家栽の人
毛利甚八、作画:魚戸おさむ(小学館文庫)
2020年5月にドラマが放映されましたね。家庭裁判所が舞台の漫画ですが、物語の根底にあるのは人間の成長・発達の無限の可能性を信じ、働きかけようとする「教育学」の思想です。
シリーズの後半では、不登校の子ども、学校で荒れる子どもたちなど既存の「学校」という枠の中で悩み苦しんでいる子どもたちの目線から「学校とは何か」「なぜ自分は学校に行くのか」を考えていく話があります。荒れる子どもたちにも、そうさせるわけ(学校のあり方、周囲の環境など)があり、その中で、より良く生きたいと願いながら悩み、行動しているということだけでなく、そうした子どもたちと向かい合う学校の教師たちの悩みや葛藤なども丁寧に描かれており、何度読んでも新鮮な気持ちになります。
教育学の専門書以外でこんなことを感じさせてくれるのは、この漫画だけだと思います。ぜひ読んでみてください。
子どもの暴力行為を予防する、ドイツの教育プログラムに学ぶ
教育を通じて平和な社会を実現したい
高校生の時に修学旅行で訪れた広島平和記念資料館での体験から、私は教育を通して平和な社会をどう実現するのかということをずっと考えてきました。
そして、大学で学ぶ中で、平和な社会の実現のためには、子どもたちの日常の中から平和な世界を実現していく必要があることを強く感じるようになりました。これが今の研究のテーマの原点にあります。
子どもが暴力をふるう背景に注目する
私が研究を始めた当時は、規範意識の醸成やゼロトレランスによる生徒指導など、個々の子どもの問題行動に対して厳しく指導することに注目が集まっていました。
しかし、私は、子どもの暴力行為を予防するには、子どもたちが暴力行為をせざるを得ない生活現実、特に家庭や学校、地域社会の問題を視野に入れて暴力予防の取り組みを進める必要性を強く感じていました。
州ごとに独自の暴力予防プログラムがあるドイツ
上記のような問題意識から注目したのが、ドイツの取り組みでした。ドイツは各州に文科省があり、各州が独自に暴力予防のための教育プログラムを開発しています。
いくつかの州の取り組みを調べてみると、一人ひとりの子どもが暴力行為をしなくてもすむような環境づくりを教師や大人だけが行うのではなく、子ども自身も行っていくことを重視しており、「暴力予防」を通して「平和」と「民主主義」の世界を学校、地域、社会の中に実現する力を子どもたちに育てようとしていることがわかってきました。
現在、いくつかの州の関係機関や学校で現地調査を行い、ドイツの暴力予防の取り組みから学んだことを、日本の取り組みの改善・発展に活かしたいと考えています。
暴力予防の教育の研究は、個々の子どもの「暴力行為」をいかに予防するか、なくすかという子どもへの教育の内容・方法のみを追究するのではなく、子どもを暴力行為に駆り立てる環境(学校、地域や社会のあり方)を改善し、子どもたちが暴力行為に走らなくても生きていける世界を、子どもの生活の中から作り出すための教育のあり方を追究することを究極の目的としています。
子どもたちが安心して暮らし、自分の夢や希望を持ち、その実現に向けて全力を傾けられるような教育、そのための環境・条件を考えるという点で、この課題に貢献できるのではないかと考えます。
「ドイツにおける暴力予防教育プログラムに関する研究」
藤井啓之
日本福祉大学 経済学部 経済学科
生活指導、道徳教育の内容と方法、民主主義教育のあり方を研究しています(翻訳書に、ガート・ビースタ著『よい教育とはなにか 倫理・政治・民主主義』)。ドイツの暴力予防教育についての研究を一緒に行っています。学部時代の先輩にあたる方ですが、教育学を研究する際に、社会科学や哲学など教育学以外の学問から学びながら、教育学を研究する大切さを学びました。
内田良
名古屋大学 教育学部 人間発達化学科/教育発達科学研究科 教育科学専攻
教育社会学、学校リスク(学校事故、学校安全)に関する研究をしています。子どもの暴力の問題を考えていく時、学校のあり方を問う視点は不可欠です。内田さんの研究は、その学校のあり方を社会学的な視点から分析し、学校の持つ「構造的暴力」などの問題を、具体的なデータも含めて明らかにしており、大変参考になります。
福田敦志
広島大学 教育学部
生活指導、教育方法学(インクルーシブ教育)を研究しています。大学時代の後輩にあたる方ですが、一人ひとりの子どもが抱えている悩みや課題に寄り添い、どの子どもも排除しない学校作りをどう進めていくかを、現場の先生たちと一緒に研究しています。学校から排除される側(荒れる子どもなど)から見た学校の問題を鋭く指摘しており、大変参考になります。
◆卒論ゼミ「教育方法学研究」での指導
研究とは現実世界へ自分が働きかけ、参加していく営みです。これまでの自分の生活の中で抱いた問題意識を大切にし、誰かの言葉ではなく、自分自身の言葉で語れるようじっくり自己と社会と向き合っていくことを大切にするよう、指導しています。◆主な業種
(1) 保育・幼稚園等
(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
(1) 幼稚園教員、保育士等
(2) 小学校教員
(3) 人事・労務・研修、その他人事系専門職
◆学んだことはどう生きる?
