なぜ加害者に男性が多いのか。脱暴力と更生に向けた加害者研究
加害者との対話、暴力を振るう心理を研究
刑務所のなかの性犯罪者、子ども虐待をする父親、妻を殴るDVの夫(配偶者間の暴力)、体罰を振るう教師、ハラスメントをする上司や先生、嘱託殺人の犯人等、多くの加害者たちはどうして暴力を振るうようになったのか、その暴力をどうすればいいのかについて、対話をしています。脱暴力と更生に向けた臨床的な対話です。加害者対策の研究です。
暴力は「男性問題」
こうした暴力加害者のほとんどは、男性です。だから男性問題ととらえています。また暴力が起こる関係性も重要です。例えば、家族を媒介にして虐待とDVが交差します。家族という親密な関係性が暴力を誘発すると考えます。
これらは「加害者心理の研究」ですが、相当な広がりをもって存在していますので、個人を対象にした心理学的把握を乗り越える必要があります。脱暴力をめざすので臨床的ですが、視野は社会学的ですし、法学の知識も必要となり、包括的に「臨床社会学研究」と名付けました。
暴力は、男性性や育ちと深い関係がある
これらの暴力の加害者は、育ちの過程で虐待を受けてきたことが多いということがわかっています。何らかの問題解決のために暴力を用いることが多くあります。思考と行動の習慣となった暴力を用います。
さらに、彼らは虐待や逆境のなかを乗り越えてきたという自負とともに、男性的な自己像を創っています。それが長じて暴力を振るうのです。暴力の再生産といいます。こうして暴力は男性たちの心理と身体に宿っていき、男性性(ジェンダー)や生育過程と深く関わり、存在していると考えています。
脱暴力を、政策と心理から
そこで脱暴力のための制度・政策研究(修復的司法や臨床法学研究・治療法学といいます)と、加害者を前にした時の脱暴力への心理臨床論の双方について研究しています。男性性と暴力の関係は複雑なのですが、脱暴力は時代の課題なので、少しでも平和な世界を作りたくてこの研究をしています。
直接的に、人間の身体と心理に攻撃を加える暴力はわかりやすいし、何よりも痛くて苦しいので否定できます。しかし、社会には見えない暴力があります。社会が作り出す差別や貧困は、構造的な暴力といいます。追いやられた死としての自殺は、内部に向かう暴力です。自信が持てずに自己肯定感が欠如していくのは競争社会のせいでもあります。
男性の暴力はジェンダー暴力でもあります。こうして暴力を社会的に考えていきます。暴力をなくすことは、いろいろな意味で要の位置にある課題だと考えています。
◆先生が心がけていることは?
きょうとNPOセンターという組織をつくって市民活動を活発にする社会活動を多様にしています。
「男性性と暴力の臨床社会学的研究」
高橋康史
名古屋市立大学 人文社会学部 現代社会学科/人間文化研究科 人間文化専攻
ある日突然、家族の誰かが犯罪者になったらどうするのかについて研究しています。他者と異なる自分を発見していく過程が独特です。
深尾昌峰
龍谷大学 政策学部 政策学科/政策学研究科 政策学専攻
阪神淡路大震災の後、NPOやNGO活動を展開し、社会問題の解決に新しい仕組みと発想をもたらしました。社会問題をビジネスのモデルで解決する方策を研究しています。バイタリティのある、大学教授らしからぬ先生です。
◆学生が関心を持つのは
不登校、ひきこもり、子ども虐待や老人虐待、ドメスティックバイオレンス、ストーキング、薬物依存やアルコール依存、差別的言動とヘイトスピーチ、いじめやいじり等、社会病理には多くの学生が関心を持ちます。研究すべきテーマは多いです。
◆DV・虐待 加害者更生のために(NHK解説委員会アーカイブス)
◆増えるDV・・・なぜ妻や彼女を殴ってしまうのか?(読売新聞オンライン)
◆DV加害者の特徴や傾向は一括りにできない…束縛や不機嫌な態度に潜む“暴力性”とは?(WEZZY)
◆DV加害者に必要な対話とは?暴力的なコミュニケーションを肯定する「男らしさ」の“学び落とし”(WEZZY)
◆性暴力の被害者が、驚くほど「自分を責めてしまう」理由(現代ビジネス)
◆臨床社会学の方法 男性同士の関係性 男同士の親密さと脱暴力(対人援助学マガジン)
◆主な業種
(1) 病院・医療
(2) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)
(3) 福祉・介護
◆主な職種
(1) 大学等研究機関所属の教員・研究者
(2) コンテンツ制作・編集<クリエイティブ系>
(3) その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)
◆学んだことはどう生きる?
暴力だけではなく社会病理や社会問題を扱うので、マスメディアで番組を作る仕事をしている卒業が多くいます。さらに、社会問題の解決をビジネスモデルで図ろうとする、社会的事業型の組織で活動する卒業生が続きます。あとは専門職として活動している人も多いです。
人間科学研究科には、臨床心理士や公認心理師という資格に関する課程もあります。もちろん大学院なのでリサーチが基本です。この研究科は、アカデミックな人間科学とプロフェッショナルな人間科学の統合を目指しています。科学的な心理学と、実践的な臨床のための学問を統合することです。これに対応する立命館大学の学部としては、大阪・茨木キャンパスにある総合心理学部があります。私自身は、京都・衣笠キャンパスにある産業社会学部で、社会病理学や臨床社会学を教えています。
Q1.一番聴いている音楽アーティストは? クイーン。特に、『ボヘミアン・ラプソディ』。 |
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Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は? 黒澤明監督の『羅生門』。 |
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Q3.学生時代の部活・サークルは? 高校の頃は山岳部でした。 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 京都の南座で歌舞伎の大道具係をしていました。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 演劇を見ること、そしてやってみること。 |