欧米留学が人気の中国 日本への留学の効果を検証する
1980年代中国の改革で、人生に様々な選択
計画経済時代だった中国に生まれ育った私は生まれたところ(戸籍)、卒業した学校に応じて国によって職場が配置され、特別な事情がなければ一生その都市、その職場で平淡ではありながらも平穏な一生を送るという人生の設計図が小さい頃から描かれていました。何もかも既定のレールがひかれていたため、未知なる未来にわくわくどきどきした記憶はほとんどありませんでした。
しかし、世の中は常に変わるもの。閉鎖的だった中国は、1980年代からの改革開放により世界に門戸を開き、自主選択に馴染みのなかった人々が否応なく市場に放り出されました。突如に手に入れたさまざまな選択のチャンスに対し、うまく時代の潮流に乗り、的確な選択をして大きな成功を収めた人もいましたが、より多かったのは選択に迷い、不安を感じ、彷徨する人々でした。
二度の日本留学、そして日本の大学へ勤務
既定のレールから離れ、北京外国語大学日本学研究センターに進学した私は、そこで日本から来た先生と出会い、半年間日本に留学することができました。中国以外の社会、文化、そして何よりも今までと異なる物事の考え方に触れたことで、世界の広さと無限の可能性を感じました。
修士修了後、上海の大学で3年間勤めました。2002年に日本文科省の国費留学奨学金を取得して、二度目の日本留学を果たしました。博士号を取得したあとはそのまま日本の大学に務めることになりました。
修士、博士課程、そして就職後は、初等・中等・高等教育に関する様々なテーマをめぐり、研究を行いました。留学生問題に辿り着いたのはおよそ10年前のことでした。
欧米留学者がより重宝される
日本にいる間に、中国は凄まじい発展を遂げ、日本留学が母国でのさらなる発展のチャンスを逃したのではないかと、ときには日本留学の選択がはたして正しかったのかどうかとを疑うこともありました。
一方、中国では、日本留学と比べ、欧米留学の方がより人気です。中国で就職する場合は、欧米での留学経験を持つ元留学生の方が日本に留学した経験者と比べて、企業に歓迎されやすく、給料も高いと言われています。
どこへ留学したかだけでは測れない価値がある
しかし、日本留学の効果は本当に欧米留学の効果に及ばないのでしょうか。留学経験によって得られる収入の増加は、確かに留学の効果を測る単純明瞭な方法ではありますが、お金以外の留学の効果もあるに違いありません。
また、留学の効果として、中国、日本といった国レベルで効果が出たものもあれば、留学した本人が大きな効果を感じたというものもあります。
例えば、文化の交流、理解の深化等のように、必ずしも明確な指標ではありませんが、国にとっても個人にとっても大きな効果と意義を持っているものもあります。少々抽象的かもしれませんが、そうした日本留学の効果を明らかにすることが私の研究の主な内容です。
中国最大の日本学教育研究機関を調査
北京日本学研究センターを研究対象にしたのは、その特殊性にあります。海外における最も大きな日本学教育と研究機関として、日中両国の学者が一緒に中国における日本学の人材養成を行っており、1985年の成立からすでに30年以上の歴史を持っています。
そこの修了生、教員、関係者などを対象に、深く調査ができれば、より意義のある調査結果が得られるのではないかと期待しています。まだ進行中の調査ですので、最終結果の報告はもうしばらくお待ちください。
得たものが圧倒的に多かった日本留学体験
そして、私個人の体験から言えば、日本にいる間、失ったものもありますが(経済学の言葉では、「機会コスト」といいます)、得たもののほうが圧倒的に多いです。子どもの時に期待していた未知なる未来へわくわくどきどきする新鮮な感情、そして多くの選択肢の中で決断する時のスリル感は、本当にかけがえのない貴重な体験でした。
新型コロナウィルスの危機を乗り越えたあと、皆さんもぜひ海外に出かけてこのような探検をしてみてください。
「日本留学の長期効果に関する研究―北京日本学研究センターを事例にする―」