流体工学

流体機械

「泡」を制御し事故を防ぐ! 社会を支える流体機械のキャビテーション研究


渡邉聡先生

九州大学 工学部 機械工学科(大学院工学府 機械工学専攻)

出会いの一冊

困ります、ファインマンさん

R.P. ファインマン 大貫昌子:訳(岩波現代文庫)

量子力学の研究で1965年にノーベル物理学賞を受賞したファインマン氏のエッセイ。『ご冗談でしょうファインマンさん』が有名ですが、あわせてこちらもお勧めです。同氏の人柄がよくわかり、天才物理学者がスペースシャトル・チャレンジャー号墜落事故の原因究明の一役を担ったときのエピソードも書かれています。

高校生の皆さんの中には、物理のイメージは湧いても、工学のイメージは湧かない方がいるかもしれません。物理と技術が結び付かず、物理って役に立つのって思う方がいるかもしれません。そんな皆さんにもお勧めです(内容が古いですが)。

こんな研究で世界を変えよう!

「泡」を制御し事故を防ぐ! 社会を支える流体機械のキャビテーション研究

インフラ、医療から宇宙まで活躍する流体機械

皆さんは、日本の年間発電量の約90%が流体機械(タービンや水車など)によって発電されていて、約60%が流体機械(ポンプ、圧縮機など)で消費されていることをご存じですか。

流体機械とは流体(水などの液体、空気などの気体)と機械の間でエネルギーを伝達する機械の総称です。なかでもポンプは、電力や水供給などの私たちの生活を支えるインフラだけでなく、医療(補助人工心臓など)から宇宙(液体燃料ロケットなど)まで様々な分野で活躍する重要な流体機械です。私の研究室では、このように私たちの社会を支える流体機械(主にポンプ)に関する研究をたくさん行っています。

キャビテーションが大事故にもつながる

今回ご紹介するのは、ロケットエンジンの心臓部であるターボポンプに関する研究です。ロケット用燃料・酸化剤供給用ターボポンプに代表される小形軽量・高速ターボポンプで問題となるキャビテーションの解明・制御に取り組んでいます。

液体を飽和温度(水の場合、大気圧下では約100℃)までに加熱すると沸騰が起こりますが、加熱しなくても減圧すれば沸騰に類似した泡の発生が起こります。これがキャビテーションと呼ばれる現象です。液体の流れが速い場所は圧力が下がり、圧力が飽和蒸気圧以下になるとキャビテーションが発生します。

下図は、燃料ポンプの中でキャビテーションが発生しているときの様子(高速度カメラで撮影)で、白い部分がキャビテーションの泡です。このキャビテーションが周期的に変動すると、燃料を安定に供給できなくなるとともに、前後の配管を含めた大きな振動のトラブルにもなります。実際、1999年に日本が打ち上げたH-IIロケット8号機がキャビテーションによる変動流が一因で墜落事故を起こしています。

宇宙事業が拡大 ターボポンプ研究へさらなる期待

宇宙開発は民間業者の参画も増え、ロケットの再使用化や宇宙往還機の開発が期待されていて、ターボポンプはより過酷条件での運転が求められています。また、将来はエネルギー媒体としての液体水素のポンプによる運搬や供給も期待されています。このような背景から、私の大好きな理論と実験を駆使して、複雑な流れにおけるキャビテーションの予測技術、抑制技術に関する研究を鋭意進めています。

高速度カメラ映像から取り出した高速ターボポンプに発生するキャビテーションの写真です。白い部分が蒸気の気泡群で、この気泡群が大規模に膨張・収縮すると大きな振動や破壊につながります。
高速度カメラ映像から取り出した高速ターボポンプに発生するキャビテーションの写真です。白い部分が蒸気の気泡群で、この気泡群が大規模に膨張・収縮すると大きな振動や破壊につながります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は、中学・高校時代から数学が好き(少し得意)で、数学が活かせてかつ社会に役に立つ工学、なかでも機械工学に惹かれて、機械工学科に入学しました。大学2年生のときに、流体力学の支配方程式の美しさとその難解さに魅せられる一方で、のちの私の指導教員となる教授の先生から、流体力学を粗視化したモデル方程式によりロケットの流体力学的不安定現象をたった100行程度のプログラムで説明できるんだよ、という教えをいただき、それ以来、現在の学問分野にどっぷりつかっています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「液体燃料ロケット用ターボポンプのキャビテーション動特性評価技術の構築」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室(教授・准教授・助教の教員3名と技術職員1名、大学院生11名、学部生6名)のメンバーです。
研究室(教授・准教授・助教の教員3名と技術職員1名、大学院生11名、学部生6名)のメンバーです。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 重電系

(2) 一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等

(3) 航空機・航空機器

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 生産技術(プラント系)

(3) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

九州大学工学部機械工学科は、伝統的な機械工学の教えを大切にし、水素エネルギー分野と生体工学分野を先端応用分野に据えた非常に大きな学科で、多彩な教員から機械工学に関する多くの学問を学ぶことができます。

私の研究室では、流体機械の複雑流動現象の解明を目指し、実験、理論・数値流体解析を駆使し、最小単位としての分子の流れの理論・数値解析から火力・原子力発電に使用されるような大型ポンプの流れの実験まで多彩な研究を行っています。機械工学の流体工学分野において国内最大規模の実験室で、流体機械の高度化に資する研究に打ち込んでみませんか?

実験室です。地下水槽、中2階、2階を有する広大な部屋で、大型設備を用いた実験を行っています(少し散らかっていますが、そこは目を瞑ってください)。
実験室です。地下水槽、中2階、2階を有する広大な部屋で、大型設備を用いた実験を行っています(少し散らかっていますが、そこは目を瞑ってください)。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

ターボ機械を知ろう

一般社団法人ターボ機械協会

流体機械、なかでもターボ機械は様々な場面で私たちの豊かな生活を支えています。また、医療や宇宙などの最先端分野でも最重要機械として活躍しています。このwebコンテンツでは、様々なターボ機械が専門家により紹介されるとともに、最新ロケットH-IIIの燃料ポンプの開発にかかわる話、コロナ禍で重篤患者を救ったECMOにおける流体機械の活躍の様子など、この分野の最新の動向が、不定期ではありますが掲載されています。

[webサイトへ]


探偵ガリレオ

東野圭吾(文春文庫)

ドラマ・映画化された名探偵ガリレオシリーズや小説家の東野圭吾のお名前を聞いた方がいらっしゃるかもしれません。天才物理学者である主人公が物理(私の専門の流体力学も結構出てきます)を悪用した難事件を物理実験による検証をもとに次々と解決する推理小説です。

エンタメ小説ですが、仮説を立てることの重要性、解決へのアプローチなど、気軽に楽しめますし、残念ながら犯罪(もちろん、いけません)ですがアイデアを立案、具現化するところは学べます。頭を柔らかくするのに、良いかもしれません。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やっぱり工学、とくに機械工学です。縁の下で社会を支える、その気持ちでいられるのがたまりません。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

米国かな。現職についてすぐ1年間、Caltechに研究留学する機会がありました。多様な人種、天才たちに囲まれ、大変刺激を受けました。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

ユニークではないですが、家庭教師、塾講師、通信教育添削、百貨店配送事務、ガソリンスタンド店員などいろいろ経験しました。たくさんの人との出会いがありました。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

ランニングにはまっています。ストレス発散もありますが、長距離走になると、走りながら最適解を見つける必要があり、奥が深くて楽しいです。


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