教育学

社会教育

団地におけるコミュニティ生成の歴史を、「学び」の視点からたどる


久井英輔先生

法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科 発達・教育キャリア領域(大学院キャリアデザイン学研究科 発達・教育キャリアプログラム)

出会いの一冊

東京のローカル・コミュニティ ある町の物語一九〇〇­-八〇

玉野和志(東京大学出版会)

東京都内の「ある町」を舞台に、人々が地域の秩序を支えるしくみ(町内会など)を作り出すプロセスや、そのしくみが高度経済成長期に移り住んできた新住民の主婦たちによる運動との間に軋みを生みだしていくプロセスが、できあいの「理論」に頼るのではなく、筆者による膨大な実地調査のデータを手がかりとした具体的な物語として紡がれていきます。ここに出てくる「ある町」の秩序や矛盾を、「社会階層」「政治」「宗教」といった一般化された概念で説明することも可能ですが、他方でそのようなわかりやすい枠組での安易な解釈を拒絶する圧倒的な具体性、リアリティを備えていることも本書の魅力です。

こんな研究で世界を変えよう!

団地におけるコミュニティ生成の歴史を、「学び」の視点からたどる

高度経済成長期の団地になぜ注目するか

近現代においては、かつての地域のつながりが、いい意味でも悪い意味でも必要とされなくなってきつつありますが、他方(というか「だからこそ」かも知れませんが)、そのようなつながりを改めて作り出そうとする動きも同時に展開してきました。このことを考える上で私が注目してきたのが、都市近郊において高度経済成長期に建設された団地の住民による学習活動です。

具体的に私がこれまで取り組んできている研究では、高度経済成長期の自治体(市区町村)が、公団住宅(※1)の住民の生活意識や学習へのニーズをどのように把握し、また具体的にどのような支援を行ってきたかを明らかにしようとしてきました。

※1:日本住宅公団(現・UR都市機構)が主に高度経済成長期に建設した、比較的高所得の中流階層を主対象とした団地

「学び」は地域のつながりを作り出したか?

当時新しく団地が建設された都市近郊の自治体、特に社会教育行政(※2)は、団地という「まったく見知らぬもの同士が集まった生活空間」の中にいかに地域社会を作り出していくべきかについて、高い関心を持っていました。当時の自治体教育行政は団地住民を対象としたアンケート調査を独自に行ったり、団地住民の中でも特に主婦層を対象に「婦人学級」の開設を働きかけたりすることで、「学び」を足がかりに団地の人々が地域の歴史や課題に関心を持ち、地域のつながりを新たに作り出していくことを目指していました。

一方で、学習活動を通した行政の働きかけは、むしろ個々人の関心に沿った個別の趣味的・教養的な学習の拡大につながったり、行政が想定していなかった住民運動を喚起することもありました。行政の取り組みは、団地住民のつながりを生み出す「苗床」の一つにはなったものの、高所得(かつ高学歴)の住民が多い公団住宅においては、行政の思惑通りに団地住民が動くとは限らず、働きかけの「限界」を行政関係者自身が語る局面も見られました。

このように、高度経済成長期という日本社会の大きな変動期の中で、各地の教育行政が行った住民への働きかけとその帰結を明らかにしていくことで、今日の地域社会におけるつながりの形成に対する支援のあり方を考える手がかりとしていきたいと考えています。

※2:自治体教育行政のうち、学校教育以外の組織的な教育活動を推進することを目的とした行政

ゼミの学生と(ちょうど夕暮れ時の市ケ谷キャンパスにて)
ゼミの学生と(ちょうど夕暮れ時の市ケ谷キャンパスにて)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「都市新中間層の学習活動と公的支援をめぐる社会教育史:高度成長期の団地を事例として」

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研究室にて
研究室にて
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 官庁、自治体、公的法人等

(2) 民間企業学校大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

(3) 中学校、高等学校など

◆主な職種

(1) 総務、生涯学習、地域間・国際交流

(2) 教育・学習支援、人材派遣、システム開発など

(3) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

私のゼミ出身者(前任校、および、現在の所属校)は、民間企業に就職した者が最も多いですが、自治体職員として就職後、教育行政、特に社会教育行政の職員となり、大学時代に学んだ社会教育の知識を生かしつつ業務を行っている方もいます。また、中学・高等学校の教員となったり、大学院に進学して研究者となるべく日々論文執筆にいそしんでいる方もいます。

先生の学部・学科は?

私の所属する「キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科」は、名前を聞くだけだと、どのようなことが学べるのか少しイメージが沸きにくいかもしれません。

この学部(学科)は、「発達・教育キャリア領域」「ビジネスキャリア領域」「ライフキャリア領域」の3領域に分かれており、私は1つ目の発達・教育キャリア領域に属しています。この領域は教育学研究の最先端を担う先生方が多く在籍していますので、「法政大学の市ケ谷キャンパスで学びたい」かつ「教育について学びたい」という方は、キャリアデザイン学部が断然おすすめです。

「教育学」というと「学校の教員になる」というイメージが強いですが、進路は本当に学生次第で、民間企業を目指す方、公務員(国家公務員・地方公務員)を目指す方、学校教員を目指す方、大学院に進む方等様々です。私の専門とする社会教育学では、「学校以外の組織的な教育活動」である「社会教育」に関する基礎的知識に加え、地域社会の社会教育を支える社会教育主事、社会教育士となるための、より実践的な知識・技能を学ぶことができます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

団地の空間政治学

原武史(NHK出版)

私が高度経済成長期の団地に関心を持つ上で、少なからず影響を受けた本です。高度経済成長期に出現した「新奇」な空間としての団地に住まう人々について、一方ではつながりを失った人々として捉える視点、他方では共同性や連帯への可能性を有する人々として捉える視点、という、当時の団地住民に対する捉え方の複層性を出発点として、団地住民の活動と当時の政治状況との関連が描かれます。

こう書くと何やら難しそうに聞こえますが、むしろ中高生読者であってもぐいぐいと引き込まれていく文章の独特なリズムや記述の面白さもまた、同書の魅力です。私はあくまで教育学者としての立場から研究対象を捉えるので、同書と私の執筆する論文とは書きぶりが大きく異なりますが、当時の団地の歴史的文脈・背景を理解する上で、今でも時折参照する本です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

今の研究とほとんど関連がありませんが、当時は言語学、心理学にも関心があったので、そのどちらかでしょうか…。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ロシアの作曲家・ピアニストのニコライ・カプースチン(Николай Гиршевич Капyстин, 1937-2020)。彼の作品はよく「ジャズとクラシックの融合」と評されますが、その独特の雰囲気を味わうのならば、カプースチン本人による切れ味のある演奏が、個人的に一押しです。まだ聞かれたことのない方には、まずは「8つの演奏会用エチュード」がお薦めです。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

混声合唱

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

北島三郎のバックコーラス(NHKの懐メロ番組収録で)

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

ラーメンの食べ歩き


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