土木計画学・交通工学

リモートセンシング

無数の道路法面を、衛星とドローンで効率的に点検


朝香智仁先生

日本大学 生産工学部 土木工学科

出会いの一冊

「だいち」の目

宇宙航空研究開発機構(日経ナショナルジオグラフィック)

地球観測衛星は、可視光域の波長帯から人間には見えない波長帯まで、光学センサや合成開口レーダなどのセンサを使って、地表面の状態を可視化します。本書では、JAXAが運用していた「だいち(ALOS)」の3つのセンサ(AVNIR-2、PRISIM、PALSAR)が捉えた様々な地表面の写真が、解説とともに紹介されています。難しいことは抜きにして、この本は、写真を眺めるだけでも面白いと思います。

身近なところで実用化されているリモートセンシングは、天気予報に使う衛星画像だと思いますが、「リモートセンシング」は、まだまだこの先、様々な分野で実用化が期待できる技術です。若い方に、自由なインスピレーションで、新しいリモートセンシングの使い方を考えてもらいたいと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

無数の道路法面を、衛星とドローンで効率的に点検

土砂災害から道路を守る、斜面の構造物

日本は、国土の約75%を占める面積が山地で占められていて、世界的に見ても森林率(国土面積に占める森林面積の割合)の高い国です。一方、道路密度(国内の道路総延長を陸地面積で割った値)も世界的に高く、当然ながら山地を切り開いて道路整備が行われています。

人の暮らしを便利にする道路ですが、山地での道路整備では道路の外側に法面(のりめん)が現れ、その工事の影響で発生する土砂災害等から人や道路交通を守るためには、斜面を安定させることが重要になります。人工的に斜面を安定化させる法面工事にはいろいろな工法がありますが、基本的にはコンクリート等が使われますので、造った後は構造物そのものを維持・管理していくことが必要になります。

衛星画像で一度に広い範囲をチェック

構造物も経年変化によって劣化していきますので、定期的に点検をして、その安全性を確認しなければなりません。人間も健康を維持するために、定期的に健康診断をしますよね。それと同じで、道路法面も法定点検が義務付けられていて、その点検要領も定められています。

ですが、目視等が基本になっている点検を、日本国内に無数に存在する道路法面に対して全て実施するためには、莫大な時間と費用がかかります。そこで、リモートセンシング技術が活用できれば、点検の一次スクリーニングが可能になります。地球観測衛星は、周期性(同じ場所を何回も観測すること)・広域性(一度に観測できる範囲が広い)に優れていますので、詳細な点検ができなくとも、平時との違いが少しでも確認できれば、あとは現場で詳細に確認すれば良いことになります。

ドローンやAIも使って迅速に点検

もし、人が行きにくい場所であれば、いまは無人航空機(ドローン)も使えますし、ドローンで撮影した画像をAIによる画像診断にかければ、迅速な点検も可能になります。私の研究室では、ドローンによるミクロな視点から衛星によるマクロな視点までのモニタリングを組み合わせることで、道路法面の点検作業の本質的な効率化が図れるのかを明らかにするための研究を行っています。

衛星画像をつかった道路法面の動態調査に関する研究を、2015年から実施しています。写真は、2018年当時の現地調査写真です。
衛星画像をつかった道路法面の動態調査に関する研究を、2015年から実施しています。写真は、2018年当時の現地調査写真です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学生のときに、初めてランドサットと呼ばれる地球観測衛星の画像をゼミで見せてもらいましたが、そこが研究職を目指す全ての始まりだったと思います。可視光と短波長赤外線のRGBカラー合成画像だったのですが、山岳地が見たこともない色で着色されていて、非常に感動したのを今でも覚えています。その時はちょっとしたきっかけでしたが、ちょうど自分の将来を考える時期とも重なり、大学院進学を決めることに繋がりましたし、その後も関わっていきたいなと思えるものに変わっていきました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「ドローンと衛星リモートセンシングの併用による道路法面点検の効率化」

詳しくはこちら

「多時期ALOS-2/PALSAR-2を利用した法面の変位量推定」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
レーザスキャナとマルチスペクトルカメラを搭載した大型ドローンによる、都市公園における樹木の点検・診断に関する研究を大学院生・卒研生とともに、委託研究として実施していました。写真は、2019年当時の現地調査写真です。
レーザスキャナとマルチスペクトルカメラを搭載した大型ドローンによる、都市公園における樹木の点検・診断に関する研究を大学院生・卒研生とともに、委託研究として実施していました。写真は、2019年当時の現地調査写真です。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 建設全般(土木・建築・都市)

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1) 生産管理・施工管理

(2) 技術系企画・調査、コンサルタント

(3) 設計・開発

◆学んだことはどう生きる?

国の機関から民間企業まで、様々な場所で技術者として活躍している卒業生がほとんどですが、私の専門分野に関係する研究職として働いている大学院修了生がいます。日々リモートセンシングに特化した業務に携わることができる法人で、環境問題、災害、国土管理、農林水産など様々な分野の社会課題の解決に貢献しています。卒業研究から大学院にかけて学んだ知識・技能が基礎となり、今も好きなことを仕事としてできているようです。

先生の学部・学科は?

生産工学部は千葉県習志野市にあります。千葉県は地理的に東京湾から太平洋に面している半島で、世界的に有名なテーマパークがあるほか、歴史的町並みが残る地域、緑深い里山、様々な農地、日本でも最大級の砂浜海岸が続く海岸線、および標高は高くないものの山岳地もあり、多彩な土地利用で構成されている地域です。地域貢献を考えながら様々なフィールドで研究ができる、良い環境にあると思いますよ。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

“地形と気象"で解く!日本の都市誕生の謎 歴史地形学への招待

竹村公太郎(ビジネス社)

地形と人類の歴史との関係性に気づくことができる、良書だと思います。土木技術者を目指す人には、読んでもらいたい一冊です。


なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと

監修:池上 彰(学研プラス)

「働くこと」について、一度、立ち止まって考えることができる本だと思います。私の場合は、自分の子供たち(小学生ですが)に買ってあげました。


東京名木探訪

近田文弘、写真:川嶋 隆義(技術評論社)

東京にある「名木」が、写真とともに紹介されていますので、興味がある人には面白いと思います。ちなみに、著者は、大学院生だった時にお世話になった先生で、皇居の樹木(一般には入ることができない場所)の調査にも、ご一緒させていただいたことがあります。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

地球科学

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

サザンオールスターズ

Q3.大学時代の部活・サークルは?

大学院生の時に、研究室でフットサルチームを作って楽しんでいました。


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