社会学

着物の変遷

「作る」「買う」から「借りる」へ 着物の変容とその意味を問う 


小形道正先生

大妻女子大学 家政学部 被服学科

出会いの一冊

社会学入門 人間と社会の未来

見田宗介(岩波新書)

衣服やファッションに限らず、わたしたちのまわりは様々な文化や芸術で溢れており、それぞれが持つ特有の歴史的な現在的な面白さや問題があります。それをいかなる視点の位置から、またどのような歴史の深さから考えるのか。それによって研究者それぞれのテーマや問いもまた異なってくると思います。

ですが同時にひとつの文化への問いが、人間とは何か、社会とは何かという本質的な問いへとつなげていくことの大切さ、自分なりのかたちで探求していくことの重要さを、この1冊は教えてくれています。

こんな研究で世界を変えよう!

「作る」「買う」から「借りる」へ 着物の変容とその意味を問う 

衣食住を超えて

衣服は衣食住のひとつであり、わたしたち人間が生きていくうえで欠かすことのできないものです。また衣服にはファッションという流行現象があったり、着物やチマチョゴリなどの伝統服あるいは民族服があったり、さらには服になる前の生地としての布など、様々な問題が複雑に交叉しています。なので、「なぜ人間は服を着るのか」、「どのようにして服をわたしたちは着ているのか」といった様々な問いが出てきます。

戦後から現在 着物との関係は大きく変化

こうしたいくつもの問いがあるなかで、現在取り組んでいるのは現代社会における着物の変容に関する研究です。主に戦後から現在に至るなかでわたしたちと着物の関係は大きく変わっていきました。それはたんに着物が生活着から非日常着へと変貌を遂げたにとどまりません。

そこには着物が「作るもの」あるいは「作り変えるもの」から「買うもの」へと、そして「借りるもの」になりつつあるという、わたしたちと衣服の関わり方そのものの変化がみられます。

着物には思い出も受け継がれていた

たとえば、着物を作ることは決して自分のためだけではなく、誰かのために、他者へと贈るためにも作られていました。また、着物を買うことはそれを持ちうることで、個人の箪笥やクローゼットを埋めそれぞれの物語になると同時に、祖母や母の記憶や思い出も受け継がれていました。

けれども現在、成人式の振袖や観光地でみかける着物などはその多くがレンタルによるものであり、着物を借りるという行為はそのどちらでもありません。では、そのときわたしたちは何のために着物を着ているのでしょうか。どうして衣服を着るのでしょうか。そうした具体的な対象とともに抽象的な思考をめぐらせています。

日本の社会学者の作田啓一と見田宗介について記した、論文「事件を描くとき――〈外〉からの疎外と内なる〈外〉 」が収められています。(奥村隆(編)2016『作田啓一vs.見田宗介』弘文堂)
日本の社会学者の作田啓一と見田宗介について記した、論文「事件を描くとき――〈外〉からの疎外と内なる〈外〉 」が収められています。(奥村隆(編)2016『作田啓一vs.見田宗介』弘文堂)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

修士課程のときに社会学を専攻するなかで、より具体的な対象から考えてみたいと思いました。もともと文化や芸術に触れることが好きでしたが、そのなかで衣服あるいはファッションから始めることにしました。それは、衣服が根源的でかつ先鋭的な事象だと感じたからです。であると同時に、それについてわたしたちは容易に語りながら、いつもすり抜け常に掴み損ねてしまう、何か朧げな捉えどころのなさに興味を持ちました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「戦後日本社会における和服の歴史社会学的研究」

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日本の社会学者の井上俊について記した、論文「井上俊――文化社会学の形式と美学」が収められています。(奥村隆(編)2023『戦後日本の社会意識論――ある社会学的想像力の系譜』有斐閣)
日本の社会学者の井上俊について記した、論文「井上俊――文化社会学の形式と美学」が収められています。(奥村隆(編)2023『戦後日本の社会意識論――ある社会学的想像力の系譜』有斐閣)
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

本学科が特徴的なのは他の学部や学科とは異なり、なにより衣服やファッションという対象を基に、文系・理系を問わず様々な学問分野の先生方がいることです。デザイン学や化学、経営学や教育学、社会学や心理学などの領域から、製作や実験、デザインやビジネス、カルチャーなど総合的に衣服やファッションに関わる点を学び、そのなかから各自専門分野を選ぶことが特徴であり、とても面白いと感じています。

美術館にて開催されるファッションの展覧会もいくつか企画・担当しています。こちらはドイツ・ボンにあるドイツ連邦共和国美術展示館(Bundeskunsthalle)にて開かれた「ドレス・コード?──着る人たちのゲーム」展の会場風景です。
美術館にて開催されるファッションの展覧会もいくつか企画・担当しています。こちらはドイツ・ボンにあるドイツ連邦共和国美術展示館(Bundeskunsthalle)にて開かれた「ドレス・コード?──着る人たちのゲーム」展の会場風景です。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

ちぐはぐな身体 ファッションって何?

鷲田清一(ちくま文庫)

「ファッションとは」、「服を着るとは」と疑問を抱いた人に読んで欲しい本であり、ファッションを学問として研究したい人には、同じ著者の『モードの迷宮』も欠かせない1冊です。


「もの」の詩学 家具、建築、都市のレトリック

多木浩二(岩波現代文庫)

椅子や建築、都市といった具体的な「もの」から、その時代の欲望や社会の無意識を探求したもので、同じ著者の『生きられた家』や『眼の隠喩』などとともに学生の頃を思い出す1冊です。


ミシェル・フーコー

内田隆三(講談社学術文庫)

フランスの哲学者ミシェル・フーコーの思想の軌跡から、人間の思考の場や歴史への眼差し、主体と言説の関係など、多くの視座と問いを与えてくれる重要な1冊です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

哲学や美学など興味は尽きませんが、やっぱり社会学だと思います

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

綺麗な海がみえて、一年中暖かい国を探しています

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

バッハとキース・ジャレット

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

長崎にて精霊流し終了後の清掃

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

ピアノと散歩、甘いものを食べること


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