私のゼミの出身者の多くは、保育所・幼稚園や小学校の教員として活躍しています。私の専門学問(教育方法学)で大切にしてきた実践力―一人ひとりの「子どもの声」を聞き、その声から子どもの願いや要求をつかみ、その実現に向けて授業や日常の指導を構想し実践していく力―を活かし、一人ひとりの子どもに寄り添った教育をしています。
教育学部は、主として幼稚園から高等学校までの教員を育てる学部です。山梨大学では、長いスパンで子どもたちの成長をとらえ、保幼小連携や小中連携など複数の学校と連携しながら子どもの育ちを支援できる教員を育てることを目指して、複数の教員免許(例えば、幼稚園と小学校、小学校と中学校、小学校と特別支援など)を取得することを義務づけている数少ない大学です。また、幼稚園から高校、特別支援まですべての学校種の教員免許が取得できます。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。調査で何度も訪れていますが、日本とは違う自然や文化、また多様な人々との共生を試行錯誤しながら追求してきている点に興味を持っており、一度、じっくり生活してみたいといつも思っています。幸いなことに私が出会ったドイツの人は親切な人ばかりで、道に迷ったり困っていると何度も声をかけてくれたり、助けてくれたりしました。そんなドイツの人たちの雰囲気も大好きです。 もちろん、ビールやドイツ料理も大好きです。プレッツェルなど日本ではなかなかお目にかかれないパンも、本当においしいです。また、ドイツには多くの歴史的な建造物や博物館があり、調査の合間に訪れていますが、毎回発見と感動があります。 |
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Q2.熱中したゲームは? 学生時代はファミコンやスーパーファミコンが全盛期で、ロールプレイングゲームをよくしていました。『ドラゴンクエスト』シリーズ、『ファイナルファンタジー』シリーズなどは何度もやりこみました。 大学時代は時間もあったので、それこそ毎日徹夜してゲームをやりましたが、就職してからはあまりしなくなりました。たぶん、ゲームを続ける体力がなくなったのかなとも思いますが、ゲーム以上に面白いことが増えたからかなとも思います。 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? ラグビー同好会。週1回土曜日のみというサークルで、同じ学科の友人に誘われて入りました。中高時代はバスケットボール部でしたので、まったく初めての経験でしたが、良い先輩・仲間にも恵まれ、ラグビーの魅力を感じることができました。大学院時代も続け、今は大学で部活の顧問をしています。 今は部員が少なく、みんなの都合を合わせてOBたちにも顔を出してもらいながら一緒に軽く身体を動かす程度ですが、ラグビーの楽しさとその魅力(競技だけでなく、ラグビーが作る人とのつながりなど)を感じています。 |
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Q4.会ってみたい有名人は? ミュージシャンのSTINGです。彼が所属していたバンドPoliceも含めて、高校時代から大好きです。彼は、ロックとジャズ、レゲエなど様々なジャンルを吸収しながら魅力的な音楽を作っています。また、社会問題に対する歌も多くあり、アルバム『Nothing Like the Sun』にはそんな歌も多く収録されています。彼は教員資格も持っており(Police時代に「高校教師」という歌もあります)、教育問題についても意見交換をしてみたいですね。 |