刑事法学

人権と法、デュー・プロセス

アジア、アフリカでの人権やジェンダー平等を保障する法の在り方


河村有教先生

長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 国際公共政策コース(多文化社会学研究科)

出会いの一冊

レ・ミゼラブル

ヴィクトール・ユゴー、訳:西永良成(ちくま文庫)

はしがきに「法律や慣習などを理由に、文明のただなかに人為的な地獄をつくりだして、不運な人間の崇高な天命を混乱させる社会の断罪が存在するかぎり、(中略)本書のような性質の書物も無益ではあるまい。」とあります。

法や慣習が人為的な地獄をつくりだす、そうならないように、第二次世界大戦後、国際連合憲章(1945年6月26日調印、1945年10月24日効力発生)から世界人権宣言(1948年12月10日採択)、そして国際人権規約〔自由権規約・社会権規約〕(1966年12月16日採択、1976年3月23日効力発生)が「人類の智慧」として生み出されました。

悪法か否か、悪慣習・伝統か否か、その法や慣習・伝統が適用される者の個人の権利(人権)を侵害しているか否か、個人の尊重、人間の尊厳という人権の視点からも大いに考えさせられる小説です。

「小説はちょっと・・・長すぎる」という人は、先ずはミュージカル(可能であれば生のミュージカル)を観ることをお勧めします。

こんな研究で世界を変えよう!

アジア、アフリカでの人権やジェンダー平等を保障する法の在り方

私たちの自由と権利を守る「法」

犯罪と刑罰に関する法律が「刑法」ですが、犯罪が生じた場合の警察官による被疑者の身柄の確保や証拠の収集、検察官に公訴の提起を経て、裁判官の証拠による事実認定から有罪無罪の判決までの手続をルール化した「刑事訴訟法」の研究を進めてきました。

さらに、日本国憲法第31条の法律の定める手続によらなければ自由は奪われないとする「Due Process(法定の適正手続)の保障」から、国家権力による個人の人権の制約・侵害の問題について、日本のみならず、アジア、アフリカ諸国に生じている問題に目を向けて、立法(法改正を含む)のあり方や法解釈について研究を進めています。

慣習法と国家法の対立を乗り越えて

くわえて、日本国憲法第14条のジェンダー(性別)によって差別されない権利の保障からジェンダーと人権の問題や、アジア、アフリカ法の法体制の問題、すなわち多民族・多部族社会における伝統や文化に由来する慣習法や宗教法とシビル・ロー(大陸法)やコモン・ロー(英米法)を継受した国家法との間の多元的法体制下における対立する価値(イスラム法にもとづく女性の権利の制約と国家法におけるジェンダー平等との関係)をどのように調整して「法の支配」を実現するのかについても研究してきました。

人権保障に法が果たす役割・意義

「人権保障において法がその社会に果たす役割・意義」はとても大きいものです。

Due Process(法定適正手続)の保障、個人の尊厳、ジェンダー平等を保障する法の在り方について、日本を含めて、アジア、アフリカ諸国において、人権の制約・侵害を是正するため法が社会に果たす役割・意義を伝えながら、「人権と法」の研究を続けています。

オランダにある国際刑事裁判所(ICC)
オランダにある国際刑事裁判所(ICC)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学でのゼミの先生との出会いです。人権、とりわけ人身の自由における「デュー・プロセス論(Due Process of Law)」を説かれている田宮裕先生のご研究とお人柄にふれて、刑事訴訟法に関心を持ちました。

アメリカ法やイギリス法、ドイツ法と日本法との比較(法)に関心を寄せる研究者が多い中で、日本の刑事訴訟法と中国法、韓国法、台湾法との比較(法)に関心を持ったことが、アジア、アフリカ法への関心の始まりでした。

台湾の司法院の憲法法廷
台湾の司法院の憲法法廷
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「アジア・アフリカ諸国における「法の支配」をめぐる問題の法人類学的検証」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
河村先生の著書『入門刑事訴訟法【第2版】』(晃洋書房、2022年)
河村先生の著書『入門刑事訴訟法【第2版】』(晃洋書房、2022年)
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

(2) 食品・食料品・飲料品

(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1) 総務

(2) 営業、営業企画、事業統括

(3) 事業推進・企画、経営企画

◆学んだことはどう生きる?

・学部のゼミ生の多くは、地方公務員や裁判所職員、また民間会社(広く、マスコミ、金融・保険、食品、卸売・小売業)への就職を目指して、卒業後に就職しています。

・法学を学ぶことにより法的思考(リーガル・マインド)を身に着け、問題点・課題を見つけて、改善策を提案する能力や意見が対立することについて議論を論理的に整理する能力、わかりやすい言葉で論理的に説明する能力等、社会人として必要とされる技能をゼミで養成しています。

先生の学部・学科は?

