構造工学・地震工学・維持管理工学

構造シミュレーション

独自の高精度3次元モデリングで、複雑な橋の健全性を評価


西川貴文先生

長崎大学 工学部 工学科 社会環境デザイン工学コース(総合生産科学研究科 共生システム科学コース 環境レジリエンス分野)

出会いの一冊

エドゥアルド・トロハの構造デザイン

エドゥアルド・トロハ 川口衛:監修・解説(相模書房)

[構造物のかたちとその意味を知る]

優れた構造物の「かたち」は、設計者の深い洞察や丁寧な推察、柔軟な思考や豊かな創造性、数学や物理、化学等を道具として駆使した熟慮の賜物で、そのかたち(形態)を作る行為が「構造デザイン」です。

本書は、スペインの構造エンジニアでシェル構造(有機的構造の一つで、貝殻のような曲面を利用した構造)のパイオニア的な存在であったエドゥアルド・トロハが、自身の思想とその達成を最もよく例証する代表作品を取り上げ、その構造デザインについて解説しています。スケッチや写真がふんだんに掲載されていて、構造工学の知識がない読者も感覚的にポイントを捉えることができ、構造工学を学ぶと、エンジニアの思考の過程をより深く辿ることができる、“何度でも美味しい”一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

独自の高精度3次元モデリングで、複雑な橋の健全性を評価

重要な社会基盤 容易ではない維持管理

道路や橋は、私たちのくらしを支える基盤であることから「インフラストラクチャー」といいます。英語で「infrastructure」と書きますが、これは、ラテン語の「infra」=「下」と「structura」=「構造」を合わせて作られた言葉で、日本語では「社会基盤」と表します。これらは、文字通り私たちの生活の“下”にあるため、普段は気に掛けることはない(またはとても少ない)と思います。

しかし、老朽化や地震などの災害によって損傷すると、社会生活にとても大きな影響を及ぼします。そのため、定期的に点検を行って健全性を確かめることが不可欠ですが、橋は大きく複雑で、それぞれが固有の(=一つしかない)ものであるため、健全性の評価は容易ではなく、ましてや、理科の実験のように実験室に運んで安全性を確かめることはできません。

いかに忠実に実現象を再現するモデルを作るか

そこで、橋をコンピュータ上に「再現」(=モデリング)して、その振る舞いや損傷の影響を解析的に調べる「構造シミュレーション」を行います。このとき、「いかに忠実に実現象を再現するモデルを作成するか」が鍵となります。

私たちのアプローチは、市販のデジタルカメラやスマートフォンのような「特別ではない」道具を用いた光学計測と、橋自体が示す振る舞い(応答)を少し高度な処理技術を用いて上手に組み合わせることで、橋を精度良く、でも簡単にモデル化するというものです。構造センシング技術とAI技術の融合によって実現を目指しています。

センサーで橋の動き(挙動)のデータを集録して、構造的な特性を捉える構造センシングの研究に取り組む研究室の学生
センサーで橋の動き(挙動)のデータを集録して、構造的な特性を捉える構造センシングの研究に取り組む研究室の学生
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は、表面的にはシンプルでありながら、裏側や背景に高度な仕組みや思考、複雑なメカニズムが隠れているモノやコトを好むようで、構造工学を志したのはそれが大きな理由の一つだと、近頃になって思い至りました。ここで紹介した研究も、この思考(嗜好)に共通する部分があるように思います。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「光学計測および応答データを用いた比較的単純な橋梁の自律的高精度3次元モデリング」

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橋の維持管理は世界共通の課題であるため、研究開発した技術や維持管理技術の海外展開にも積極的に取り組む
橋の維持管理は世界共通の課題であるため、研究開発した技術や維持管理技術の海外展開にも積極的に取り組む
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 建設全般(土木・建築・都市)

(2) 交通・運輸・輸送

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 生産管理・施工管理

(3) 保守・メインテナンス・維持管理、運用・システムアドミニストレータ・サービスエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

長崎県は、日本国内で最も多くの島と、北海道に次いで2番目に長い海岸線を有しています。また、半島や離島に歴史的な観光資源が多く存在するため、長大橋(大規模で、技術的に高度な橋)が数多くあります。その地理的条件から、橋にとっては厳しい環境であるがゆえに、難しい問題が生じることもあり、橋のことを学び、研究を行うのに絶好の場所です。

普段立ち入ることができない場所で研究を行うことも。写真は、橋桁の中で橋梁モニタリング研究に取り組む大学院生
普段立ち入ることができない場所で研究を行うことも。写真は、橋桁の中で橋梁モニタリング研究に取り組む大学院生
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

オイラーの贈物 人類の至宝 e =-1を学ぶ(新装版)

吉田武(東海大学出版部)

「世界で最も美しい数式」と称され、数学だけでなく物理学においても非常に重要な「オイラーの等式」を、順を追って導く説明不要の名著。入試対策や大学数学への準備としてではなく、イメージを掴みながらストーリーとして読み進めることをおすすめします。


ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず

塩野七生(新潮文庫)

[歴史小説に慣れている人、歴史が好きな人向け]

古代国家・ローマ帝国のインフラ(=社会基盤、インフラ構造物=“ハードなインフラ”、社会システム=“ソフトなインフラ”)の整備事業を歴史の読み物としてまとめた書。古代から現代にわたる、インフラを整備・管理することの意義とその壮大さに触れるとともに、インフラ事業に携わる人々の心意気を思い起こさせる一冊です。歴史書や歴史小説に慣れていない人は、まずは「はじめに」と「おわりに」から読んでみるのがよいかもしれません。


土木造形家百年の仕事 近代土木遺産を訪ねて

篠原修:著、三沢博昭:写真(新潮社)

[幅広い読者を土木構造物の名作の旅へといざなう名コレクション]

日本の近代化を支えた「土木の仕事」は、欧米で発展した技術を日本の特有の気候風土や社会条件に適合させる難事業でした。本書は、そんな土木の仕事に立ち向かった先人たちの情熱、知恵、意志が結実した近代土木遺産の数々を、豊富な写真と解説に、ときおり著者の回顧を織り交ぜてリズミカルに紹介します。

近代化遺産・土木遺産の入門に最適であることはもちろんですが、学びが進むごとに新たな視点や理解が得られる、幅広い読者に応える名著です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

(構造工学以外では)数学か物理学

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

『雨あがる』、Clint Eastwood監督作品全般

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

読書、家族と過ごすこと

Q4.好きな言葉は?

「Noblesse oblige」(「社会的地位が高い者には、それに応じた社会的責任を果たす義務がある」ことを意味する言葉ですが、これを「能力ある者の責務」と読み替えて、社会に貢献できる技術や能力を身につけるべく励んでいます。)