理論経済学

顕示選好分析

経済理論を検証するための理論


白井洸志先生

関西学院大学 経済学部(経済学研究科)

出会いの一冊

昔話の戦略的思考

梶井厚志(日本経済新聞出版)

私の研究分野・研究テーマそのものというより、より広く経済学的な考え方について身近な昔話や寓話を題材に学び、そこから現代の我々がどのように物事を考えられるのか、いわば経済学的思考の「引き出し」を作れる(or 増やせる)本です。

経済学をよりよく学ぶためには、社会現象に関する知識を身につけることと同等以上に、経済学的な「考え方」を身につけることが重要です。それら二つを同時進行で勉強するのは初学者にとっては(時に大学の専門課程でも)負担が大きく、消化不良になりがちです。むしろ、既知の話を新しい視点で眺めることで、その考え方の要点をより明確かつ実体を持って理解でき、それを使って自ら考える力を得られると信じています。

こんな研究で世界を変えよう!

経済理論を検証するための理論

「人の行動には法則性がある」の仮定を出発点に

私は「顕示選好理論」とよばれる分野の研究に取り組んでいます。大雑把にいえば、「実際に観察できる経済データを使って理論が正しいかどうかを確かめる手法」を研究・開発しています。

経済学は社会のいろいろな現象を分析する学問ですが、その出発点には「人の行動にはある一定の考え方や法則性がある」という前提があります。例えば消費行動(要は買い物)を分析するとき、「人は自分の予算の範囲で一番満足できる商品を選ぶ」と仮定します。この考え方を「効用最大化仮説」といい、大学で学ぶ消費者理論はこの仮説を土台にしています。

その理論、使って大丈夫?データから検証

しかし実際に誰かの消費行動を予測しようとすると、上のような理論仮説を知っているだけでは不十分です。まず、その人がどんな好みを持っているのかを直接観察することはできませんし、そもそも本当に効用最大化の仮説どおりに行動しているかも不明です。

そこで登場するのが顕示選好分析です。そこでは、消費者の過去の買い物データを調べ、その行動が「予算の中で一番満足する選択をしているとみなして矛盾しないか」を検証します。

矛盾がなければ、その行動は効用最大化仮説で説明して良いことになります。加えて、データからその人の好みの特徴を推定することも可能です。すると、推定された好みと効用最大化仮説を組み合わせて「妥当な」理論予測を得ることができます。

社会全体の行動分布を説明するモデルとその検証

顕示選好理論の考え方は、上のような消費分析に限らず、より複雑な理論やデータにも応用できることがわかっています。私自身は「ランダム効用理論」と呼ばれる、社会全体の行動分布を説明するモデルに注目しています。さらに、単に理論とデータが合うかどうかを調べるだけでなく、「どの部分が」「どれくらい」理論とずれているかまで示すことを目指して研究を進めています。

ゲーム理論に関する顕示選好理論について、学会発表スライドの一部(Lazzati, N. J. K.-H. Quah and K. Shirai (2025): An ordinal approach to the empirical analysis of games with monotone best responses, Quantitative Economics, 16, 235-266.として公刊済)
ゲーム理論に関する顕示選好理論について、学会発表スライドの一部(Lazzati, N. J. K.-H. Quah and K. Shirai (2025): An ordinal approach to the empirical analysis of games with monotone best responses, Quantitative Economics, 16, 235-266.として公刊済)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校時代に数学と仲違いをしたため、いわゆる「文系」しか選択肢はありませんでした。適当に受験して適当に入学したのが経済学科だったというのが正確です。経済学で数学を使うと脅されたこともあり、また単に大学で一つくらい新しいことを覚えて卒業しようという低い志もあり、いつしか数学の勉強を始めました。

真剣に勉強してみるとそれは意外に楽しく、「経済学部生にしては」という留保をつければ人並みにやれそうな気もしてきました。それで、何とか研究の道に入り込めば数学をやって暮らしていけると考えたわけですが、今のところ何とかなっているようです。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「ランダム効用モデルに関する顕示選好理論とその応用」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンサルタント・学術系研究所

