リサイクルと世界経済 貿易と環境保護は両立できるか
小島道一(中公新書)
「リサイクル」と聞くと、ビン、缶、ペットボトルの分別収集や古紙、古着の資源回収、「リサイクル・ショップ」と呼ばれる中古品販売店を思い浮かべるかも知れません。こうしたリユース(再利用)やリサイクル(資源としての再生利用)は、日本国内で完結するものではなく、世界経済とつながる事象です。
例えば、日本で使用済みとなった中古車は、世界各地へ輸出され、第二の人生を歩みます。中古品貿易は、世界各地の人々の生活を支える大切な経済活動の一つなのです。一方、環境保護の観点からは、先進国が途上国へ廃棄物を押し付ける構図として捉えられ、その問題点が指摘されてきました。貿易と環境保護の両立は可能か、この本を通して一緒に考えてください。
日本の中古車は南太平洋へ。南アジア系移民が作る貿易ネットワーク
「移民企業家」による国際リユース
不要になった自動車はどこへ行くか知っていますか。その多くは中古車オークションへと流れます。そして、そこには外国出身のバイヤーが買い付けに来ます。本研究では、このような外国にルーツのある企業経営者を「移民企業家」と呼びます。
中古車の国際リユースは、南アジア系移民企業家によって支えられています。主にパキスタン、スリランカ、バングラデシュ出身の企業家が、日本で買い付けた中古車を、自身の出身国のみならず、世界各地へと輸出しています。その輸出先の一つが、ニュージーランドを含む南太平洋地域(オセアニア)です。
ニュージーランドとフィジーを結ぶ南アジア系ディアスポラ
ニュージーランドは、太平洋島嶼地域の島々と一つの経済システムを形成しており、本研究で特に重要なのはニュージーランドとフィジーを結ぶ南アジア系ディアスポラの存在です。
フィジーの人口の半分はインド系フィジー人なのですが、1987年の軍事クーデター以降、その一部がニュージーランドへ移住しました。太平洋諸島民と南アジア系移民の2つのグループの境界に位置づけられる独特の移民である彼/彼女らが、ニュージーランドにおける南アジア系コミュニティの礎を形成しました。
ニュージーランドに魅了され、中古車市場に参入
日本を拠点とする南アジア系移民企業家は、ニュージーランドを訪問した際、その環境に魅了され、中古車市場への参入を決意しました。本研究は、日本を起点とする中古品貿易ネットワークが、南アジア系移民を介して、南太平洋と結びついた仕組みについて考えます。
この研究は、SDGsと深くかかわっています。
移民のようなマイノリティは差別や偏見を受けやすいので、10「不平等の是正」は移民研究にとって重要な課題です。一方、世界各地で移民が担ってきた経済活動の一つが、中古品貿易(国際リユース)です。これは12「つくる責任つかう責任」に相当します。
私は国際リユースのような経済活動こそが、こうした課題の解決策になると考えています。
「日本と南太平洋を結ぶ南アジア系ディアスポラの社会学的研究」
伊藤るり
津田塾大学 総合政策学部
【国際社会学、国際移民の社会学】国境を越える事象を社会学的に考えることの有効性を示すと同時に、これまでいかにジェンダー研究の視点が抜け落ちていたかを指摘した点に影響を受けました。
玉野和志
東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 社会学教室
/人文科学研究科 社会行動学専攻 社会学分野
【都市社会学・地域社会学】
地域社会の仕組みを理解するためには、地道な実証研究の積み重ねが不可欠であるという考え方と、一般の方にも調査を有効活用してもらいたいという研究姿勢に影響を受けました。
◆あかりんアワー ~ニュージーランドの多民族都市オークランドに暮らす~(千葉大学 アカデミック・リンク・センター/2019年10月25日開催)
従来の国際教養教育は文系が主流でしたが、現代社会の複雑な課題の解決には科学的な視点が欠かせません。そこで、千葉大学の国際教養学部では、文理混合教育を実践します。
これは、人文社会科学、自然科学、生命科学をカバーする総合大学である千葉大学だからこその強みと言えます。また、課題認識からスタートし、その解決のための知識を選択・統合し、解決能力を育む教育を実践します。
世界史を「移民」で読み解く
玉木俊明(NHK出版新書)
私の研究分野は移民研究です。「移民」と聞くと、どこか他人事のように感じるかもしれませんが、実は、留学、海外駐在、海外帰国子女、国際結婚など、比較的身近な事象を包摂する概念であり、すでに私たちの日常の一部になっています。「移民」を経済史の見地から捉えれば、世界史は「移民」が築き上げてきたものの集積だと言っても過言ではないと、この本の著者は言っています。「人の移動」を研究することの意義を考えさせてくれる一冊です。
同時に、受験勉強の暗記科目として世界史を学ぶ中高生の皆さんは、世界史の「別の見方」を知ることで、世界史の流れをより深く理解できると思います。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 社会学。自分は、学部で語学と地域研究を学び、大学院から社会学を学んだので、学部で社会学を学んでいたら、その後どうなるのか興味があります。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ニュージーランド。1年暮らして、多文化主義政策などの社会システムが気に入りました。フィジーなど太平洋島嶼地域へアクセスが良いのも利点です。 |
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Q3.一番聴いている音楽アーティストは? 音楽は聴きませんが、学部生時代は、ラテン音楽やボサノヴァが好きでした。 |
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Q4.大学時代の部活・サークルは? 外国人観光客に英語で鎌倉を案内するボランティア・ガイド。 |
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Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? ユニークではないけれど、たまたま貿易事務の仕事に就いたことが、現在の研究テーマに取り組むきっかけになりました。 |