基礎法学

法律家の歴史

大正・昭和戦前期 自分たちの法学を模索する日本人法律家たち


小沢奈々先生

横浜国立大学 教育学部

出会いの一冊

戦後デモクラシーの源流

武田清子(岩波書店)

大正・昭和戦前期という時代を、私は、現代につながる法学方法論の形成期と捉え、この時代をみることで、私たちの法学とは何かを考察するとともに、その法学の限界性を認識し、今後の発展の方向性を考えるきっかけを得たいと考えています。

特に、私は、法学者たちの思想の根底をささえる「教養バッググラウンド」に注目しています。もともと日本人の教養は儒学でありましたが、明治時代も後半になると、徐々に専門教育の前段階でも西洋式の教育が浸透していきます。こうした変化の大きな転機になったのが、旧制高校(特に第一高等学校と第三高等学校)の教養教育の変遷にあると考えています。

本書『戦後デモクラシーの源流』は、法学に直接かかわるものではありませんが、現代にもつながる、当時の人々の、西洋を乗り越え自立しようとする様、そのバックにある、教養や工夫の様を見事に描き出しています。

こんな研究で世界を変えよう!

大正・昭和戦前期 自分たちの法学を模索する日本人法律家たち

法学においても西洋化が図られた

法学という学問分野において、私たちは、外国の文化をどのように受容していったのでしょうか。私の関心の中心にはこの問いがあります。

日本では明治時代、色々な分野で西洋化が図られました。列強から課された不平等条約を改正し、彼らと対等に並び立つために、日本は彼らと同じものを持つ必要があったからです。法学でも同様で、欧米から専門家を招いて、フランス法やドイツ法を参考に、明治30年までに、憲法典や民法典をはじめとする主要法典が大体完成しました。

日本人法律家たちの葛藤する姿

しかし、いざこれを実際に裁判で使っていくという場面になり、日本人たちははたと困ってしまいました。というのも、私たちの住む社会と、法典の模範となったフランスやドイツの社会は全く違うため、法典をただそのまま適用すると、我々の感覚からするとおかしな結果になってしまうからです。こうした中で、日本人法律家たちは、借り物でない自分たちの法学を作っていこうと模索し始めます。

私は、この場面における日本人法律家たちの葛藤する姿に魅力を感じています。彼らは頭で学んだ法制度と、心で感じる正義感との間で葛藤しているのです。これは異文化理解にあたっての葛藤といってもいいでしょう。

そのような中、彼らは(法典の根源にある)外国の思想をいかに理解し、その思想をどう乗り越え、自分たち独自の法学を築き上げようとしたのでしょうか。この点を明らかにするために、私は、法学者一人ひとりの声に耳を傾けようとしています。

日記や手紙から彼らの姿を引き出す

彼らは学者ですから、本を書き、そこで自分たちの考えを表明していますが、特に大正・昭和戦前期は、時代的な制約による言論制限がありますし、また日本社会のあるべき理想像や、外国法と対峙する苦悩など、頭の中で考えていることまでを明らかにすることはできません。

そこで、彼らの本音や経験から得た知見・気づきが綴られた日記や法学者仲間同士で交わされた手紙から、彼らの教養バックグラウンド、他者からの学問的刺激、留学等で海外の文化にふれた時の思想の変化などを引き出そうとする研究をしています。この研究を通し、彼らのこうした姿と現代の私たちとを重ね合わせ、私たちのこれから進むべき道を考えていきたいと思っています。

ドイツ・テュービンゲン大学での在外研究
ドイツ・テュービンゲン大学での在外研究
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は高校3年生のときに1年間、国際ロータリーの青少年交換プログラムで、スイスに留学しました。ホームステイをして現地の学校に通いました。ずいぶんとまどうこともありましたが、その時の経験は私にとって貴重な財産となりました。特に、異文化理解の大切さを実感できたことは大きかったです。

留学において大事なことは、語学を学ぶことだけではなく、本質的なところまで相手のことを深く理解し、相互に尊重し合うことにつなげることだと思います。外国を知ることで日本を知ることができる、自分たちの置かれた立場を客観的にみて、自分たちのこれから進むべき道を知る、そういうことが真の意味での異文化理解なのではないでしょうか。

スイスでの留学以来、日本とヨーロッパの架け橋になる仕事につきたいと思うようになり、外交官や国連職員なども視野に入れ、法学部に進学しました。大学のゼミで法制史を勉強し、また大学院でスイスに再度留学したことをきっかけに、研究者としてその夢をかなえたいと思うようになりました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「留学日記・書簡からみる大正期日本法学の自立」

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学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1) 小学校教員

(2) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

私の所属している教育学部では、学生は広く社会科全般を学ばねばならないため、法制史に特化した授業はありませんので、授業の中で、私の研究内容を直接披露することはありません。しかし法学の授業等の中で、私は、グローバル化に向けた眼を養う授業は行っています。

例えば、演習授業で扱っている「外国人と法」というテーマでは、難民条約や日本の難民申請・帰化の手続、外国人の生活保護や参政権をめぐる近時の判例の動向などを学んだ上で、神奈川県内に在住する難民や外国人労働者たちに直接ヒアリングを行い、人々の生の声を聞き、彼らの目線にたった上で、現状の制度を理解し、その問題点を考えるという授業をしています。外国籍の児童たちが増加している現在、教員になる教育学部生にも、異文化理解への関心が求められています。

大学のゼミでの報告会
大学のゼミでの報告会
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝

ベアテ・シロタ・ゴードン(朝日文庫)

日本国憲法の14条や24条が制定されたことで、男女平等が(形式的に)実現されたわけですが、そこには一人のアメリカ人女性ベアテ・シロタさんの貢献がありました。彼女が、なぜ、GHQの一員として、日本国憲法の起草にたずさわったのか、日本社会にどのようなメッセージを残したのか、彼女の数奇な人生を辿りながら、考えて欲しいと思います。


共に生きるということ be humane(100年インタビュー)

緒方貞子(PHP研究所)

日本人初の国連難民高等弁務官として、国際舞台の最前線に立ち、多くの人たちの命を守ってきた緒方貞子さんの、NHKBSの番組「100年インタビュー」が単行本化されたものです。

緒方さんの考える国際強調のあり方は、現在の私たちにも多く学ぶべき点があります。私自身、緒方さんは、学生の頃の憧れの存在でした。みなさんも、こうなりたいと思う人の考えを知ることで、自分自身がどう生きたいかを考えてみてはいかがでしょうか。


法窓夜話

穂積陳重(岩波文庫)

日本の民法典の起草者のひとりである穂積陳重による小話を集めた本です。法に関する日本や世界の話をわかりやすい言葉が生き生きと綴られており、大変読みやすいです。法学を学びたい方にはぜひ高校生のうちから読んでいただきたいです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

文化人類学(あるいは、全く違う人生を歩めるのなら、音大に入って指揮者になってみたいです)

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

スウェーデン:私にとって日本・スイスに続く第3の故郷であり、とても居心地のいい国なので。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

オーケストラとゴルフサークル:雨女で初ラウンドは台風でした。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

歴史グルメ旅:将来、「食」と「法」にまつわる読み物を書きたいと思っています(半分遊びです)。

Q5.好きな言葉は?

Jeder ist seines Glückes Schmied(人は誰でも自分自身の幸福をつくる鍛冶屋である。)