(2) ネットサービス/アプリ・コンテンツ

(3) ソフトウエア、情報システム開発

◆主な職種

(1) コンサルタント(ビジネス系等)

(2) システムエンジニア

(3) 商品企画、マーケティング(調査)

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

関西学院に着任して10年になりますが、理論・応用・実証、歴史いずれについても教員の研究活動は活発な大学と言って良いと理解しています。ミクロ経済理論だけを見ても、意思決定理論、一般均衡理論、ゲーム理論、マーケットデザイン、契約理論など多様な分野をカバーしていますし、応用経済分野も幅広くスタッフが揃っていると思います。

私自身は理論・実証にまたがる分野(顕示選好理論)を研究していることを活かし、学生さんが理論分析とデータ分析が両輪をなして経済現象の解明、ないしは政策提言につながることを学べるよう努めています。

ゼミの様子です。ごく少人数のゼミ(しかもこの時は欠席者あり)ですが、学生さんそれぞれが研究成果を報告し、不明点の質問をはじめ活発に議論しています。最近では私の出る幕がないほどに盛り上がることもあります。
ゼミの様子です。ごく少人数のゼミ(しかもこの時は欠席者あり)ですが、学生さんそれぞれが研究成果を報告し、不明点の質問をはじめ活発に議論しています。最近では私の出る幕がないほどに盛り上がることもあります。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

堕落論

坂口安吾(角川春樹事務所)

いわゆる定番かもしれませんが、学生時代に読んでおいて良かった本の一つ。短編集になっており、同じく収録されている「続・堕落論」の方が好みです。書かれた時代的に、このご時世からすると「大胆な」内容も含みますが、それゆえに今また読まれるべき本とも思います。


ある数学者の生涯と弁明

G.H. ハーディ、C.P. スノー 柳生孝昭:訳(丸善出版)

20世紀初めのイギリスの大数学者ハーディによるエッセイ。数学者はなぜ数学を研究するのか、またその研究成果の何に価値を見出すのか。数学に限らず、学問研究には本書に述べられるような価値観があること、それが一定の重要性を持つことをぜひ知っておいてほしい。学問にとって有用性(要は「役に立つ」かどうか)がいかに重要でも、それとは違う価値が確実にあると私も信じています。


まったくゼロからの論理学

野矢茂樹(岩波書店)

論理学に関する入門書。論理的思考力の重要性は巷でも叫ばれるところで、何より経済学を含むいかなる学問でもそれは基礎中の基礎、建物の土台です。

しかし、そのトレーニングの機会は高校でも大学でも十分に与えられないのが実情と思われます(各人のセンス任せのような状態)。結果、「論理」という言葉の意味も正しく理解されず、字面が一人歩きしているケースも少なくありません。我々が「論理」という際にはこの本で書かれるような意味で用いており、学問的に必要とされる「論理」の力もそれに同じです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

結局は経済学ですかね。他の道なら今よりうまくいったとは考えづらい。そう思えるのはありがたいことでもありますが、もともと特別なモチベーションを持って経済学を専攻したわけではないので、本当にただの幸運です。もし金と時間が無限にあれば数学科は有力ですが、18才だと真面目に数学やってなかった時代ですから、その場合は確実に何回か落ちますね。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

イギリス。理由は「今まで暮らした中で一番性に合っているから」ですが、どういう所が性にあうのかと問われると難しい。こういうのは理屈じゃないので、肌感覚のようなもの。美味しいウイスキーがたくさんあるとか、音楽が好きとか理由を挙げられないことはないですが、決定打にはならないです。経済学発祥の地でもありますけど、だからどうということでもないです。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

thee michelle gun elephant / リリィ

Q4.感動した/印象に残っている映画は?

ゴッドファーザー

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

不燃ごみ最終処分場でのサンプル調査。集団で軽トラの荷台に乗ってゴミの山から山を移動し、スコップで数十キロずつ仮サンプルを取る -> その中から調査すべきサンプルをさらにランダムにとる -> 調査対象の中身を分類して記録->以下、繰り返し、をする仕事。予想以上に不法投棄の雨嵐で、「危ないモノ」が大量に出てきたことも。実働4,5時間で日給2万、風呂・食事付き。ピンチの時は随分助かりました。


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