外国語の壁は理系思考で壊す
杉本大一郎(集英社新書)
大学に入学するまで私は、私にとっての「外国語」、つまり英語がとても苦手でした。文系学問の柱のひとつがここまで苦手なら、理系に挑戦しようかとも考えたくらいです。そんな私が言語学に興味を持つきっかけとなったのは、ノーム・チョムスキーの生成文法の世界に出会ったことです。言語を数式のように分解し、記号の世界へと変えていく。なんて不思議で面白い世界なのだと感動したことは、今でも覚えています。
生成文法の理論を学んだ後に英語を見ると、これまでとは違った読み方ができるようになりました。もし、私のように外国語を学んでいて「苦手だ」と感じている人がいたら、外国語そのものについて考えるきっかけに一読してもらえると嬉しいです。言語を研究する面白さにも気がついてもらえるかもしれません。
より自然で自由な外国語表現のための学習・添削システム
外国語でも自由な単語を選んでいい
外国語は暗記して学習したとおりに書かなければいけない、なんて考えていませんか。面白いと思ったことや他人に伝えたくて仕方がないことをどんなふうに日本語で表現していますか。実は外国語で表現するときも、日本語で表現するときと同じように自由にことばを選んで、表現していいのです。
文法は「傾向」であって「正解」ではない
学校で学ぶ文法とは、長い年月をかけて使用されてきたことばの「傾向」が記述されたもので、決して「正解」ではありません。基本的な傾向さえ習得すれば、後は好きな単語、好みの文体で伝えたいことを伝えれば良いのです。
とはいえ「この表現でいいのかな」という不安は拭えない。実は長年ドイツ語を学び、教える立場にある私も、常にこの不安の中から抜け出せていません。私の書いたドイツ語には、ドイツ語母語話者が「間違いではないけれども、そうは言わない。だから添削しなければならない」と思う表現がたくさんあるようです。
添削する側も同じ不安を抱えている
どうしたら上手く<私のドイツ語>で書くことができるのだろう。そう思っていたら、英語で論文を書いている工学部の先生も、同じような悩みを抱えていました。また添削する立場のドイツ人の先生も、「どこまで他人のことばを添削するべきか」で悩んでいました。
3人が抱える不安と悩みから、文系学問的知識と理系技術を活かして、みんなが幸せになれる方法はないかと取り組み始めたのが現在の研究です。学習者と添削者の不安と悩みを解決できるように、両者のことばの選択傾向を抽出して、より自然な外国語表現を目指して学習・添削できる支援システムを設計しています。
「外国語表現選択支援システムの構築」
◆ゼミでは
私の専門はドイツ語学で、主な研究領域はドイツ語の造語法です。ゼミに所属する学生は、まずドイツ語の読み・書きから始めます。研究対象であるドイツ語の仕組みを知ることが、最初の一歩です。ドイツ語学習を通して、素朴な疑問を抱いたら、ようやく研究のスタートです。学生から「こんなことが研究対象になるのでしょうか」とよく尋ねられますが、素朴な「こんなこと」こそ、ドイツ語学の中ではまったく論じられていなかったりするのです。
◆講義では
日本語と同じように、ドイツ語にもたくさんの英語が流入しています。ドイツ語圏の人たちも、とても上手く英語を話します。このままではドイツ語が話されなくなってしまうかも。ではなぜ、ドイツ語を学ぶ必要があるのか。英語に加えてドイツ語という、あなたの魅力をひとつ増やすためです、と折に触れて話しています。
卒業生の多くは、コミュニケーション力が重視される職種に就いています。外資系企業の交渉役など、語学力だけでなく、他者の気持ちに寄り添う力が必要とされます。ことばは何気なく使用してしまうと、ときに他者をひどく傷つけてしまいます。ときにことばは他者を攻撃するための、そして、またあるときは、自分を守るための武器にもなるのです。ドイツ語を研究することで、異文化に対する理解を深めると同時に、ことばの力を理解することができます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 歴史学 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? オーストリア。留学していたから。 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? 競技スキー部 |
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Q4.研究以外で楽しいことは? トレーニング |
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Q5.会ってみたい有名人は? 言語学者ノーム・チョムスキー |
共同研究者の先生(右)とスキー合宿。大自然の中で勉強できることはこの上ない幸せ。