知能機械学・機械システム

磁気浮上

幅広い可能性を持つ磁気浮上技術。柔らかい素材を安定して浮かすには


成田正敬先生

東海大学 工学部 機械システム工学科

出会いの一冊

マイノリティ・リポート

監督:スティーヴン・スピルバーグ

この映画で描かれる2054年のワシントンDCでは「マグレブ」と呼ばれる自動車が磁気浮上で浮きながら街中を走っています。今の自動車はタイヤの摩擦力を使いますが、摩擦力を発生させるためにはタイヤを路面に押し付ける力が必要です。もし壁を走ろうとするとこの力がなくなるので壁を登れません。このマグレブは磁力を使ってマンションの壁を走り、ベランダに直接乗り入れたり劇中重要な小道具として登場します。

私達の身の周りには接触と摩擦が色々な所に使われていますが、摩擦のある限り部品の修理や交換が欠かせません。これらを磁気浮上技術を使って置き換えると私達の生活はより豊かになるのではないかと期待しています。

こんな研究で世界を変えよう!

幅広い可能性を持つ磁気浮上技術。柔らかい素材を安定して浮かすには

いよいよリニアモーターカー開通

東京と名古屋を結ぶリニアモーターカーの工事が始まりました。あと数年して皆さんが大学を卒業して仕事を始める頃には開通して、時速500キロで名古屋に1時間足らずで行けちゃうようになります。

このリニアモーターカーは磁気の力である磁力を使って浮きながら走る鉄道なので、「磁気浮上鉄道」と呼ばれます。

触らずにモノを持ち上げて、動かす技術

この「磁気」を使ってモノを「浮上」させる、というのが私の研究テーマである「磁気浮上」です。

磁力は直接触らずに力を伝えることができるので、これをうまく使うと「直接触らずにモノを持ち上げて、動かす」ことができます。こう書くと何だか色々なことに使えそうですね。

薄く柔らかい鋼板を浮かす

リニアモーターカーは、今営業している東海道新幹線と同様の16両編成程度で運行することが予定されています。皆さんは新幹線のホームを歩いたことがあるでしょうか。一番前から後まで歩くとすると結構距離があるなと思いますよね。400メートルあります。

そんな400メートルもある、遠くから見るとヒモのよう長い物体が時速500キロで宙を浮きながら走る、というのがいま完成に向けて工事を続けているリニアモーターカーです。そんなヒモのような柔らかいものが宙に浮きながら走ったらどんなことが起きるのでしょうか。

私の研究室では、鉄道のかわりに薄く変形しやすい柔らかい鋼板を使って、磁気浮上させたときにどのようにすれば安定して動かせるのかを研究しています。

柔軟なベルト状の鋼板の実験装置です。板厚は0.2ミリです。皆さんが使っているシャープペンシルの芯よりも薄いので、変形したり、振り子のように振れたり、色々な振動をします。この下の部分に電磁石を使った制御装置を置いて、磁力を使って安定させようとしています。また装置の上部にモーターで回すタイヤが付いていて、走行できるようになっています。
柔軟なベルト状の鋼板の実験装置です。板厚は0.2ミリです。皆さんが使っているシャープペンシルの芯よりも薄いので、変形したり、振り子のように振れたり、色々な振動をします。この下の部分に電磁石を使った制御装置を置いて、磁力を使って安定させようとしています。また装置の上部にモーターで回すタイヤが付いていて、走行できるようになっています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校生のときに「グランツーリスモ」というレースゲームにハマっていました。そこから将来は自動車メーカーでエンジンの開発がしたいと考えるようになり、自動車のエンジンなどの動力機械を勉強できる大学を探して受験しました。

色々あって磁気浮上の研究室に入り、大きな鋼板を浮上させるテーマをしていたのですが、計算通りに浮上しないことも多く、数式では解明できないテーマが面白くなり、今に至ります。

鋼板の実験装置の磁気浮上技術を使っている部分です。中央に見える鋼板の左右にある赤、黄、白のパーツが電磁石で、これに電流を流すことで磁力を発生させます。鋼板の左側に位置を測るセンサーが付いていて、このセンサーの情報をフィードバックして、鋼板を安定させるように電磁石を制御します。
鋼板の実験装置の磁気浮上技術を使っている部分です。中央に見える鋼板の左右にある赤、黄、白のパーツが電磁石で、これに電流を流すことで磁力を発生させます。鋼板の左側に位置を測るセンサーが付いていて、このセンサーの情報をフィードバックして、鋼板を安定させるように電磁石を制御します。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「フレキシブル素材の磁気浮上搬送システム」