多文化社会学とは、「グローバルな人文学・社会科学」のことを指します。長崎大学多文化社会学部を卒業すると、多文化社会学士(英語では、Bachelor of Global Humanities and Social Sciencesですので、つまりはグローバルな人文学・社会科学の知識を身に着けた者)の学位が授与されます。法学と社会学、人類学、二つの学問分野の知識を学ぶこと、例えば、ジェンダー問題についての法学の視点と社会学、人類学の視点からそれぞれ学ぶことができます。「広く浅く」の知識になってしまわないかと心配かもしれませんが、自身の学びへの姿勢しだいで、多文化社会学部において「広く深く」の人文学・社会科学の知識を身に着けることも可能です。

日本国内では唯一、オランダのライデン大学の先生から、国際法やEU法を直接に学ぶこともできます。日本で留学した気分にもなれます。大学院の指導学生には、ケニア人学生、イスラエル法を研究している日本人の学生がいます。学生それぞれの外国語の語学力(多くの学生は英語力)を活かして、日本法のみならずアジア法やアフリカ法について学ぶこともできます。

多文化社会学部の様子
多文化社会学部の様子
先生の研究に挑戦しよう!

人権週間等で、人権教育講演会における人権についての講演を長崎県内の高校にお願いされます。例えば、外国人の権利保障を考えるにおいて、日本の「出入国管理及び難民認定法」(日本法)の問題点についての講演をしました。

全校生徒に、
(1)校則が「よいもの」か「悪しきもの」か、その理由は何か、
(2)法(ルール)の内容が「よきもの」か「悪しきもの」か、どのようなものさし(規準)で判断されるべきか、
(3)入管(出入国在留管理庁)での外国人の入管収容所はいくつあるか、また収容者の実態はどのようなものか、
(4)2023年法改正された「出入国管理及び難民認定法」の改正内容について、入管や日本政府はどのような問題が解決できると主張しているか、
(5)改正入管法は「悪法」か否か、「悪法」だとする場合にはどのような点が悪い点か、
(6)国際法で一般的に保障されるべき「外国人の人権」とはどのようなものか、
1年生から3年生の各学級で個人で調べてもらい、グループディスカッションをしてもらって、講演しました。

外国人の人権と法の問題だけでなく、取り組むべく法や人権の問題は皆さんの身近にあります。

中高生におすすめ

赤ひげ診療譚

山本周五郎(新潮文庫)

「毒草から薬を作り出したように、悪い人間の中からも善きものをひきだす努力をしなければならない、人間は人間なんだ」

自分の弱さや問題点を顧みながら、若き成年医師が赤ひげ医師との出会いにより、謙虚に自分の進むべき道を模索していくストーリーです。人の生き方の一つを示してくれる本です。


大川わたり

山本一力(祥伝社文庫)

「こころの鍛錬ができれば、剣を抜かずとも相手を斃(たお)すこともできる」「相手を見切るのも大切な眼力だ」「未熟な者ほどおのれを過信し、相手を見くびることで大怪我をする」

謙虚さをもって学び続けることで人が成長するあり様を描いた時代小説です。あとがきで、著者の山本一力さんは「ひとは幾つになろうとも、歳とともに成長を続ける生き物です。体力も根気も、若いころとは比較できないほどに衰えます。が、知恵には限りがありません。」と述べています。謙虚さをもって研究を続けることの私自身の道標になりました。


天守物語 「ちくま日本文学011泉鏡花」より

泉鏡花(ちくま文庫)

主が美しい鳥を見て、それが欲しさに勝手に自分でそらした鷹を、家来の鷹匠の咎(とが)として鷹匠の命をさし出すのが「臣たる道」とするくだりで、主人公の天守夫人(女性)が「その道は曲っていましょう。間違ったいいつけに従うのは、主人に間違った道を踏ませるのではありませんか。」と鷹匠に問います。

詩的な文章の中に清々しさを感じる作品(戯曲)です。この作品(戯曲)を読むと、「曲がっているのは曲がっている」、「間違っているのは間違っている」とは決して言いづらい社会的関係の中で、主体性をもって自分の主張を言いなさいと、後押ししてくれる力を与えてくれます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

法学

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

クラシック音楽(なかでも、ブラームスの交響曲第1番やラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、ベートーヴェンのピアノソナタ『悲愴』、『月光』が好きです)

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『生きる』監督:黒澤明(1952年公開)と、『王様と私』監督:ウォルター・ラング、出演:ユル・ブリンナー(1956年公開)

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

オペラ、ミュージカル、宝塚、歌舞伎鑑賞

Q5.好きな言葉は?

自分の名前の由来の『有教無類』


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