22歳が見た、聞いた、考えた「被災者ニーズ」と「居住の権利」 借上復興住宅・問題
市川英恵(クリエイツかもがわ)
借上げ公営住宅の問題を、当時大学生だった著者が、丹念に現場を取材して考えながら書いた本です。阪神大震災の20年後に生じた、「借上げ公営住宅の問題って、こういう問題なんだ」ということがよくわかります。中高生の皆さんと年齢の近い筆者が、退去を迫られている入居者との交流を通じて聞き取った本当のところや、調べたこと、考えたことを書いているもので、皆さんにもわかりやすく、この問題を知ることができるようになっています。
研究者にはこのような本はなかなか書けません。少し難しいですが、同様のテーマを学術的に描いたものに、早川和男著『居住福祉』があります。住居を失うことは住む場所を失うだけではなく、近所づきあいなどの人間関係(生活そのもの)を失うことになります。著者は阪神大震災の直後の実体験を通して、住居が人間の生存につながることを教えてくれます。
入居者の強制立ち退きはなぜ起きた
住まいを失った人のための住宅
公営住宅をご存じですか。皆さんは、住居に住むのが当たり前と思っているかもしれませんが、偶然の出来事(家賃が払えなくなることや、天災)によって、住むところはなくなってしまいます。
その時のために、公営住宅があります。公営住宅では、家賃を払いさえすれば、住み続けることができるようになっています。
自治体により運用に格差
平成8年に公営住宅法の改正があり、自治体が建物を持っている人から建物を借り、それを公営住宅として貸すことができるようになりました。この「借上げ公営住宅」の仕組みは、平成7年の阪神大震災の際に、住宅難の解消のために使われることになりました。
今、この借上げ公営住宅に関するルールがわからないことで、自治体の運用が分かれてしまっています。ある自治体は、建物の所有者が建物の返還を求めていないのに、所有者に返さなければならないとして入居者に立ち退きを求め、別の自治体は、入居者がそのまま住めるようにしています。
発端は法のルールがわからないこと
80歳を超える入居者に対しての立ち退きは、命に関わります。なのに、入居者の方は住むところを失うことになることを知って驚きました。調べてみると事の発端は、このルールの意味がわからないことにありました。
当時の政府は、こういうことが起こらないようにルールを作っていたのではないか、断片的に残る20年前の議論の痕跡をかき集め、頭の中を20年前に巻き戻しこのルールの趣旨・目的、そして、意味を見つける研究をしています。
偶然の出来事で、人は簡単に住居を失ってしまいます。お金があれば別の住居に移り住むこともできますが、それができない人はどうすればいいのでしょうか。命が失われても仕方ないのでしょうか。憲法25条によって、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとされ、生存がおびやかされることがないことが保障されています。この理念が1951年に作られた公営住宅法に体現されています。
日本では、住居は自己責任という考え方が根強くあります。しかし、住居は医療や福祉と同じく、命に関わり、社会生活の基盤となります。住む場所が確保されることで、私たちは今を安心して生きていけます。公営住宅の研究を通じて、居住をおびやかされている人が、等しく住む場所を確保できるようにすることによって、不況・天災・感染症などのリスクに負けない持続可能な街を作ることはもちろん、そのことに裏付けられた強力な経済、いきいきとした社会を作り上げることができます。
「応能応益賃料・借上げ公営住宅に関する公営住宅提供契約の効力の解明」
菱田雄郷
東京大学 法学部/法学政治学研究科 総合法政専攻・法曹養成専攻
【民事訴訟法】東北大学の学生の時に、本当に学問の何から何まで教わり、一晩中話に付き合っていただきました。今この仕事をしているのは、先生の存在なしには語れません。
吉田邦彦
北海道大学 法学部 法学課程 法専門職コース/法学研究科 法学政治学専攻
【民法】私の北海道大学時代の先生です。吉田先生の民法はとにかくスケールが広く、人と人との関係が民法だということを実践しています。世界水準で民法を勉強しているのは先生だけだと思います。現場主義や今あるものを疑う批判的な視点を、徹底的に教えていただきました。
今野正規
関西大学 法学部 法学政治学科/法学研究科 法学・政治学専攻
【民法・リスク社会】本を読まずにまず考え抜く自分のやり方とは違って、読書の量や姿勢に刺激を受けます。社会学者とも対話ができるという意味で、法学におけるこの分野の第一人者と言えます。
学生さんの感覚では「引っ越し」はささいなことでしょうが、高齢者には、今までの人生の積み上げを否定されるかのようなインパクトを与えてしまうことがあります。卒業後に自治体などで住宅支援に携わる方もいるでしょうし、ほとんどの人が将来、身近な高齢者の引っ越しに関わるでしょう。転居が人の生死に関わることがあるということを、よく説明するようにしています。
◆主な業種
(1)法律・会計・司法書士・特許等事務所等
(2)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(3)自動車・機器
◆主な職種
(1)法務、知的財産・特許、その他司法業務専門職
(2)営業、営業企画、事業統括
◆学んだことはどう生きる?