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もっと先生の研究・研究室を見てみよう
磁力は目で見えないため、どのような力が鋼板上に発生しているか、コンピュータを使って解析します。左手前が鋼板、奥に見える黒と茶色の物体が電磁石です。鋼板から電磁石に向かって青や緑色の矢印が出ていますが、これが吸引力になり、磁気浮上制御させるための力になります。このデータをコンピュータに入力し、より安定する制御が行えるように調整します。
磁力は目で見えないため、どのような力が鋼板上に発生しているか、コンピュータを使って解析します。左手前が鋼板、奥に見える黒と茶色の物体が電磁石です。鋼板から電磁石に向かって青や緑色の矢印が出ていますが、これが吸引力になり、磁気浮上制御させるための力になります。このデータをコンピュータに入力し、より安定する制御が行えるように調整します。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 自動車・機器

(2) 一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等

(3) その他の輸送用機械・機器(自動車・船・航空機・鉄道以外)

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 生産技術(プラント系以外)

(3) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

ホンダやスズキ、スバルなど世界を代表する自動車メーカに多くの学生が就職しています。また自動車を製造するためには様々なパーツが必要ですが、それらの部品メーカーにも多く就職します。

磁気浮上とは直接関連しない業種に就職する学生が多いですが、大学での研究活動の経験を活かして、新しい技術の研究や新しい自動車の開発といった部署で多く活躍しています。

先生の学部・学科は?

私の学科はロボットや自動車などのモビリティをテーマに、機械そのものとそれを支援するセンサやコンピュータなどのシステムをまとめて勉強できる特色を持っています。モビリティ分野ではソーラーカーの世界大会を戦う先生や、レーシングカーの研究をしている先生、ロボット分野では人が装着して動作をアシストするスーツを作る先生など、機械システムを利用した先進的な研究をしている先生が多く在籍しています。

先生の研究に挑戦しよう!

(1)あなたの身の回りにある機械の仕組みを調べ、摩擦がどのように使われているかまとめてください。

(2)摩擦が使われている部分を磁気浮上技術で置き換えるとしたら、どのような装置が良いか考えてみてください。

中高生におすすめ

宇宙兄弟

小山宙哉(講談社)

宇宙飛行士ムッタの成長物語としてすごく面白いですが、科学や工学というものが人を豊かにするためにあるんだ、という科学や工学を学ぶ人にとってすごく大切なスピリッツが色々な場面に散りばめられています。色々な人に読んでほしいですが、理系志望の人は是非!

個人的にはピコとのやり取りとか、せりかさんの薬づくり、シャロン望遠鏡の話が好きです。


死ぬことと見つけたり

隆慶一郎(新潮文庫)

皆さん日々高校生活を過ごしていく中で、「ここぞ」というタイミングはないでしょうか?中間や期末の試験、部活の大会やコンクールなど、今一番頑張らなければいけないタイミングがありますよね。

この本は江戸時代初期に佐賀で生まれた武士の話です。この話はここぞというタイミングでどう頑張るか、そしてそのためにどんな準備をしておくのか、が描かれています。簡単に諦めず、すぐに暴発せず、ここぞというタイミングに向けてすべてを集中させる生き方は、すごくお手本になりました。


スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました

森田季節(SBクリエイティブ)

ちょっと硬い本が続いたので最後に一つ。

大学では文系理系問わず色々な本を読むことになります。最近は解説動画なども多く投稿されているので、文字を読まなくても色々な知識を得られるようになりましたが、まだまだ大学の勉強では本から知識を学ぶことが多いです。ぜひ色々な活字に触れて、文字から情報を得る練習をしておくといいと思います。

挙げた本はちょっと前に放映されたアニメの原作ですが、空気感が好きで原作の本を読んでいます。これに限らず原作を通じて色々な活字の本を読む、という体験をぜひたくさんしてみてください。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やっぱり機械工学!ww

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

バッハ『無伴奏チェロ組曲』

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『もののけ姫』

Q4.大学時代の部活・サークルは?

社会人の吹奏楽団に入っていました

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

中華料理屋で皿洗い


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