日本政治史

政治活動と法規制

法律でデモや言論を制限する道を選ばず。戦後の日本の選択


中澤俊輔先生

秋田大学 教育文化学部 地域文化学科 

出会いの一冊

レッド最終章 あさま山荘の10日間

山本直樹(KCデラックス)

1972年2月、軽井沢の山荘に連合赤軍が立て籠もったあさま山荘事件を、犯人、警察、人質それぞれの視点で描いています。この作品は「彼らはなぜそのように考え、行動したのか」に答えを示すことはありません。淡々と進む物語の中で浮彫りとなるのは、相互の徹底したディスコミュニケーションです。

こんな研究で世界を変えよう!

法律でデモや言論を制限する道を選ばず。戦後の日本の選択

公文書から学生運動のビラまで。多様な史料から戦後をみる

終戦から早や75年、今や「戦後」は立派な歴史となりました。日本政治史を専門とする私の研究は、当初は明治の警察から始まり、大正、昭和と時代を下り、1960年代の警察へと移りました。

取り扱う史料も、公文書から日記、回顧録、新聞、雑誌、インタビューや学生運動のビラまで多種多様です。

1960年代、政治活動の法規制を巡る国会での大論戦

1960年代の日本は、経済成長の裏で政治への不満によるデモや学生運動が頻発し、時にテロも発生しました。1961年、国会では、与党自民党と野党民社党が共同で「政治的暴力行為防止法案」を提出し、野党社会党も別に「政治テロ行為処罰法案」を作って対抗しました。

当時の国会の議事録を読むと、法律さえ作れば暴力を防げるのか、デモとテロは同じなのか、言葉の暴力を規制すべきなのか、などの議論が見られます。

共産党の国会議員が戦前の弾圧の記憶を引き合いに出し、元警察官僚の国会議員と論戦する一幕もありました。歴史の中に歴史を見出すことも、研究の醍醐味です。

政治と暴力の関係は今日でも課題

結局、法案は混乱のすえ不成立に終わります。佐藤栄作内閣では、1968年の東大紛争、1972年のあさま山荘事件と世間を驚かせる事件が起こりましたが、法案提出には至りませんでした。

ともかくも戦後の日本は、法律でデモや言論を制限する道を選ばなかったのでした。政治と暴力の関係は、状況の違いはあれど今日的な問題でもあります。E.H.カーいわく、歴史は過去と現在の対話であり、私たちの課題を考えるうえできっとヒントとなるでしょう。

写真1
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写真2
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史料調査のために訪れた千葉県文書館にて。写真1:施設の前にて。写真2:閲覧室にて、警察署長宛の書簡を閲覧中。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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人権の保障と安全な社会、公正な司法制度を達成するにはどうすればよいのか。戦後の日本は、戦前の治安維持法の歴史をしばしば反面教師としてきました。

私たちは歴史を覗き見る際、現在の価値観から逃れることはできません。他方で、歴史とは現在の価値観で過去を裁くことではありません。当時の人々の意識を探り、様々な角度から課題を分析し、政治決定の過程と問題点を検証し、思考の糧とすることが政治史の役割であると考えます。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「戦後日本の警備警察の政治史研究―デモ・暴力・災害―」

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どこで学べる?
先生の授業では
◆講義「現代社会と政治」では
映画『シン・ゴジラ』を鑑賞してもらい、緊急事態の発生から収束に至るまでの政府の対応や根拠となる法律について、時系列で追って解説します。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
秋田県公文書館にて、学生と公文書の調査をしている様子
秋田県公文書館にて、学生と公文書の調査をしている様子
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)官庁・自治体・公的法人・国際機関等

(2)自動車・機器 

(3)交通・運輸・輸送

◆主な職種

(1)営業、営業企画、事業統括

(2)一般・営業事務

◆学んだことはどう生きる?

私がこれまで指導した卒業生には、秋田県内の公務員を志望する学生が毎年います。元々、私の所属する教育文化学部では、秋田に生まれ育ち、地元のために公務員として働くことを志望する学生が多い傾向があります。

 

私の指導する学生には、政治や行政への関心が高く、そういった学生が集まりやすい面もあるでしょう。また、社会の安定や安全を維持することに興味関心を抱き、国家公務員(労働監督官)や警視庁に就職した学生もいます。

先生の学部・学科は?

秋田大学教育文化学部では、地域社会の実情と課題を深く理解し、豊かな人間性と幅広い教養、高い専門的知識、スキルを基盤として、地域の経済や文化の活性化、コミュニティの創成、再生など多方面で地域の中核となりえる人材の養成を目的としています。

地域文化学科では、学生が地域の企業や行政や関係機関で実習したり、フィールドワークに従事する授業科目を設けて、学生と社会との交流を通して地域で活躍できる人材育成に努めています。

中高生におすすめ

仕事としての学問 仕事としての政治

マックス・ウェーバー、訳:野口雅弘(講談社学術文庫)

社会学者ウェーバー(1864-1920)が晩年に行った二編の講演です(岩波文庫版は、尾高邦雄訳『職業としての学問』、脇圭平訳『職業としての政治』)。戦争と革命で混乱の渦中にあったドイツにおいて、あるべき学者と政治家の条件を語るウェーバーの言葉は、没後100年を経てなお力を持っています。


きまぐれ博物誌・続

星新一(角川文庫)

SFショートショートの巨人・星新一(1923-1997)のユーモアと予言に満ちたエッセイ集です。2001年に全米同時多発テロが起こったとき、真っ先に思い出したのは同書収録の「ハイジャック」でした。「SFの短編の書き方」で示される手法(知識の断片の集積、組み合わせの検討、結果の見透し)には、学問研究との共通点を見出せます。


高校紛争 1969-1970 「闘争」の歴史と証言

小林哲夫(中公新書)

1960年代後半から70年代初めにかけて、大学で学生運動が燃え上がる一方、高校生たちも学校や社会に異を唱えて行動を起こしました。集会やデモへの参加、卒業式の妨害、バリケードによる校舎封鎖、校則廃止要求など、行動の容態は様々です。

同書は、内部資料、報告書、学校史、新聞、雑誌、回想録、インタビューなどを駆使して、高校紛争のただ中にあった、当時の高校生と教師たちの実像に迫っています。半世紀前の高校生たちが何を考え、どのように行動したのかを読み取ってください。

余談ですが、アニメーション・映画監督の押井守(映画『攻殻機動隊』監督、『人狼JIN-ROH』脚本)も都立小山台高校の生徒として登場します。


先生に一問一答
Q1.感動した映画は?印象に残っている映画は?

インド映画『きっと、うまくいく』。ラストシーンの美しさは圧巻です。

Q2.大学時代の部活・サークルは?

学生劇団に入っていました。滑舌に苦労しましたが、舞台に立つことは得難い経験でした。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

TVのエキストラとして、再現VTRに出演しました。

Q4.研究以外で楽しいことは?

地元のラーメン屋を食べ歩くことです。

Q5.会ってみたい有名人は?

庵野秀明、沖浦啓之


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