専門分野を生かした職業についている卒業生は、やはり、法曹分野(特に弁護士)が多いように思います。医療機関から依頼を受けてアドバイスを行う弁護士をしている卒業生もいます。民法は、人と人との関係においての基本となる法律ですから、医師と患者の法律関係、あるいは医療機関と卸売りの関係についても基本的な法律となります。
法学部はとにかく教員の人数が多く、関心を持っていることがらについて専門に勉強している人がいるというところが強みだと思います。私の専門分野の民法に関しては、消費者問題、リスク、住宅や差別、家族問題など生活に根ざした勉強や、先端的な勉強(教科書の範囲から外れるような勉強)をしている教員が多いように思います。
ゲーム理論 どんなケースでも「最高の選択」ができる“勝つための戦略”
松井彰彦、清水武治(三笠書房)
個々の人々みんなが自分にとって最善の行動を取ることによって、最終的には最悪の結果がもたらされてしまうなどの現象を、科学的にわかりやすく書いている本です。問題が生じるメカニズムがわかれば、解決方法もわかります。そういった社会科学の基礎はもちろんのこと、生き方のコツを教えてくれます。
この本を読んでから日常を送ると、「あっ、これはあの本に書いてあるあれだ!」と気づくことが多くあります。私は大学院生のときに、何冊もゲーム理論の本を読んでは難しさにあきらめましたが、この本は門外漢の自分に考え方の基礎を教えてくれました。ですので、ゆっくり線を引きながら読めば、高校生の皆さんでも十分に読むことができます。
排除と差別の社会学
編:好井裕明(有斐閣選書)
差別か差別ではないか。このような論争がよく生じてしまうのは、差別が、認識されにくいというやっかいな性質を有しているからです。その原因のひとつは、差別が当たり前になっている場合には、差別そのものが見えなくなるということにあります。自分もとらわれており、見えなくなっているという差別という現象を、どのように認識していくのか。それを見つけていくのが、この分野の研究の面白さだと思います。
著者たちによって、それぞれ自分の専門とする分野における差別の認識の方法が端的に描かれています。具体的なテーマに沿って検討がなされており、イメージがしやすく、短く、それでいて、深く考えさせられる本です。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? やはり、法学です。今しているような直接人助けになる研究ができるので法学がいいと思います。 |
|
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? オーストラリアです。オーストラリアは多文化主義でおおらかで、暮らしているだけで人の本当の好意に触れることが多くありました。 |
|
Q3.熱中したゲームは? 自分の人生はゲームとともにありました。小学校1年の時に『スーパーマリオ』が、3年生の時に『ドラゴンクエスト』が、『ファイナルファンタジー』が…。今でも、『モンスターハンターワールド』、『グランツーリスモ』など、法学部一番のゲーマーであることを自負しています。 |
|
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 大手パン会社で、クリスマス前日にケーキをコンビニなどに届けるという仕事をしたことが印象的です。 |
|
Q5.研究以外で楽しいことは? 料理です。うどんは製麺機で作りますし、納豆なども作っています。 |