現地インタビューも積み重ね、労働組合の転換を国際比較する

労働組合はどう変化したのか
「労働組合は本当に“格差”を減らせるのか?」——私の研究は、この素朴で大きな問いから始まりました。ニュースで2016年の米大統領選を見たとき、伝統的に組合が強い地域で、組合員の票が思いがけず動いた事実に衝撃を受けたのです。
そこで私は、組合が1990年代以降に進めてきた“ビジネス・ユニオニズム”(職場内の賃金や権利に集中)から“ソーシャル・ユニオニズム”(環境・ジェンダー・移民など社会全体と連携)への転換が、どんな結果を生んだのかを国際比較で確かめています。
誰と手を組むかで、組織は強くも弱くもなる
米国を軸に、一次資料と現地インタビューを積み重ね、成功と失敗の分岐点——誰を仲間にし、どう意思決定したか——を丁寧に追うことを実施しています。分析上の問いはシンプルであり、(1)同じ転換でも国や業種で成果に違いは出るのか、(2)違いを生む決定的な要因は何か、です。研究方法は、新聞や機関紙・議事録の読み込みと、組合幹部や現場の声の聞き取りを組み合わせる「現場×データ型」です。
これは部活で新入生を迎える戦略や、クラスのルール作りに少し似ています。誰と手を組み、どう合意するかで、組織は強くも弱くもなるのです。
この研究が示したいのは、働き方と政治がつながる「設計図」です。見えにくい仕組みが見えれば、進路選択や将来の社会づくりに役立ちます。まずは働く人の声に耳を澄ませ、ニュースの「なぜ」を一つ拾うところから、世界の謎解きを始めましょう。
子どもの頃から歴史小説が好きでした。合戦そのものより、出自も利害も異なる人びとが、どの言葉と約束で手を結び、どこで決裂するのか——その政治的なせめぎ合いに強く惹かれました。
同時に、学校生活の中でも「小さな政治」を観察していました。学級委員や文化祭の役割分担、部活動の話し合いでは、規則のつくり方や説明の順番、当事者の納得感が結果を左右します。「人とルールの関係」が変わると、同じ集団でも振る舞いが変わるのだ、と肌で感じました。
こうした経験に見られるように、昔から「政治的なもの」への興味・関心が、私が研究の道へ進む原体験として確かに存在していたように思います。
「「ポスト」グローバル化時代の労働組合―自由主義レジーム国家の転換を例に」

◆主な業種
(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2) 金融・保険・証券・ファイナンシャル
(3) コンピュータ、情報通信機器
◆主な職種
(1) 経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職
(2) システムエンジニア
(3) その他
◆学んだことはどう生きる?
埼玉大学教養学部・国際政治経済学のゼミからは、航空・商社・ITコンサル・観光、そして官公庁まで多彩な分野に人材を送り出しています。
勤務地は首都圏に限らず、アジア・欧米の支社や現地プロジェクトへ配属される卒業生も多く、少なくない数の卒業生が英語での会議・資料作成、現地出張が日常の生活を送っています。ここでは、ゼミで鍛えた「仮説を立ててデータで検証し、結果に応じて修正する反復(仮説構築→検証→改善)が、実社会で確かな武器になっています。
埼玉大学教養学部グローバル・ガバナンス専修の強みは、「学際×実証×発信」を一体で鍛える点にあります。政治・経済・社会を横断しつつ、実データと現場調査で“今そこにある国際課題”を解く——これが他大学にはない実践的な設計です。
少人数ゼミで一次資料(政府文書・演説・統計)を読み、基礎的なデータ分析を用いて仮説を検証。首都圏の立地を生かし、官庁・国会図書館・大使館・NGOへのフィールド訪問やインタビューにも手が届きます。英語での資料収集・政策ブリーフ作成・発表までを通し、「読んで、測って、伝える」力を総合的に伸ばします。
加えて、留学・国際実践の機会も充実しています。半年~1年の交換留学や夏季短期プログラム、海外フィールドスタディ、国際機関・NGOでのインターンなど、段階に応じた選択肢を幅広く用意しています。
(1) 近年、世界では「自由貿易」と「経済安全保障(重要品の国産化や輸出規制)」のせめぎ合いが強まっています。関税や輸出管理、為替(円安・円高)が物価や就職にどう影響し得るか、基本概念を整理し、過去10〜20年の主要出来事(例:TPP、米中摩擦、半導体支援策など)を年表にまとめてみましょう。
(2) 身近なデータ観察として、同一カテゴリー(例:チョコレート・ツナ缶・ノートPC周辺機器)で原産国表示・内容量・税込価格を、近隣の店舗と通販サイトで各10点ずつ記録します。1〜2か月のドル/円の推移と並べ、価格や原産国パターンの変化をグラフ化。「為替」「仕入先の多様化」「関税・規制ニュース」など、価格差の仮説を立てて考察してみましょう。
いまアメリカの通商政策に何が起こっているのか?
冨田晃正(ミネルヴァ書房)
物価高、半導体の輸出規制、関税の再強化――いま通商政策は“ニュースの裏側”で私たちの暮らしと直結しています。『いまアメリカの通商政策に何が起こっているのか?』は、労働組合という現場のアクターに光を当て、なぜ一部の労働者が保護主義を支持するのかを歴史とデータで解き明かす本です。関税が単なる税金ではなく地政学の道具として使われる現在、「誰が得をし、誰が負担するのか」を見抜く視点が身につきます。
ニュースを“自分ごと”として理解したく、専門的な内容にも興味がある高校生には最適です。まずは序章と「トランプ政権と労働組合」の章から読み、最近の関税・サプライチェーンの話題と照らし合わせてみましょう。
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Q1.感動した/印象に残っている映画は? キッズリターン、ロッキー |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? サッカー |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 登山 |
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Q4.好きな言葉は? 人間は、燃えつきる人間と、そうでない人間と、いつか燃えつきたいと望み続ける人間の、三つのタイプがあるのだ(『敗れざる者』より) |