エネルギー関連化学

金属錯体

マンガン酸化物に何を挟む?水素発生のメカニズムを解明


友野和哲先生

関東学院大学 理工学部 理工学科 応用化学コース(工学研究科)

出会いの一冊

Dr. Stone

稲垣理一郎 、Boichi(ジャンプコミックス)

いろいろな科学をゼロから作り上げていく本格科学物語です。

第2巻で主人公が石を砕いて石斧を作ります。次に、その石斧を使って紐を作ります。話の中では直接触れられませんが、実はその紐を使って石斧が改良されています。

科学は連続的に発展します。研究には成功もあれば失敗もありますが、それはコインの裏と表のように、どちらも研究課題に対する最高の研究成果を出すために必要なアプローチです。私の研究内容も失敗から見出されました。

失敗をどう受けとめ、それを成功に変えるかは普段の観察と積み重ねです。科学に対する姿勢を学べるキッカケとなりえると思います。なお、ダイヤ電池が漫画に出てきますが実在しますよ!

こんな研究で世界を変えよう!

マンガン酸化物に何を挟む?水素発生のメカニズムを解明

サンドイッチに似た層状構造

サンドイッチを作ったことはありますか。野菜サンド、お肉サンド、イチゴサンドなど、挟むものによって、サラダにも主食にもデザートにもなりますし、そのカロリーは大きく変わります。

研究対象としているマンガン酸化物(MnO2)はサンドイッチに似た層状構造を形成します。サンドイッチ同様に、様々な化合物を挟んで、層状マンガン酸化物との協奏的な効果により電気貯蔵の物性向上に挑戦しています。

層状マンガン酸化物から水素を回収

今回紹介する研究内容は、その研究過程で光を当てると気泡を発生しながら層状マンガン酸化物が壊れるという失敗から生まれました。

この光化学反応を詳細に調べてみると「水の電気分解反応」でした。通常の反応に比べて低いエネルギーで反応が進み、低エネルギーで電気を水素燃料として回収できることがわかりました。

主として、層状マンガン酸化物に挟んでいるイオンは金属錯体です。金属錯体とは金属イオンと有機化合物からできており、その組み合わせは無限にあります。

挟む「金属錯体」と「光」の条件は

また、金属錯体の特徴と言えば「色をもつ」物質です。色をもつ物質は可視光を吸収します。つまり、太陽光を吸収してさらに低いエネルギーで水の電気分解を起こすことが可能です。

現在、「金属錯体」と「光」の系統的な変更による条件の最適化と水素発生メカニズムの解明に取り組んでいます。

ぜひ、皆さんの自由な発想のもと、「何を挟む?」をキーワードに、エネルギー問題を一緒に解決できる日を楽しみにしています。

水素生成の様子
水素生成の様子
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

学部・院生の頃は、超電導や触媒などの機能性物質に脂肪鎖や水素結合が生じる官能基を系統的に結合させ機能性の変化について解析していました。

研究者としての武者修行中に層状化合物に出会い、過去の研究を融合しました。また、太陽電池や半導体のリサイクル研究も同時並行で進めていたため、自然と「層状化合物の層間イオンを系統的に変化した際に、どのような変化が系統的に観察されるのか?」「この機能性物質の電気化学的性能や触媒性能の向上」という研究テーマが立ち上がりました。

現在は、研究室を独立運営するまでの積み重ねてきた経験が全て凝縮された研究を展開しています。

水素グループの実験の様子
水素グループの実験の様子
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「金属錯体を包含する層状Mn酸化物による水電解の高効率化と速度論解析」

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先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
友野研究室のメンバー。当ラボでは研究の他に産学官の地域連携活動にも積極的に参加しています。
友野研究室のメンバー。当ラボでは研究の他に産学官の地域連携活動にも積極的に参加しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) 食品・食料品・飲料品

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

層状化合物を研究対象として各種分析装置の使い方から解析方法までを学んでもらいます。また、大学やYouTube動画等および産学官連携活動を通してアウトプットも教えています。

卒業時には、各種分析装置について深い知識とアウトプット力が身についています。例えば、最新のエネルギーデバイスを開発する研究職に就いたり、地域の中高生と一緒に食品について考え新商品を開発している学生さんもいます。

先生の学部・学科は?

