にインタビュー。俳都・松山で「俳句学」の授業を受け持つ新鋭の俳句研究者、青木亮人先生に伺いました。
「エヴァンゲリオン」が登場する俳句の授業って?
~高校時代、大学時代のディープな趣味も研究につながっている
青木亮人先生 愛媛大学 教育学部 国語教育専攻
めくってびっくり俳句絵本 シリーズ
村井康司編(全5巻・岩崎書店)
絵本だと思ってあなどるなかれ。芭蕉から現代までの、口ずさみたくなる俳句が、鮮やかなキャラクターたちとともに描かれていて、ぐいぐい胸に入ってきます。短い解説付き。本棚に加えたいシリーズです。こちらは、このシリーズの1冊で、食べ物の俳句を集めた『てのひらの味』。
30日のドリル式 初心者にやさしい俳句の練習帳
神野紗希(池田書店)
30日間真面目にドリルをこなせばあら不思議。いつの間にか俳句の基本が身につくわかりやすい入門書。「卵溶くときのさざなみ春の虹(高勢祥子)」「臆病な飛魚だっているきっと(浦田姫佳)」など、新しい作家の作品も多く、例句を読むだけでも楽しめます。