正しいビジネス 世界が取り組む「多国籍企業と人権」の課題
ジョン・ジェラルド・ラギー、訳:東澤靖(岩波書店)
「ビジネスと人権」を語る際には欠かせない、国際連合人権理事会で採択された「保護・尊重・救済:ビジネスと人権のための枠組み」(2008年) と「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)という2つの文書を主導したジョン・ジェラルド・ラギー氏の手になる一冊です。
どのような多国籍企業によってどのような国際人権上の困難が生じていたのか、国家・企業・市民社会が協働するためにラギー氏がどのように尽力したのかが克明に描かれています。少し内容は古くなりますが、「ビジネスと人権」の出発点としては必読だと思います。
グローバル経済の人権問題に国家はどう取り組むか
1つの商品に多くの国が関わっている
私たちの日常生活は非常に多くの国に支えられています。手元のスマートフォンでも、設計した国、各素材を産出した国、各部品を製造した国、それらを組み立てた国があります。食材であっても、飼料や肥料まで考えれば日本国内で完結しているとは言えないでしょう。私たちの生活は地球規模の複雑な商品ネットワークの上に成り立っています。
商品の流通過程にある人権侵害
そのネットワークの中で人権問題が生じている場合があります。過酷な労働環境や児童労働、人種差別など、現代奴隷ともいうべき状況が問題視されています。私たちは人権侵害の上に様々な商品を享受しているかもしれないのです。これは近年では「ビジネスと人権」として語られる問題の1つです。
この問題を難しくしている要因の1つは、国際関係は領域内のことを自分で決める主権国家同士の関係がメインであり、他国で起きている人権問題に対して直接手出しすることは難しいということです。そこで、多国籍企業が自主的に流通過程で人権侵害が生じていないかをチェックすることが期待されています。また、現在では、欧米では法律でそれを義務付けているところもあります。
国家の権限と義務
私の研究は、このようなグローバルな経済市場の状況において、主権のある国家の権限と義務を憲法学の観点から説明することです。従来は経済市場と国家とを対立させ、国家の介入は例外的に理解されていましたが、私は、様々な秩序の1つとしてグローバルに広がる経済秩序を理解し、国家をその秩序の中に入れて、国家には庭師のように(世界の)経済秩序を維持する権限と義務があると考える方向を模索しています。
「法」の世界へ進路が向いたきっかけは、小学生のころ、木村拓哉主演の『HERO』で検事という職業を知ったことだったと思います。その頃から大学は法学部に行こうと思っていました。大学の演習(ゼミ)などで憲法に多少の興味は出たものの、成績は特段良くなかったので学者はほぼ諦め、素直に法科大学院に進学したのです(ちなみに第一志望は落ちてます)。そこで、せめて記念にとリサーチペーパーを出したところ、学者に興味があるかと問われ、今に至ります。
「規制目的二分論のグローバルな再構成とその基礎理論の探求」