基礎法学

日本法制史

法慣習から読み解く日本法制史


松園潤一朗先生

一橋大学 法学部(大学院法学研究科)

出会いの一冊

中世の秩序と法・慣習──混沌の時代を生きるためのルール

松園潤一朗:編著(戎光祥出版)

日本の国家や社会がどのように形成され、他の国や地域と比較してどのような特徴をもつのかという点に、関心をもち続けてきました。下記の「中高生におすすめ」の本(および著者の他の多くの著作)では、国家・社会や法・政治の観点から日本の特質をめぐる議論が展開されています。歴史が現在と深いつながりをもっていることを感じていただけたらと思います。

また、本書は、下記の「こんな研究で世界を変えよう!」に記した視点から日本中世の法と慣習に焦点を当て、法・慣習・格言について100個の項目に分けて解説しています。一般・学生向けに日本法制史の入門書を作ろうと意図し、多くの研究者の方々のご寄稿により作られた本です。

いずれもぜひ手に取ってみてください。

こんな研究で世界を変えよう!

法慣習から読み解く日本法制史

人々の意識や慣行の中にも法が存在した中世

私の専門は、日本の法の歴史を研究する、日本法制史という分野です。日本の近代法はフランスやドイツなど西洋から法の継受という形で成立したものですので、この分野では他国との比較が重要な手法とされてきました。現在、「中近世日本の法と慣習の研究」というテーマで研究を行っています。
  
鎌倉幕府や戦国大名などの統治が行われた中世において、文字によって書き表された成文の法は法の一部で、人々の意識や慣行の中にも法が存在したと言うと意外に思われるでしょうか。そのような不文の法の一つが慣習法です。前近代日本法において慣習法が重要な位置を占めることは法制史の古典的研究によって指摘されていました。1970年代頃からは日本史学の分野で社会史と呼ばれる研究が盛んとなり、人身に庇護を与える神聖なる場所(避難所)としてのアジールなど中世のさまざまな法慣習の存在が明らかにされました。

日本の植民地では、慣習も法的な根拠に

しかし、慣習法という西洋由来の概念をより深く議論する必要があると感じています。江戸幕府の統治が展開した近世の法も射程に入れて、法と慣習の歴史的変化を検討したいと考えました。西洋における法と慣習の比較から日本法の特質を見出すことも可能になるのではないでしょうか。

また、日本の近代諸法典の編纂において在来の慣習がもった意味は家族法の分野を除けば大きくはありませんでした。他方で日本は朝鮮や台湾などの植民地において慣習(旧慣)調査を行い、家族法を中心に慣習は裁判の際の規準・根拠として用いられました。諸研究に学びながら植民地法についても検討しています。

古文書や古記録など史料を読んで前近代日本法を実証的に検討するとともに、比較研究のため、海外の研究に学び、研究交流ができるように努力しています。

ゼミ合宿で訪れた伊勢神宮内宮・板垣南御門前にて。ゼミ活動の一環として、合宿や巡見で史跡を訪れており、ゼミテン(ゼミ生)と一緒に現地に行って学ぶことも重視しています。
ゼミ合宿で訪れた伊勢神宮内宮・板垣南御門前にて。ゼミ活動の一環として、合宿や巡見で史跡を訪れており、ゼミテン(ゼミ生)と一緒に現地に行って学ぶことも重視しています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

もともと日本史に関心を有していました。大学入学後、現在の社会を分析する社会科学の視点に関心をもちました。その後、比較文明史の観点から日本法制史や日本法を研究されている水林彪先生との出会いから、大学院進学を決めました。

ゼミでは、日本近代法史(憲法・刑法・民法などの歴史)をテーマに選択するゼミ生が大半です。ゼミ生のテーマに触発されることも多く、慣習をめぐる諸問題は、日本近代の家族制度と慣習をテーマに卒論を執筆したゼミ生との議論にも刺激を受けて着想したものでした。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「中近世日本の法と慣習の研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ドイツのフランクフルト・アム・マインにあるマックス・プランク研究所(法制史・法理)(Max-Planck-Institut für Rechtsgeschichte und Rechtstheorie)にて。ワークショップや資料調査を行いました。
ドイツのフランクフルト・アム・マインにあるマックス・プランク研究所(法制史・法理)(Max-Planck-Institut für Rechtsgeschichte und Rechtstheorie)にて。ワークショップや資料調査を行いました。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

企業への就職が多いですが、メーカーや不動産関係、コンサルなど業種はさまざまです。卒業後も、卒論をはじめゼミでの勉強の経験や教員・ゼミテンとのつながりを大切に考えてもらえるのはうれしいものです。知的財産権を扱う会社で、仕事の一つとして法律の歴史や戦前の裁判例を講読している卒業生もいます。

先生の学部・学科は?

日本法制史は、一般に法学部の基礎法学という分野に位置づけられています。一橋大学法学部では比較法、英米法、中国法、西洋法制史、日本法制史、法哲学の各分野の教員が所属しています。外国法や比較法を専門とする教員が多いのが特色と言え、比較の観点から法を研究できる点が強みと思います。

また、一橋大学は3・4年次のゼミの履修と卒業論文の執筆が必修です。ゼミは少人数制がとられ、教員の指導を受けながら各自関心のあるテーマを深めることができます。

台湾の台北市にある中央研究院台湾史研究所にて。台湾史の研究者の方々と研究交流を行い、台湾総督府法院の裁判等についてご教示を得ました。
台湾の台北市にある中央研究院台湾史研究所にて。台湾史の研究者の方々と研究交流を行い、台湾総督府法院の裁判等についてご教示を得ました。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

自分のなかに歴史をよむ

阿部謹也(ちくま文庫)

西洋社会史の研究者である著者が、一橋大学のゼミでの経験や海外の研究者との出会い、自身の研究の軌跡などを振り返り、社会史研究の論点を解説されています。


増補 文明史のなかの明治憲法

瀧井一博(ちくま学芸文庫)

伊藤博文を中心に明治政府における政治家たちの「知」や西洋体験を通して、明治憲法の成立や立憲主義の形成の過程が活写されています。


丸山眞男セレクション

丸山眞男:著 杉田敦:編(平凡社ライブラリー)

政治学の古典である、「超国家主義の論理と心理」をはじめ丸山眞男氏の主要論文が収録されています。日本文化論の観点からも学ぶところが大きい諸論考です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

法学(民事法学)

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

台湾(父の転勤で住んだことがあり、今もいろいろとご縁があるため)

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

弦楽曲や交響曲(ベートーヴェンのラズモフスキー、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ、ブラームスの交響曲第3番など)

Q4.感動した/印象に残っている映画は?

北野武『キッズ・リターン』

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

国内外の博物館や美術館をめぐること