農業の会社で働く人のキャリア設計
「農家さん」から「会社」に
農業の競争力強化を目的に、我が国の農業は法人化を進められています。法人化とは、これまで主に家族経営がその中心的な存在であった農業、いわゆる「農家さん」と呼ばれていた存在を、「農業経営体」、つまり「株式会社〇〇農場」とか、「有限会社△△牧場」という会社として運営していくことを指します。
法人化をきっかけに大きく変化するところが、家族以外の「従業員」が組織や経営に参加することです。加えて、職業選択の多様化が進み、昔は「農家の息子は農家に」「農家以外が農家になるのは難しい(土地等の問題)」というのが一般的でしたが、現在では、農業法人も高校や大学を卒業された方々の就職先のひとつとして認識されつつあります。
ライフプランに応じて仕事を渡り歩く
さて、「就職先のひとつ」に注目する際に、まず、一般企業で就職されている方々の状況を考えてみましょう。日本では伝統的に「年功序列制」「終身雇用制」が敷かれた雇用形態であることは、これまで勉強してきたことからよくご存じかと思います。
このような制度が崩壊しているといわれて久しい現代の我が国においては、一度就職したら定年退職までその企業に在籍するという文化は通用せず、一定程度の社会人は自分のライフプランやキャリア設計に基づいて多様な仕事を渡り歩く人生を歩むようになりました。こういった社会人は、就職した先々の企業で様々な知識や技術を身につけて、自身の成長欲求を満たしています。
従業員への調査を実施
それでは、このようなキャリア設計は農業の現場ではどのように起こっているのでしょうか。私の研究では、このような背景を踏まえ、経営者や従業員などの多様な人材について、実際に従業員を雇用している経営体への調査等から、農業法人に就職した社会人のキャリア設計と能力開発の関係性について明らかにしています。
祖父が醤油や味噌などの調味料の醸造業を経営していたこともあり、大学は東京農業大学の醸造科学科に進学しました。将来、祖父が経営していた会社の後継者になることを意識していたので、醸造科学科在学中に、全国各地の醤油・味噌・清酒等の醸造業に研修に行きました。そうすると、どの蔵の社長さんも、「研究室レベルの技術は現場で活用できない」「技術よりも経営を勉強したほうがいい」とおっしゃっていました。
このようなアドバイスを参考に、大学院に進学し、同大学の修士課程でビジネスを学び、1年間新潟県で農業を経験したのちに、3年間博士課程で経営者能力の研究に関わることになりました。それ以来、経営者に限らず、従業員や外国人技能実習生等の技術獲得や能力開発に関わる研究をしています。
「農業法人の従業員におけるキャリアデザインとその変化に応じた能力育成の方向性の解明」
◆主な業種
(1) 農業、林業、水産業
(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(3) コンサルタント・学術系研究所
◆主な職種
(1) コンサルタント(ビジネス系等)
(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者
(3) その他
◆学んだことはどう生きる?
私の研究室は「意思決定情報解析学研究室」という名前で運営していますが、在籍する(していた)ゼミ生の特徴として、大学院進学者が多い、後継者・起業者が多いことがあります。経営者の意思決定の方法や、情報の取捨選択の実態解明を目的とした研究室ですので、農業に関わらず、様々な組織の後継者が卒業後に活躍しています。
また、経営者等を対象とした研究を実施していることから、多様な企業や農業経営体等の外部組織との共同研究を積極的に行っている研究室ですので、ゼミ出身者はICT企業から農業経営体まで、様々な業界で活躍しています。
日本農業の平均耕地面積はだいたい東京ドーム1個分といわれていますが、十勝地域の平均はその10倍です。他地域とは比べ物にならないくらい広大な農地面積を有する地域であることから、農業に関わる経営も、技術も、所有する機械も全く異なります。
特に、海外と比べてもそん色ない規模での農業経営を展開する地域に存立する大学であることから、実践的な農学が学べます。働き方も、作物も、機械も、技術も、様々な要素の規模が大きい十勝地域で、世界に引けを取らない最先端の農学および農業経済・経営学を学ぶことができます。
キャリア設計とは、将来の自身の仕事や生活をどのようにしたいかについて考え、計画することです。高校生のみなさんが、現時点で将来、「どんな仕事をしたいか」「どういう生活をしたいか」などの将来の目標を考えてみましょう。その目標に向かって何をしなければいけないのか、実際に目標とする生活をしている人たちはどんなキャリアパスを経験してきたのか、などについて聞いたり調べたりしてみましょう。
加えて、将来経営者になりたいという思いをお持ちの方は、自分自身がどのようなタイミングで「意思決定」をしているか、また、どのような「情報」を集めて意思決定しているかをよく考えながら生活してみましょう。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 帯広畜産大学(日本初の学内への酒蔵誘致がなされているため) |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ドイツ(食べ物が体に合っている) |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 繁華街の飲食店店長経験(良くも悪くもいろいろな人がいて社会が成り立っていることを実感したため) |
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Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? ペットのチワワと散歩すること |