私の所属する理工学部応用化学コースは自然科学(理学)と実用技術(工学)の融合を通して、物質の本質や反応メカニズムを理解し、新素材や技術開発に挑戦しています。

学生さんは基礎から応用まで幅広い知識を身につけ、実験や研究を通して自らの想像をカタチにします。「化粧品・製薬・エネルギー・環境・分解性プラ・ナノ材料」の研究室に所属し知識を深められます。

将来の科学者やエンジニアを育て、研究と産業の両方で活躍できる人材を輩出しています。

先生の研究に挑戦しよう!

「水の電気分解」
1800年にボルタにより電池が発明されます。同年、カーライルとニコルソンによりボルタ電池を使った「水の電気分解」が行われ、これが人類史上初の電気による「物質変化」の実験です。

科学史に合わせて実験することにより、当時の人がどのようなアプローチをしたのかを調べるキッカケにもなりえます。最新研究は大学で必ず出来ます。今いる場所で何が出来るかをゆっくり考える時間を作ってみてください。

中高生におすすめ

学研の科学 水素エネルギーロケット

学研の科学編集部(学研プラス )

2022年、12年ぶりに復刊した「学研の科学」の第一弾です。手回し発電機で水を電気分解し、作った水素を爆発させてロケットを飛ばすことができる実験キットを実際に作製できます。

やっぱり、実際に「自分で作り、触れ、反応させ変化を見ること」ができる体験実験は科学における魅力のひとつですね。


ご冗談でしょう、ファインマンさん

リチャード P. ファインマン、訳:大貫 昌子(岩波現代文庫)

朝永振一郎先生とともにノーベル物理学賞を共同受賞した天才物理学者リチャード P. ファインマン先生の自伝。

とにかく物理学を少しも学んでいない人が楽しく読める有名な著書。大学の先生という肩書からは想像もできないイタズラ好きなファインマン先生のエピソード集です。

この本を読むことで「真の知的好奇心とは何か」を学べます。また、カリフォルニア工科大学時代の講義内容をもとにした物理学の教科書『ファインマン物理学』は、世界中で多くの物理学者を輩出し続けています。


センスは知識からはじまる

水野 学(朝日新聞出版)

「センスが無いですから」という言葉を発したことがある方は是非とも読んでほしい本です。

センスは生まれつき備わっているものではなく、日々の知識の積み重ねとその知識をもって行動することで得られた結果について俯瞰してみることでまた積み重ねる。センスについても、努力や知的好奇心で磨けるということがわかる一冊です。

一問一答
Q1.感動した/印象に残っている映画は?

『セント・オブ・ウーマン / 夢の香り』。教員を目指す学生さんには絶対に勧めています。何より、アル・パチーノの最後の演説は圧巻です!

ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めたダニエル・ピンクも、よいスピーチのための「3つの要素」として「要点を繰り返すこと」を挙げています。ということで、「アル・パチーノの最後の演説は圧巻です!!」。

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

最近、熱中したゲームはマインクラフトですね。子どもと協力して冒険できるゲームと聞いて購入しました。このゲームの魅力は「明確なゴールが設定されていない」ことですね。これは研究にも通じるところがあります。

一度プレイすれば、問題解決力や論理的思考力に加えて創造力と計画力が養われることがわかるかと思います。このどれもが研究者にとっては必要なものです。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

YouTubeチャンネルの運営ですね。感染症で対面授業ができないのがきっかけで本格的に始めました。遠隔授業でどのようにすれば授業が楽しく伝わるかを考えていく過程で、ヒカキンさんも含めて多くのYouTuberさんを視聴・分析・参考にするうちにYouTubeの世界の奥深さにどっぷりハマりました。

学会等でも他大学の視聴者さんから「いつもみてます!わかりやすくてありがとうございます!」と声をかけていただく機会が増えてきて、嬉しい反面その対応(握手?写真?)をどうすればよいか悩んでいます(笑)

Q4.好きな言葉は?

実践躬行(じっせんきゅうこう)は研究室のモットーでもあります。理論や信条等の思考を自分自身で実際に行うという意味です。

「とにかくやってみよう!」という行動原理は研究にも活かされています。予想通りに研究結果が得られても面白いですし、予想に反した研究結果が得られても「やっぱり」面白いです。

なぜなら、その研究結果は世界中の誰もが知らない新しい事実であり、それが自分の行動によって初めて明らかになるからです。


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