アルキヘンロズカン
しまたけひと(双葉社)
お遍路とは、四国にある弘法大師(空海)に縁のある、88箇所のお寺を回る巡礼のことです。その道のりは約1200キロありますが、それを歩いて巡礼する人たちがいます。この漫画は、そんな歩いてお遍路をする人たちを描いた作品です。
巡礼というと堅苦しそうに聞こえるかも知れませんが、“アニメ聖地巡礼”という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。お遍路は仏教に基づく巡礼ですが、最近では宗教的な気持ちを持たないで回る人も増えており、旅の1つの形ともいえるでしょう。高齢の人から若い人まで、また日本国内からだけで無く、海外からも歩きに来る人も多くいます。なぜ、1200キロもの道のりを歩くのでしょうか。
この作品では、作者が実際に歩いた経験を元に、様々なお遍路さんの姿が描かれています。しかし、単にお遍路さんの姿を紹介するだけではありません。多くの人と出会う中で、自分の道を生きるとは何なのかをも問いかけてくれる作品になっています。私も歩き遍路をしましたが、ここに描かれていることは、既視感を覚えるものばかりです。
歩く旅が、人のこころにどのような影響を与えるのか
人はなぜ旅に出るのか
皆さんは旅行をすることは好きですか。また、どんな旅行が好きですか。家族と行くドライブや、修学旅行での文化遺産巡り、友だちと行くアミューズメントパーク、海水浴など旅には様々なスタイルがあります。私はどんなスタイルであれ、旅することが大好きですが、最近ハマっているのは“歩く旅”です。
そもそも、旅をすることは、人の心にどんな影響を与えるのでしょうか。「自分探しの旅」や「人生は旅のようだ」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。旅に出ると“自分”が見つかるのでしょうか。旅の何が“人生”のようなのでしょうか。
よく考えれば、旅行は時間もお金もかかりますし、家に帰ってきたら「あぁ、やっぱり我が家が一番」と思うことすらあります。それではなぜ人は旅に出るのでしょうか。
旅の意味を考え、人間の理解を深める
現在私が取り組んでいる研究は、歩く旅が人にとってどんな意味を持つのか、どんな心の変化をもたらしうるのか、なぜコストをかけてまで旅に出るのかということです。
もちろん、美味しいものを食べることや、友だちと共有する時間は旅の魅力の1つでしょう。でもそれだけでは“自分探し”の舞台になったり、“人生”にたとえられたりすることもないでしょう。
旅の原点ともいえる「歩く旅」に注目し、旅の意味を考えていくことで、人間のというものの理解が深まると考えています。また、旅の魅力を心理学的に解明することができれば、魅力的な観光地づくりにも役立つと思われます。
今の日本では、旅行というと観光旅行のことばかりで、歴史的建造物を見ることや、イベントに参加することなどが中心となっています。しかし、旅行者や観光地に住む住民の双方が「歩くこと」の魅力や「道」の価値を認識することができれば、観光振興のために新しい施設を作ったり、むやみにイベントを開催するばかりが旅行ではないことに気がつくのではないかと思います。このような旅に対する価値の転換は、これまでの観光地振興とは異なる、環境負荷の低い観光政策に繋がると思っています。
「観光行動における歩くことの心理過程と自己過程に関する研究」
学生にはたくさんの旅をして欲しいと思い、自分の旅の経験の話をよくしています。人の心の動きを科学する心理学を学ぶ上で、様々な人や環境との相互作用である旅の経験は、とても有益なものだと思っています。
人文学部には、印度哲学や比較文学、中国語・中国文学、ドイツ語・ドイツ文学、日本語・日本文学など多様な専門家が揃っています。私の専門は社会心理学ですが、旅や歩くことの研究をする上で、同僚との雑談から世界が広がることは多く、彼らとの交流があってこその研究だと思います。なお、⼊試では”総合問題”と呼ばれる独自の問題が出題されます。様々な⽂献を正確に読み解き、⾼校までの教科枠を横断した、独⾃の考えをまとめる力が求められています。
一九八四年
ジョージ・オーウェル、訳:高橋和久(早川書房)
“ビッグブラザー”と呼ばれる独裁者による全体主義的監視社会を描いた、近未来SF小説です。出版から70年が経ちますが、未だに色褪せず現在でも近未来小説といえるかもしれません。
この小説の社会では“テレスクリーン”なる装置によって行動が監視され、日課として組み込まれた“二分間憎悪”の時間によって、反政府主義者を敵として憎む心が醸成され、“ニュースピーク”という言葉のルールによって、国民の思想は政府に都合の良いように管理されています。それに疑問を抱く人はほとんどいません。しかし“真理省”の役人として歴史記録の改竄作業を行う主人公ウィンストンは、政府に疑問を持ち始めます…。
一見、荒唐無稽な設定のように思われるかも知れません。しかし、この作品で描かれる人と社会の有り様は、人の心が社会の影響をどのように受けるのか、また、人の行動が社会をどのように創っていくのかを考える社会心理学の知見と、見事なまでに整合的です。今、この時代に読むべき1冊だと思います。
ウォールデン 森の生活
ヘンリー・D. ソロー、訳:今泉吉晴(小学館)
コロナ禍のさなか、“不要不急”の外出ができない日々を過ごした人も多いことでしょう。それでは、生きる上で“必要不可欠”なものとは何なのでしょうか。
思想家であるソローは、人間が生きていく上で何が大切なのかを考える中で、街を離れて森で生活することを決断します。その森での2年間あまりの生活について書かれているのが本書です。彼は森での生活を通して、生きる上で必要不可欠なものについて、次のように述べています。
“Only four necessities in life are: food, shelter, clothing, and fuel.”
楽しみに欠けた、ちょっと貧しそうな生き方にも思えるかもしれません。しかし、ソローは、2年間の森での生活をふり返り、豊かそのものだったと述べています。旅や山登りでは「荷物の重さは不安の大きさ」という言葉がありますが、要らないものをそぎ落としていった先の豊かさというのもあるような気がします。最近では「断捨離」という言葉も流行っていますね。
少し難しい本ですが、豊かに生きるとは何かを考えるきっかけになるかもしれません。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 医学を学びたいですね。人の心に関する研究をしていると、身体についての理解も必要不可欠だと気付かされます。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 2020年7月まで、1年間ですがイギリスのウェールズに住んでいました。公園やフットパスが充実しており、晴れた日の散歩はたまらなく気持ちが良いです。そんな森と町が近いところに住めたらいいなと思っています。 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? 旅同好会「列島」という旅サークルに入っていました。現地集合現地解散がモットーで、同じ目的地を目指していても、メンバーのみんなが違う旅を楽しんでいました。 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 長距離バスの添乗員をしていました。お金をもらいながら旅ができると思っていましたが、深夜バスへの添乗が多く、それどころではありませんでした(苦笑)。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 山歩きや街歩き、旅をしている時が、一番の癒しです。 |