中絶反対の医師に、患者への中絶告知を強制させてもよいか
社会における弱者に光を当てるのが任務
私はあなたと同じようでもあるけれど、あなたと私とはやっぱり違う。誰にも言えない悩みだってあります。社会には、人とは違うことで真剣に悩み、ある時は社会に反抗し、またある時は社会から抑圧され、そして無視される人たちがいます。
私たちは社会の多数の側にいる時、そんな人たちがいることに気づくことさえないかもしれません。
私の研究している公法学の分野は、このような社会における弱い立場の人たちに光を当て、国の権力がそうした人々を抑圧していないか、あるいは国の権力を使って、そうした人々を救済することはできないかを考えることを、ひとつの任務としています。
日本に住むあらゆる人々が調和の中で暮らし、幸福を追求できるようにすることを究極の目的としていると言ってもいいかもしれません。
医者の義務か、表現の自由か
今、私が取り組んでいる研究テーマは、お医者さんのような専門家が、患者さんに伝えなければならないことを法律で決めても良いか、ということです。例えば、妊婦さんに対して人工妊娠中絶に関する情報を提供するよう、お医者さんに義務づけることです。
お医者さんも一人の人間ですから、自分の信じる宗教や信念があるでしょう。そして人工妊娠中絶はするべきではないと強く思っているかもしれません。そういう信念を持っているお医者さんにとっては、中絶に関する情報の発信は、言いたくないことを言うように強制されること、つまり表現の自由を侵害されることになるのではないでしょうか。
逆に妊婦さんの立場からすれば、中絶に関する情報は必要かもしれません。女性の出産に関する自己決定権に関わるからです。
情報提供義務による不利益を解決
このように、一見すると問題のなさそうな専門家への情報提供義務でも、それによって不利益を受ける人々がいることを発見し、そこに光を当てて、問題を解決し、社会に調和をもたらすことが、私の研究テーマです。
これからの日本には、世界各国から多数の専門家がやってくることが想定されます。平均的な日本人の感覚では、一見すると問題のない専門職業規制も、海外からやってきた人々には、とてつもない精神的苦痛となることもあり得ます。日本に暮らすすべての人びとが、多様性と調和の中で幸福が追求できる社会の実現を目指しています。
「プロフェッショナル・スピーチ理論の研究―専門家への表現強制を中心に」